エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

激動の自動車業界は、戦略の機動的展開が生死を決める

2011-09-09 00:05:44 | Weblog
ここで、電気自動車という”破壊的イノベーション”に直面した自動車各社の戦略を整理してみたいと思います。
電気自動車に積極的な日産自動車やGMは、先行者利益を確保すべく、自社に有利なような電気自動車に関する標準化の推進、業界先駆者としてのポジションも確立などを目指していると考えられます。他方、中堅メーカーである三菱自動車や富士重工業は、自社の限られた経営資源を電気自動車集中投下することで生き残りを図ろうとしているのでしょう。2次電池メーカーの中国の比亜迪(BYD)は、必ずしもその主戦場を電気自動車という車両の世界だけに限定せず、PC業界におけるインテルのような基幹部品プレイヤーとして、業界の覇権を狙っていると見ることができます。
トヨタ自動車やホンダは、当面はプリウス、インサイトなどのハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー(pHEV)に集中し、電気自動車市場開拓には慎重な姿勢を見せていますが、こうした姿勢は、自社にとって現在の競争優位性を確保しながら、新しいビジネスモデルの構想・構築を慎重に見極めていると見ることができるのではないでしょうか。スズキもフォルクス・ワーゲンと資本提携し、環境技術の分野での協力を進めています。
激動の自動車業界においては、戦略の方向性をどのように見定めるか、状況の変化や進展に応じて、如何に機動的に戦略を転換するかが、生き残りのため必要不可欠となっています。

中国電気自動車メーカーの雄、BYD

2011-09-08 06:41:16 | Weblog
中国の電気自動車メーカー“Small Hundreds”の雄は、08年末世界に先駆けて、量産型プラグインハイブリッドカーを販売し話題になった比亜迪(BYD)です。BYDは、95年に20人の従業員でスタートし、その後、電池生産や携帯電話機生産を経て自動車生産に乗り出し、現在はグループ全体で13万人の従業員を抱える巨大企業に成長しています。
 BYDは広東省深センに本社を置くメーカーで、香港証券取引所に上場しています。事業内容は充電池、携帯電話、自動車の製造販売で、リチウムイオン電池生産では世界第2位、中でも携帯電話機用電池生産では世界最大の生産量を誇ります。また、携帯電話機やノートパソコンなどIT製品の部品生産と組み立ても行い、ノキアやモトローラの携帯電話機器のOEMも手掛けています。
 最近では自動車部門の成長が著しく、同社の売り上げの55%を占めるまでになっています。同グループが自動車生産に乗り出したのは03年で、陜西省の西安秦川汽車の倒産時に同社を買収して子会社BYDオートを設立しました。
 BYDオートの販売台数は、広東省に本社を置く主要自動車メーカーの中では、東風日産に次いで第2位。同社の車の販売は低価格車の投入で急増しており、F3という1500ccクラスのセダンを5万7,000元(約75万円)で販売し、月間販売台数が3万台前後という空前の売れ行きをみせています。
 また、得意とする充電式二次電池技術を駆使して、08年末には世界初の量産型プラグインハイブリッド車F3DMを販売し、話題になりました。ただ、F3DMは、官庁や企業向けに少量出荷されただけで、むしろBYDは純粋な電気自動車の開発に注力しています。自社開発した鉄電池(リチウムフェライト電池)を搭載した電気自動車「e6」の販売を09年末に開始しました。BYDの電池技術の開発では、夜間の安価な電気を使って充電し、昼間はこの電池を電源に使用して工場やオフィスを稼働させる実験を進めてきました。鉄電池による充電ロスは7%で、高効率で充電でき、廃棄時の環境負荷が小さく、製造コストも安価な点を強調しています。
 BYDは10年3月、ドイツの自動車王手ダイムラーとエコマーの共同開発に関して協議していくと発表しました。両社は、ダイムラー車をベースに独自ブランドで販売を目指します。合弁会社の設立も検討しており、投資総額は1億ユーロを超える規模です。さらに、高精度の金型製造能力を有する日本の金型大手メーカー、オギハラの館林工場を10年4月に買収するなど、グローバルビジネス展開も活発化させています。
アメリカの著名投資家のウォーレン・バフェットによる投資や創業者の王伝福氏が保有資産で中国一の富豪となるなど、BYDはマスコミにも常に話題を提供しています。今後とも目が離せない存在です。

太陽光発電ビジネスには世界レベルの構想力が必要

2011-09-07 06:18:41 | Weblog
太陽光発電の潜在需要は地球規模にあり、日本の1億人市場ではなく、世界の市場を見据えた構想力が問われています。太陽光発電を切実に必要としているのは、CO2排出量削減の手段に使おうとする日本などよりむしろ、インドやアフリカなどの新興国です。発電所や送電線網の整備が追いつかず、不便な暮らしを強いられてきた人々にとって、自宅や集落に設置すれば電力の恩恵を受けられる太陽光発電は魅力的です。家庭の電源、集落の灌漑(かんがい)用水を引くポンプの電源などとして急速に普及する可能性があります。逆に、この構想力の実現に成功すれば、太陽光発電の発電コストの大幅な低下が見込まれます。
例えば、グラミン銀行は、バングラデシュの貧困層向けの低金利小額融資(マイクロファイナンス)で注目を集めていますが、そのグループ企業のグラミン・シャクティはグラミン銀行と同様、営利を追求しない「社会的企業」で、再生可能エネルギーによる農村部の電化を推進しています。主力商品はソーラー・ホーム・システムと呼ばれる小規模の家庭用太陽光発電システムです。バングラデシュの農村部において、テレビに加えて携帯電話が急速に普及していることに伴い、それらに対する電力を供給するためシステムとして販売が拡大しています。
こうした観点から日本企業の戦略を見ると、日本メーカーは主に先進国、新興国をターゲットにしている企業が大半ですが、異色なのは、新興国市場の開拓を宣言している昭和シェル石油です。同社は、株主であるサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコと組んで、12年から中東やアフリカなどで1000〜2000キロワット級の太陽光の小規模分散型電源を設置し、大規模電源のない地方都市や集落で電力を販売する事業に乗り出す計画です。
 昭和シェル石油・サウジアラムコ連合による太陽光発電事業は、「BOP」(ベース・オブ・ピラミッド=ピラミッドの底辺)ビジネスへ発展する可能性も秘めています。仮にアフリカの低所得国でも事業が軌道にのれば、インドや東南アジアなど世界全域で通用する道が開けます。60億人の世界人口のうち1日2ドル以下で生活するBOPは40億人以上(うち、アジアが30億人以上)ですが、これまで市場経済から取り残されていた40億人が、実は市場として十分成立するという認識が最近高まっています(最近は、「ネクスト・ボリュームゾーン」、「ポスト新興市場」ということで論調が展開されています)。USAID(アメリカ国際開発庁)やUNEP(国連開発計画)などによる支援プログラムを活用して、インドで1日分のシャンプーや食品を低価格で販売するビジネスで急成長する英ユニリーバ系のヒンダスタン・リーバ、バングラデシュで低価格栄養食品販売に乗り出した仏ダノン、農村向けに煙のでない低価格キッチンストーブの生産・販売を始めたオランダ・フィリップスなどが注目される動きです。日本勢では、オリセットネット(蚊帳)によるマラリア防止に取り組む住友化学などがあります。
もちろん、BOPビジネスの成功のためには、それに適したビジネスモデルの開発が必要不可欠です。太陽光パネルの相当のコストダウンが必要ですし、メンテナンスを含めた販売・サービス機能を充実も必要です。さらに、ODA(政府開発援助)を推進する政府、国際機関、NPO・NGO、社会的企業等との連携を図ることで円滑なビジネス展開を行うことも必要です。しかし、太陽光発電の世界市場の状況をみると、北米市場が縮小気味の中、中国などの新興国では現地メーカーの猛烈な追い上げを受けて日本企業の世界戦略を取り巻く環境は不透明な状況です。世界の市場を獲得するハ-ドルは高いことは事実ですが、いったん太陽光発電でBOPビジネスのビジネスモデルの構築に成功した企業が膨大な需要をつかみ、”破壊的イノベーション”の担い手となって世界市場におけるドミナント企業に成長する勝機は十分あります。

8月31日の日刊ゲンダイに『節電社会のつくり方』 の書評が掲載されました。

2011-09-06 05:52:59 | Weblog
『節電社会のつくり方』 加藤敏春著

 震災と原発事故で直面する日本の電力不足とエネルギー危機を日本はどう乗り越えていくべきかを考察した啓蒙書。
 ただ電灯を間引きしたり、エアコンの設定温度を上げるだけの対策では、日本社会が縮小すると指摘。短期的には「省エネの見える化」を進め、エコポイントと組み合わせて家庭を巻き込んだ節電行動を拡大。そして、そうした節電社会を維持しつつ、ICT(情報通信技術)を取り入れた新しい「スマートグリッド(賢い、洗練された電力網)」の整備と全国展開でエネルギー供給体制を作り変えていく必要性を説く。
 3・11後のエネルギーと社会を展望した必読書。

 角川書店

求められる総合エネルギー企業への脱皮

2011-09-05 00:03:24 | Weblog
エネルギー源が石油から再生可能エネルギーおよび天然ガスに変わると、エネルギーの供給体制が変わることになります。メガソーラーを除けば、太陽光発電、風力発電等の普及とは、自家発電の拡大にほかなりません。これは、従来電力会社が行っていた発電用エネルギー源の調達が需要家サイドに移行することを意味します。
これまでのエネルギー業界は、電力会社、ガス会社、石油会社という縦割り構造の中で「仕切られた競争」(compartmentalized competition)を行ってきました。そこでは、電力会社は送配電網を使って電気を、ガス会社はガス配管を使ってガスを、石油会社はガソリンスタンド等を通じて需要家にエネルギーを供給し、境界を越えて競争することはありませんでした。しかし、再生可能エネルギーの広範な導入や1995年以来の電力自由化の進展により、こうした「仕切られた競争」に基づいた業界秩序が崩れつつあります。
燃料や供給プロセスの転換といった根本的な変化が起こる中で、従来の業界ごとの垣根に基づいたサプライサイド指向の体制では、市場のニーズに柔軟に応えることは難しくなります。例えば、自家発電設備を持っている需要家に対するサービスは、系統電力と自家発電が連携したほうが顧客のニーズに対応しやすいはずです。しかも、20年あるいは50年に向けて、人口の減少に加えて、産業部門の省エネ、家庭やオフィスにおける省エネ・創エネ機器の導入が急速に進むことなどを考えると、エネルギーに対する需要量は大きく減少していくことが予想されます。
こうした中で新しいエネルギー体制として求められているのは、低炭素、低コストなどの顧客のニーズを起点として、顧客にソリューションを提供するようなビジネスモデルへの転換です。海外での発電事業やガス供給事情に進出するというグローバル戦略の本格的展開も必要となります。電力会社、ガス会社、石油会社は、エネルギー分野の垣根を越えた総合エネルギー企業へと脱皮し、顧客ニーズに的確に対応するという今までにない構造転換が求められています。

石油企業は生き残る道を見つけられるか

2011-09-01 06:15:20 | Weblog
ガス会社以上に危機感を持っているのが石油会社です。石油会社は、08年9月のリーマンショック後の世界不況、人口減少などによる需要低迷の打撃を強く受けて苦渋しています。09年3月に資源エネルギー庁が策定した13年度までの5年間の石油製品需要見通しでは、年平均で3.5%減、5年間全体で16.4%減と予測していましたが、消費者の「車離れ」、「石油離れ」のマインドは根強く、09年秋の時点ですでに5年後の需要レベルに落ち込む状況になっています。
石油企業にとって収益基盤の柱であるガソリン販売も上向かない中、過剰設備対策、収益性の高い石油化学部門の強化などの経営努力とともに、10年4月の新日本石油と新日鉱業ホールディングスの経営統合を始めとした合従連衡、業界再編をさらに加速化させなければいけない状況になっています。
問題はもっと深刻です。「ピークオイル」の到来や地球温暖化問題は石油企業の足元そのものを揺るがしており、さらに前述した電気自動車時代の到来は、自動車業界のみならずガソリンを供給する石油企業に対してもビジネスモデルそのものの変革を迫っています。
今や石油企業の収益基盤の屋台骨がぐらついているのが実情で、再生可能エネルギーの導入を加速することで、石油に代わる新たな収益源の確保・ビジネスモデルを早急に構築することが生き残りの前提となっています。既に石油元売り会社では、昭和シェル石油や新日本石油(10年4月に持ち株会社であるJXホールディングスが発足しており、その下に7月よりJX日石日鉱エネルギーが発足することになっています)などが太陽電池事業の展開、急速充電池の開発・実証、バイオ燃料への取組みなどに向けて動き出しており、たとえば新日本石油は、ガソリンスタンドを活用して電気自動車用のインフラを整備する実証事業を行っています。電気自動車に急速充電をする設備を設置し、複数の人で車を共同利用するカーシェアリングの実験も実施しています。新日本石油は、将来の水素社会をにらんだ燃料電池や大型照明やディスプレイ用の有機ELの開発も積極化させています。
またコスモ石油は、10年3月に風力発電国内4位のエコ・パワー(東北、北海道などの25拠点で計117基、約12万キロワットの風力発電設備を運営。加えて、愛媛県で12基が運転を開始)を買収し、風力発電事業に進出することを決定し、エコ・パワーの親会社、荏原から保有する全株式を1円で取得しました。エコ・パワーの売上高15億円程度ですが、08年度は15億円程度の最終赤字です。09年度は黒字転換する見込みですが、累積負債約100億円を抱えています。今回のコスモ石油の決定は、1円で買収する代わりに負債をすべて引き受けるもので、縮小する石油関連事業に対するコスモ石油の危機感を象徴しています。
しかし問題は、こうしたビジネスモデルの転換が間に合うかということです。需要が5年間で16.4%減少するということは、国内第3位の昭和シェル石油の取扱量がそっくりそのまま消える規模です。さらに、「ピークオイル」の到来が12年ごろ、遅くとも20年までと言われる状況下で、変革のスピードが問われています。石油企業が生き残るかは、戦略展開の俊敏性いかんにかかっていると言えます。