エコポイント&スマートグリッド

省エネ家電買い替え促進で有名となったエコポイントとスマートグリッドの動向を追跡し、低炭素社会の将来を展望します。

太陽光発電ビジネスには世界レベルの構想力が必要

2011-09-07 06:18:41 | Weblog
太陽光発電の潜在需要は地球規模にあり、日本の1億人市場ではなく、世界の市場を見据えた構想力が問われています。太陽光発電を切実に必要としているのは、CO2排出量削減の手段に使おうとする日本などよりむしろ、インドやアフリカなどの新興国です。発電所や送電線網の整備が追いつかず、不便な暮らしを強いられてきた人々にとって、自宅や集落に設置すれば電力の恩恵を受けられる太陽光発電は魅力的です。家庭の電源、集落の灌漑(かんがい)用水を引くポンプの電源などとして急速に普及する可能性があります。逆に、この構想力の実現に成功すれば、太陽光発電の発電コストの大幅な低下が見込まれます。
例えば、グラミン銀行は、バングラデシュの貧困層向けの低金利小額融資(マイクロファイナンス)で注目を集めていますが、そのグループ企業のグラミン・シャクティはグラミン銀行と同様、営利を追求しない「社会的企業」で、再生可能エネルギーによる農村部の電化を推進しています。主力商品はソーラー・ホーム・システムと呼ばれる小規模の家庭用太陽光発電システムです。バングラデシュの農村部において、テレビに加えて携帯電話が急速に普及していることに伴い、それらに対する電力を供給するためシステムとして販売が拡大しています。
こうした観点から日本企業の戦略を見ると、日本メーカーは主に先進国、新興国をターゲットにしている企業が大半ですが、異色なのは、新興国市場の開拓を宣言している昭和シェル石油です。同社は、株主であるサウジアラビアの国営石油会社サウジアラムコと組んで、12年から中東やアフリカなどで1000〜2000キロワット級の太陽光の小規模分散型電源を設置し、大規模電源のない地方都市や集落で電力を販売する事業に乗り出す計画です。
 昭和シェル石油・サウジアラムコ連合による太陽光発電事業は、「BOP」(ベース・オブ・ピラミッド=ピラミッドの底辺)ビジネスへ発展する可能性も秘めています。仮にアフリカの低所得国でも事業が軌道にのれば、インドや東南アジアなど世界全域で通用する道が開けます。60億人の世界人口のうち1日2ドル以下で生活するBOPは40億人以上(うち、アジアが30億人以上)ですが、これまで市場経済から取り残されていた40億人が、実は市場として十分成立するという認識が最近高まっています(最近は、「ネクスト・ボリュームゾーン」、「ポスト新興市場」ということで論調が展開されています)。USAID(アメリカ国際開発庁)やUNEP(国連開発計画)などによる支援プログラムを活用して、インドで1日分のシャンプーや食品を低価格で販売するビジネスで急成長する英ユニリーバ系のヒンダスタン・リーバ、バングラデシュで低価格栄養食品販売に乗り出した仏ダノン、農村向けに煙のでない低価格キッチンストーブの生産・販売を始めたオランダ・フィリップスなどが注目される動きです。日本勢では、オリセットネット(蚊帳)によるマラリア防止に取り組む住友化学などがあります。
もちろん、BOPビジネスの成功のためには、それに適したビジネスモデルの開発が必要不可欠です。太陽光パネルの相当のコストダウンが必要ですし、メンテナンスを含めた販売・サービス機能を充実も必要です。さらに、ODA(政府開発援助)を推進する政府、国際機関、NPO・NGO、社会的企業等との連携を図ることで円滑なビジネス展開を行うことも必要です。しかし、太陽光発電の世界市場の状況をみると、北米市場が縮小気味の中、中国などの新興国では現地メーカーの猛烈な追い上げを受けて日本企業の世界戦略を取り巻く環境は不透明な状況です。世界の市場を獲得するハ-ドルは高いことは事実ですが、いったん太陽光発電でBOPビジネスのビジネスモデルの構築に成功した企業が膨大な需要をつかみ、”破壊的イノベーション”の担い手となって世界市場におけるドミナント企業に成長する勝機は十分あります。