◇トスカーナの休日(2003年 アメリカ、イタリア 113分)
原題 Under the Tuscan Sun
staff 原作/フランシス・メイズ『イタリア・トスカーナの休日』 原案/オードリー・ウェルズ
監督・脚本/オードリー・ウェルズ 製作/オードリー・ウェルズ トム・スターンバーグ
撮影/ジェフリー・シンプソン 美術/スティーブン・マッケイブ 音楽/クリストフ・ベック
cast ダイアン・レイン サンドラ・オー リンジー・ダンカン ラウル・ボヴァ マリオ・モニチェリ
◇花を捧げる老人が好い
マリオ・モニチェリっていう映画監督なんだけど、これは話の要所に出てくるだけ。
で、トスカーナ地方の町コルトーナでのおとなのおとぎ話。
人って、恋愛や結婚にやぶれると、なんでか知らないけど旅に出ちゃいません?
ていうか、そういう設定が多いかもしれないんだけど、
古今東西、なんかそういう映画の多い気がする。
そこで、この映画。
作家にして評論家のダイアン・レインは、
しこたま儲けたお金を、夫とその愛人と生まれてくる子供に譲り渡し、
傷心のマンション暮らしをしていたところ、女友達から貰ったチケットで旅に出、
売りに出ていた廃屋をひと目で気に入り、修復している内に、
やっぱりアメリカから旅行に出てきた作家と恋に落ちて新たな生活を…、
てな話なんだけど、まあ、ご都合主義かどうかは別にして、
廃屋はダイアン・レインの見立てなんだよね。
ぼろぼろになった築300年の洋館と、アラフィフの女、
でも、磨けば、見違えるほど素敵になるんだから、
人生、ため息ついてちゃダメなんだよって。
そんなことわかってるし、トスカーナの綺麗なところで家がさっと買えて、
しかも、近所の人達は言葉も通じるし、朗らかで好い人だし、
なんていう設定だったら、ぼくだって旅に出ますがな。
だけど、これは、廃墟の家の塀にいつも花を捧げる老人を観てもわかるように、
おとなのおとぎ話なんだから、こまかいことを突っ込んだらいかんのです。
ところで、
この洋館は「ブラマソーレ・太陽に焦がれる者」っていう、
いかにもイタリアらしい名前なんだけど、
ここにかぎらず、
廃墟と見まごうばかりの屋敷を改造するって、いいもんだよね。
その屋敷が悲しく打ち沈んでいるのがわかるから、
こんなにぼろぼろになるまで放っておくなんて、かわいそうじゃないかっておもうから、
自分の暮らしを傾けても修復してやりたいっておもう。
誰が喜んでくれるわけじゃない。
自分が満足したいから修復する。
道楽といわれればそれまでだけど、居ても立っても居られないから腰をあげる。
現実から逃避していたダイアンは、屋敷と出会った瞬間、
そういう気持ちになったんだろうね。
でも、それで屋敷が蘇り、喜び、神様に通じて、新しい出会いがあったんだろうね。
最後に、ちっとも出てくれなかった水道から水が流れ出すのは、
ブラマソーレが喜んで、ダイアンにご褒美をくれたんだっておもいたいわ。
あ、もちろん、屋敷がダイアンの見立てとするなら、
ほとばしる水は、彼女の再生にほかならないよね。