団塊太郎の徒然草

つれづれなるままに日ぐらし

消費増税をして日本はどこに進むのか?

2013-10-02 09:31:07 | 日記
高橋洋一氏が増税後の日本政府にモノ申す

間近に迫った安倍首相による「消費税UPの決断」。もはや後戻りができないところまで、消費増税の道筋ができてしまっている。消費増税に向けた経済対策に盛り込むものとして、復興特別法人税の前倒し廃止も報道された。対策案では1年前倒しにし、今年度末で廃止。これにより約9000億円の財源が失われることになるが、この分を補正予算で一般会計から復興特別会計に振り替えて、復興予算を維持するという。財源を消費税に頼らず確保する方策があるにも関わらず、消費税増税ありきで進んでいる今、政府が本当になすべきことは何なのか。ZAi編集部は『めちゃくちゃ売れてるマネー誌ZAiが作った世界一わかりやすいニッポンの論点10』の著者であり、アベノミクスブレーンの高橋洋一さんに、消費増税後の政府の対応についてインタビューした。


先進国の中でも飛び抜けた金融資産を持つ日本

高橋洋一 1955年、東京生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980年、大蔵省入省。理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、総務大臣補佐官などを歴任したあと、2006年から内閣参事官(官邸・総理補佐官補)。2008年退官。金融庁顧問。2009年政策工房を設立し会長。2010年嘉悦大学教授。近書に『世界で一番わかりやすいニッポンの論点』(ダイヤモンド社)。

――先生のこれまでのお話を聞いていると、消費増税の理由となっている「このままでは日本は財政破綻する」という前提が少し疑問に思えてきましたが。

 デフレ脱却、景気対策、経済対策といった耳障りのいい言葉を隠れ蓑に、消費税増税が決定しそうな流れだが、そもそも日本はそこまで財政がひっ迫しているのか。国の財務諸表であるバランスシートをよく見てもらいたい。これをはじめて作成したのは、実は私だ。しかし国の借金が多く、財政再建が重要であると主張し続けている財務省にとって、バランスシートによって国の資産総額が明らかになるのは具合が悪かったのだろう。実際に政府が公表するまでに10年はかかった。

 2012年3月末時点のバランスシートでは、負債総額1088兆円に対し、資産総額は629兆円。IMF(国際通貨基金)などの国際機関では国の負債は資産を差し引いて見るのが普通だ、それでいくと、その時点での日本の債務は459兆円ということ。これは先進国においては、それほど問題視する額ではないのだ。

 さらに言えば、日本の資産629兆円のうち、428兆円が金融資産で、内訳としては現預金が18兆円、有価証券が98兆円。貸付金143兆円、運用委託金111兆円、出資金59兆円となっている。このうち運用委託金は年金資産だから動かせないとしても、貸付金、出資金はいわゆる特殊法人への資金提供だ。天下りの温床と問題になっているにも関わらず、ここにも手つかずの資金が眠っているのだ。これほどの金融資産は先進国の中でも飛びぬけている。

まずは資産売却で、天下り法人の廃止と国の資産のスリム化を図るべし

――つまり借金もあるが、先進国のなかでも有数の資産の持ち主でもあるということですか?

 そういうことだ。天下り先の特殊法人に流れている貸付金と出資金で200兆円。特殊法人を民営化すれば、この200兆円が国の負債解消に回せるだけでなく、民営化によって民間経済の活性化にもつながる。国の資産の売却は資産サイドのスリム化になるが、国債償還に回せば負債サイドのスリム化にもなるのだ。

 これまでデフレ経済のなかで、一般企業がリストラを行い、資産と負債の両面で経営を立て直そうとしていたのと同じことをすればいいのだ。それなのに手元資金は温存し、国債発行という借金だけ強調して、その穴埋めに増税をしようとするのか。手前みそにもほどがある。

消費増税の影響を甘く見るな。一時的な経済対策とは訳が違う

――しかし、消費増税が実施されるのはほぼ間違いないところまで来ていますが、せめて政府にしてもらいたい施策にはどういったものが考えられますか?

 まず最初に言っておきたいのは、消費税増税の3%分の税収は毎年8兆円程度だ。

 ただし税率UPは一時的なものではなく恒久的な措置だから、経済に与えるマイナス効果がジワジワと効いてくる。景気回復の腰折れを防ぐために、低所得者層にバラマキをしても、恒久的に給付するわけではない。一時的な手当をしても、恒久的な増税による経済の落ち込みを抑えられるわけがないのだ。

 5兆円の経済対策(これは一時措置)をすれば、2%が還元で実質1%の増税と言っているようなマスコミは、恒久措置と一時措置の違いを全く理解できていない。

 仮に、年8兆円の増税分を5年で考えれば40兆円の財源ができる。一方で、今年1月に10兆円の補正予算が組まれたが、これは国債整理基金という、これまた隠れ資産などを取り崩して作ったものだ。さらに20兆円の補正予算も国債整理基金から追加で組むことが可能だ。都合30兆円の財源があるのだから、これを何年かに分けて使い、景気後退を抑えるようにしたほうが、ずっと論理的ではないだろうか。

 もちろん、この予算は既得権益者を潤すために使うのではなく、本当に困った人に使うべき。たとえば、基礎年金分の保険料に充当すればいいのだ。基礎年金の運営費は年間20兆円ぐらいかかる。2年間にわけて使うとすれば、基礎年金部分の保険料は半分で済むのだ。このほうが、低所得者に1万円を現金給付するよりも、実になる話ではないか。

取りっぱぐれている税金、保険料で10数兆円は確保できる

――消費増税は低所得者層にとって不公平な税制という声もありますが、これに対する解決策はないのですか?

 消費税は低所得者層に不公平な税制だ。だから現金給付という発想になるのだが、税の不公平感を言うのであれば、徴収漏れをおこしている社会保険料と税金をなんとかすべきだ。国税庁と年金機構が把握している法人は年金機構のほうがずっと少なく、国税庁と80万件の差がある。この差が社会保険料の徴収漏れにつながり、その額は年間10兆円程度ではないかと推測できる。

 所得税なども国民総背番号制がないために、補足できずに税の不公平感を生んでいる。これがきちんと徴収できれば5兆円規模の増収が期待できる。消費税にしても、欧米では当たり前になっている「インボイス制」が導入されていないために3兆円程度の徴収漏れがあると思われる。社会保険料、所得税、消費税などの合計で10数兆円程度の不公平がある。これだけでも、消費税増税による税収8兆円を上回るのだ。それも恒久的な財源になる「埋蔵金だ」。

 個人番号制度の導入には個人情報の侵害につながるのではと根強い反対があるが、ようやくこの5月に法案が可決成立し、2016年1月から運用が開始されることになった。しかし、これだけではダメで、個人番号制度をもとに国税庁と年金機構の徴収部門を統合した「歳入庁」を創設することが重要だ。

 歳入庁で税と保険料の徴収を一元化するのは世界の流れであるし、行政の効率化にもつながる。システムの運用が懸念されるが、システムの構築がうまくいけば、預金の資金トレースが簡単にでき、脱税を見つけるのは今より、各段にラクになるはずだ。個人番号制度の導入は、消えた年金問題の記憶や大して利用できない住民基本番号など、悪い印象が国民のなかにあったからだが、当の財務省が大反対して前に進まなかった一面もある。国税庁を意のままに使いたいという思惑があるからだ。

 ここでも、財務省のカベがある。歳入庁の創設は、税収を増やす有意義な考え方なのだが、それよりも自分たちの権益が優先する。消費税増税は、財務省の思惑どおりに進むだろう。しかし、埋蔵金や隠れ資産の温存をわれわれ国民は許しておくべきでないのだ。