◇江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者(1976年 日本 76分)
監督/田中登 音楽/蓼科二郎
出演/宮下順子 渡辺とく子 中島葵 秋津令子 石橋蓮司 八代康二 長弘
◇誰しもが一度は撮りたい原作
「たぶんそれは一種の精神病ででもあったのでしょう」
原作からはかなり逸脱した観はあるけど、田中登なりの耽美さで乱歩の世界を描こうとすればこうなるんだっていう見本のような作品になってんだろうね。
乱歩は周期的に映像化されるけど、多くの場合、その出来栄えにがっかりする。ほんとにどうしようもない作品が羅列されちゃうんだけど、そうした中でこの作品はそれなりの異彩を放ってた。まあ実際、ピエロが登場するのもこれだけのような気もするしね。随所に感じるもどかしさっていうか。屋根裏という理想的な世界の美しさ、ピエロとのまぐあいの厭らしさ、人間椅子の官能さなどは滑稽さはありながらも幻想的な美しさがなければいけないのに低予算のせいか時代のせいかもどかしいんだな、なんとなく。
ところで、ぼくも乱歩には夢中になった。中学生の頃だった。講談社の金文字箱入り上製本の全集が毎月発刊されるのが楽しみで、かならず買い求め、ひたすら読み耽ったもんだ。
『屋根裏の散歩者』もそうした中で読んだ。いかにも乱歩らしい独白調の作品で、その特徴的な文章に勝る映像はいまだに出会ってない気がするんだよね。