OT園通園日記

車椅子生活の母を老人ホームへ訪ねる日々。でもそればかりではいられない!日常のあれこれを書いています。

サンマ祭り

2007年10月07日 | 母のこと
昼前にOT園へ行き、母と散歩に出かけた。
車椅子が軽くなったので、押して歩く私はとても楽になった。
気持ちの良い秋晴れ、空気に金木犀の香りが交じっている。
枝を見ると、びっしりと着いている花は、まだつぼみの状態。
「栴檀は双葉より芳し」というけれど、金木犀も、つぼみのうちからこんなに強い香りがするのだなあと、気がついた。

グルッと一回りして、OT園に戻ると、昼食の時間。(まあ、そういう時間を見計らって出かけているんだけど…)
テーブルの母の席の横に立って、お盆が運ばれてくるのをおしゃべりをしながら、待っていた。

後ろのテーブルから、不安そうな声が聞こえる。
「クウちゃんがいない。クウちゃんはどこに行ったの?」
これはうちのクチャくんのことではなくて、このfuji子さんが以前飼っていた猫ちゃんのことらしい。
母の入居以来、顔なじみになっている方だけれど、いつも不安になると猫をさがして大きな声を出していらっしゃる。
職員さんの反応は、その時々で様々なもの。
「ハイ、ここにいたわよ」と猫のぬいぐるみを渡していたり、「今捜しているから、ちょっと待ってて」だったり。
もちろん、「ここにはいないでしょ!」と正攻法でなだめられていることもある。

ところが、今日の介護士さんの答えはなかなかのもの。
「あのね、今日はサンマ祭りがあるんだって。だからクウちゃんは朝早く出かけたのよ。張り切って行ってきますって言ってたわよ」
思いがけないこの答えに、fuji子さんも「エ~ッ、そうなの。サンマ祭りたのしそうだねぇ」と気がそれた様子。
この介護士さんは、いつもニコニコして、とても明るい方。
その後も、「私の食事が来ない」といらつくfuji子さんに、「今くるから待ってて。fuji子さんには、スペシャルランチ頼んでおいたから、楽しみねぇ~」と相手をしていた。

「サンマ祭り」という答えを聞いたとき、私はなんだか涙が出そうになった。
アルツハイマーで不安の強いfuji子さんが悲しいわけでもなく、介護士さんの言葉が特別に感動的だったというのでもない。
「サンマ祭り」という言葉の響きが、なんとものんびりと穏やかなものだったからだろうか。
fuji子さんの猫のクウちゃんが、シッポを楽しげにあげて、ゆらゆらと左右に振りながら、いそいそと「サンマ祭り」に出かける光景が頭の中に浮かんだのだ。
(この時のクウちゃんは、なぜか村上春樹著「またたび浴びたタマ」にでてくる、友沢ミミヨさんのイラストの猫の顔をしていた)