感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

リウマチ性胸膜炎

2013-04-12 | 免疫
長年のリウマチで手指変形もある高齢男性が、発熱と咳で入院された。当初は細菌感染も考え抗菌薬投与したが、細菌検査などで有意な結果なく胸水穿刺では、滲出性でグルコース低値、RF高値だったため、リウマチ性胸膜炎も考慮された。セレコキシブを増量して定期内服としたが効果不十分で毎週のように発熱を反復し、左右胸水量も変動激しい。診断と治療をどうしていくか? まとまった資料はあまりないが、文献を集めまとめてみた。



発生率
・解剖研究は、RA患者の38-73%で胸膜疾患を同定したが、わずか5-21%は胸膜炎を訴えていた、わずか5%が胸水の放射線学的証拠を持っていた 1)

・発症時の平均年齢は51歳(範囲35から69歳)
・胸水は長期活動性関節症状およびリウマチ結節を有する患者でより一般的
・リウマチ性滲出液症例の半数以上は皮下結節と相関
・胸膜の症状は高齢の患者でより一般的で、女性よりも男性でより一般的
・HLA/Dw3など特定のHLA抗原、晩期発症型のRA、高いRF値、および低い血清補体を持つ男性は、胸水を発症する素因 2)


胸水検査
・胸水分析の目的は、滲出性であることの確認と、他の病因を排除すること
・外見は滲出性で無臭、曇った緑がかった黄色または乳白色。
・リウマチ性滲出性胸水の特徴は、 3)
グルコース濃度 10-50 mg/dLの範囲と低値、タンパク質 >4g/dL 高値、 単核細胞 100-3500/mm3、乳酸デヒドロゲナーゼ 高値(>700 IU/L), pH 低値, 総補体活性(CH50) 低下

・胸水グルコース血清グルコース比が0.5未満
・通常のグルコース濃度はほぼリウマチ胸膜疾患の可能性を除外する
・グルコース値は長期貯留滲出液にてより低くなる。経時的に減少し時には10 mg/dlあたりに減少
・80%以上で、グルコース濃度が50 mg / dL未満
・低グルコースのメカニズムは、膿胸や悪性腫瘍でのグルコース消費増加とは対照的に、血液から胸膜腔に耐糖輸送の結果であると考えられている 2)
・正常血清グルコース濃度にもかかわらず、胸水で25 mg/dl以下のグルコース濃度は、細菌や抗酸菌が存在しない場合には、RA性の実質的診断である
・感染による膿胸は、同様の胸水の特性を有し、特にグルココルチコイドを服用している患者では、グラム染色と培養によって除外されるべき
・pHレベルは一般的に7.2未満。 pH低下は、糖代謝亢進と乳酸産生と二酸化炭素蓄積(胸膜腔からのCO2排出減少)を伴い、胸腔内にて進行中の炎症を反映
・pH値がさらに低いときは感染の可能性を提起する。
・その他の生化学的なパラメータとして、
 正常値上限の2倍以上の乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)レベル、 低補体と免疫複合体レベル、およびRF力価は高く(>1:320)血清力価を超える
・高胸水RFレベルは、胸膜滲出液のリウマチ起源を強く示唆
・いくつかのケースでは、末梢血単核細胞によるRF合成の非存在下における胸膜組織及び胸水単核細胞によるRF合成の証拠を記録。この知見は、慢性リウマチ性胸水が関節外免疫複合体病であることを示唆。 2)
・全補体活性とC3とC4のレベルは、非リウマチ性胸水に比べ、RA胸水にて低くなっている

・総脂質やコレステロール高濃度(>1,000 mg/dl)は、いくつかのリウマチ性滲出液で観察され、高脂質含量のためリウマチ性乳び胸水(偽性乳糜胸)を形成。壊死した胸膜下リウマチ結節の破裂に起因するかもしれない
・アデノシンデアミナーゼは、結核性胸膜炎のための特定のテストとして提案されてきたが、それは、リウマチや結核性胸水の両方で上昇するため、2疾患を区別することはできない。 2)


胸水細胞診
・胸膜生検は、結核や悪性腫瘍など、他の疾患を除外するのに役立つかもしれない
・細胞診では、巨大な多核マクロファージ、細長いマクロファージ、顆粒状debrisの背景、の特徴的三徴を明らかにするかもしれない。 ある研究ではこれら所見のうちの1つ以上がRA胸膜炎患者に存在し、その他大多数の非リウマチ性胸水では見られなかった 4)


臨床経過
・通常は関節症状の発症後に発症する
・症状や徴候が発生した場合、胸の痛みおよび/または発熱が最も一般的
・咳はしばしば基礎となる肺疾患の存在を示し、患者の三分の一までに存在
・胸膜異常は滲出性胸水、膿胸、気管支瘻、または膿気胸を含む

・胸水は20%で疾患晩期(全身性疾患の発症後10年以上で発達)の所見である
・ それは心と眼病変の高い有病率に関連付けられているものの、胸膜疾患の存在は、より重篤な全身性疾患にリンクされていない


レントゲン所見
・胸部X線では、胸水は25%で両側性
・胸水は、最も一般的に一側性であるが、両側性または渡り鳥migratory胸水が報告
・胸水は通常は少量または中等量で、時に大量
・患者の最大30%で、同時に実質病変を持つ (間質性肺疾患またはnecrobiotic結節)、同時気胸は約5%で発生


診断
・リウマチ性胸水はRAの一般的な主要な症状ではあるが、胸水の存在がリウマチ関連であると仮定すべきではなく、心不全(慢性心筋病変に対する潜在的二次)、膿胸、悪性腫瘍も考慮する必要がある 5)
・リウマチ性胸水の診断は、詳細な病歴と身体診察(他の原因を除く)、男性、50歳以上の年齢、長年の関節炎、
皮下結節の存在、と胸水解析、の組み合わせ。
・SLEとの鑑別は、共存する関節炎と胸水の患者では挑戦的。 ループス滲出液はリウマチ性滲出液とは、リウマチ因子力価は存在しないか低値(1:40)で、グルコース濃度は80 mg/dLを超え、LDHレベルは<500 IU/lで、pH>7.35、 で区別される。 3)

・胸膜生検はRA胸水患者では普通は推奨されない。まれに胸膜リウマチ結節が実証され診断的である
・胸膜生検は、リウマチ結節に見られるものと同一の非特定または肉芽腫性炎症反応を示し、臨床的に壁側胸膜を伴う胸膜炎として現れる 5)
・胸腔鏡は、時にはリウマチ性滲出液疑いの評価において貴重なデータを提供。 胸腔鏡での壁側胸膜の粒状の外観と胸腔鏡下生検から得た組織の組織病理学的変化はしばしば診断的である。


治療
・リウマチ性胸膜炎の経過は様々。
・ほとんどの場合、胸水は無症状であり、具体的な治療を必要としない。
・一般的に自発的に解決し、リウマチ性胸膜炎と胸水は通常1~36ヶ月の間に、特別な治療を必要としない (14ヶ月平均)
・リウマチ性胸膜疾患における治療の有効性にはほとんど報告された情報がない。
・非ステロイド系抗炎症剤NSAIDsは、胸膜炎初期治療で十分かもしれない。
・経口NSAID治療に反応しない患者に対する最適な治療法は明らかではない
・時には、胸水は、リウマチ性関節疾患の治療にて解決する
・一部の患者はコルチコステロイドに反応する、しかし反応しない患者もいる、さらに胸水は維持療法ステロイド療法にもかかわらず、再発する可能性がある。

・胸水が難治性であるならば経口グルココルチコイド使用を考慮: 症例報告によると、中用量(例えば、プレドニゾロンを毎日10-20mg)で有益かもしれない。改善されればグルココルチコイドは再発を防ぐために徐々に減量されるべき。 1)
・患者が全身性グルココルチコイドの副作用に耐えられないなら、胸腔内グルココルチコイド投与 (例えば、デポ•酢酸メチルプレドニゾロンの120-160 mg)を考慮。 1)

・大きな、症候性の胸水の場合、治療法は、胸腔穿刺単独、胸腔内コルチコステロイドまたは線維素溶解剤の注入、経口コルチコステロイドを含む全身の免疫抑制の増強、から成るかもしれない。単一の方法は優れた成果を生むことが示されていない。 2)
・繰り返される穿刺吸引は胸水を制御するために使用されている。
・時折、永続的な症状の胸水や胸膜肥厚は肺剥皮術を必要とする
・胸膜腔に繰り返されるコルチコステロイド注射の役割が疑問視されている。 3)


予後
・リウマチ性胸水は50%で4週間以内に解決し、患者の三分の二で4ヶ月以内に解決する。しかし、約20%で数年間持続する。
・著名な生化学的異常を伴う再発性または長期間の胸膜滲出液は、最終的に胸膜肥厚、胸膜空間の閉塞と肺の制限、につながる可能性がある
・すべての患者の約19%、男性の24%に胸膜肥厚を含む、瘢痕性胸膜炎の後遺症が、発生することが確認


文献

1) Overview of lung disease associated with rheumatoid arthritis. UpToDate. last updated: 4 30, 2012
2) Danielle Antin-Ozerkis, Pulmonary Manifestations of Rheumatic Disease. Pulmonary Manifestations of Rheumatoid Arthritis. Clinics in Chest Medicine, 31(3) P.451-78, 2010
3) Susan E. Sweeney, 70 – Clinical Features of Rheumatoid Arthritis. Kelley's Textbook of Rheumatology, 9th ed.
4) Bouros D. Pleural involvement in systemic autoimmune disorders. Respiration. 2008;75(4):361-71.
5) H. Massey. Thoracic complications of rheumatoid disease. Clinical Radiology, 68 (3) P.293-301,2013

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。