ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

波紋

2024年01月23日 | 映画みたで

監督 荻上直子
出演 筒井真理子、光石研、磯村勇斗、キムラ緑子、柄本明、津田絵理奈、木野花

 荻上監督ほど、荻上直子のこれ1本を選ぶのが難しい映画監督はない。荻上映画は長編デビュー作の「バーバー吉野」以降、「恋は五・七・五」以外全部観てきたが、どの作品も捨てがたい。
 前作「川っぺりムコリッタ」もみょーな映画であった。幸せではないが不幸でもないけったいな人たちが出てきた。
 今回はみょーなところもあるが、摩訶不思議な側面はなかった。主人公は中年の主婦だがこの主人公のおかれた身の上の気の毒さは理解できる。
 須藤依子の夫は10年前に失踪した。大きな地震があって原発の放射能漏れが恐れられていたころ、夫は妻と子を捨てて、なんの前ぶれもなく消えた。
 それから10年。庭は夫の趣味の派手な植物がいっぱいの庭から、枯山水の庭に変わっている。依子はていねいに庭に波紋を描く。
 夫は癌にかかったという。保険適用外の薬のお金を出してくれという。夫が失踪後も義父を介護し看取った。息子は成人して九州で働いている。
 依子は夫失踪後、「緑命会」という新興宗教に入信して「緑命水」なるサギまがいの水に頼って生きている。息子も突然6歳年上で障碍者の彼女を連れて帰宅。彼女は妊娠しているという。
 と、いうこと。さあ、依子はどうする。笑って踊らなしゃあないやんか。ともかく主演の筒井真理子が、泣いて、怒って、困って、狂って、泳いで、歌って、踊って、笑っての大熱演。荻上直子の新境地であったが、独特の色づかいは今回も楽しめた。極彩色の庭から白と黒だけの枯山水の庭へ。ラストは夫が死に出棺のあと、雨の中をずぶぬれになりながら依子がフラメンコを踊り狂う。赤い傘をさし、白い砂の上で黒い喪服。喪服の裏地は真紅。大笑いの後依子は踊る。お~れ!