ごろりんブログ

雫石鉄也のブログ

リンカーン・ハイウェイ

2024年07月02日 | 本を読んだで
エイモア・トールズ 宇佐川晶子訳   早川書房

 分厚い本である。679ページのハードカバー。でも、お話は決して重厚ではない。主要な登場人物4人は10代の少年。4人のうち3人は間違いを起こし更生施設に入っていたが最近出てきた。
 主人公(というより主人公格といった方が正鵠を得ている。この小説少年4人が主人公だ)は18才のエメット。まじめ正義感が強い。シェークスピア俳優の息子でエメットよりは世慣れているダチェス。金持ちの子で少し浮世ばなれしているウーリー。この3人が18才。あと1人。エメットの弟で8才のビリー。ビリーは読書家で物知り。この4人が物語を駆動させる。
 エメットとビリーのワトソン兄弟の父はいくばくかの財産と1台の車を残して死んだ。母はサンフランシスコにいる。兄弟は今住んでいるアメリカ中部のネブラスカから大陸を横断するリンカーン・ハイウェイを愛車スチュートベーカーで走って、母のいる西海岸まで会いに行こうとする。ところが後で施設を出たダチェスがスチュートベーカーを無断借用。ウーリーと二人で東部のニューヨークに行ってしまう。ワトソン兄弟はダチェスとウーリーを追って、貨物列車に無賃乗車してニューヨークをめざす。
 この4人の少年が軸だが、この少年たちにからむ脇役が面白い。ワトソン兄弟の幼なじみのガールフレンドで料理上手なサリー。ニューヨーク行きの貨物列車で知り合った、うさん臭い「牧師」ジョン牧師。ずっと貨物列車で無賃の旅を続けている親切な黒人ユリシーズ。そして秀逸なのがエメットがダチェス捜索の手がかりを得ようと探すダチェスの父。それなりのシェークスピア俳優であったらしいが、ええかげんな男。映画でいえば画面には映らないがおもしろいキャラだ。ビリーが愛読している本の著者アバーナシー教授。ニューヨーク在住だからビリーが会いに行くと会ってくれた。この老教授も面白い。
 ぱっと見はロードノベルのようだが、いろんな人物がでてくる人間動物園なおもしろさだ。