感染症・リウマチ内科のメモ

静岡県浜松市の総合病院内科勤務医ブログ

ESBL産生菌とPIPC/TAZ(ゾシン)治療について

2014-10-03 | 感染症

当科では血液培養陽性例の確認とチェックをしていますが、ときおり広域スペクトルβ-ラクタマーゼ(ESBL産生菌がみられピペラシリン·タゾバクタム(PTZ)で治療している例も見受けられます。臨床経過を追いながら随時カルバペネムを推奨していますが、実際のところ効くのでしょうか?

サンフォードガイドみますと表5AのEBL産生菌のコメント欄に 「感受性はあってもPIPC/TAZは避ける」 となっています。その引用文献を含めいくつか最近の文献を調べまとめてみました。

キーワードは 細菌接種効果、ESBL以外の耐性機構、PK/PD目標、のようです。 しかし当院でもそうですが、細菌同定感受性の自動化機器ではMICは<16のSとしか結果をくれませんので、PTZ治療のための前提条件としてMICの手動測定の必要性がでてくるのかもしれません。

以前のブログ(ESBL産生大腸菌治療にβラクタマーゼ配合βラクタム剤) もご覧ください。

 

まとめ

・ESBL産生腸内細菌のブレイクポイント基準は、

  CLSIでは、PTZは ≤16 mg/L 、EUCASTでは  ≤8 mg/L

 

・Retamarらの、ESBL産生大腸菌による菌血症の患者を持つ39人へのPTZの影響の調査では、尿路感染症の11名では菌のMICに関係なくすべてが生存した。他の感染症では30日死亡率は、高いMICを持つ分離株の症例は、≤2mg/LのMIC分離株例より高かった (41.1%対0%、P =0.02)  臨床徴候でのSIRS重症度による層別化はあまりMICと死亡率との関係を修正しないようだった。

 

・Tsai HYらの、ESBL産生プロテウス·ミラビリスによって引き起こされる菌血症の治療での、カルバペネムとPTZの比較試験では、カルバペネム治療21例はPTZ治療の13名よりも30日死亡率、または院内死亡率は低かった(それぞれ、23.1%対14.3% P =0.65、 30.8%対19.1% P =0.68)。 PTZによる治療のうち、より低いPTZのMIC(≤0.5 /4 mg / L)分離株による感染者の死亡率は、≥1 /4 mg / LでのMICと分離株のよりも低かった (0/7対3/5、P =0.045)。

 

接種効果inoculum effectとは微生物の多数が暴露される場合、抗菌薬のMICが増加する検査室現象である。ESBL産生クレブシエラ(ESBL-Kpn)肺炎のマウスモデルにおいてin vivoでの接種効果がMEPMとPTZ治療において評価された。すべてのMEPM治療マウスが生存し、肺内の細菌負荷量減少あり血液中浸潤はみられなかったのに対し、高接種材料モデルではPTZ治療したグループ内のすべてのマウスは死亡した。

・菌血症の臨床研究においてどの感染症が多く含まれるかで結論も変わってくるかもしれない。感染症肺炎などは高い接種材料モデルで、尿路感染はむしろ低い接種材料感染症であり、また胆道系感染は外科的介入によって接種材料の減少を達成することができる。

 

・Rodríguez-Bañoらは、ESBL産生性大腸菌の菌血症の治療の6つの公開された前向きコホート研究の事後解析を行い、アモキシシリン-クラブラン酸(AMC)とPTZまたはカルバペネムを比較した。交絡因子の調整後には、経験的治療または  根治治療と死亡率の増加のいずれも間に関連付けは認められなかった。

 

・Zimhonyらは、PTZ治療中にCTX-M-2及びOXA-2産生クレブシエラによって引き起こされる人工弁心内膜炎を有する患者において耐性の発現による治療の失敗を報告した。ESBL産生腸内細菌がTEM-1やSHV-1、OXA-1の産生の過剰生産などのような追加的な耐性機構の結果としてBLBLI耐性であり得る。Pitoutらは Vitek自動化システムは、特にCTX-M-15 - 及びOXA-1産生大腸菌の場合に、PTZ耐性を検出できないことがあるとの報告している。

・国ごとの調査によって、ESBL間のCTX-MおよびSHV-12、そしてAmpC酵素 などの有病率は異なる。

 

・関心のある一つの質問は 分離株MIC とBLBLI用量で、確率モデルでは、ESBLに対するPK/PDを達成する確率(time above MIC > 50%)は4500mg/ 6時間にて、分離株MIC ≤8mg / Lである場合は99%である一方で、MIC=16 mg / Lのとき はわずか57%であることが示されている。

 

参考文献

Antimicrob Agents Chemother. 2013 Jul;57(7):3402-4.

Diagn Microbiol Infect Dis. 2014 Jul 26.

Clin Microbiol Infect. 2014 May 11.

Clin Infect Dis. 2012 Jan 15;54(2):167-74.

Clin Infect Dis. 2012 Jan 15;54(2):175-7.


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2 コメント

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地域での集計も必要? (motoyasu)
2014-10-05 11:21:28
昨年の土井先生の論文のように、重症度によってはCMZの使用もありと思いますが、血培陽性ですので、まずはテキスト通りにMEPMにしたいところです。PTZについてはローカルファクターもあるでしょうから、この地域のデータを集計する必要があると思います。市中膀胱炎でESBL E.coliがみられたことがありますが、感受性のないSTで軽快したことがあります。市中の膀胱炎では、抗菌剤なしでも改善することがあるので、幸運だったと思います。グラム染色では区別がつきませんが、ごくまれなことと考えています。
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ローカルファクター (志智)
2014-10-05 14:26:02
コメントありがとうございます。胆道系感染や尿路ではゾシンでいけている例もやはりあり、経過よければ介入しないこともあります。地域データは欲しいですね。ただ当院のように自動同定機器による施設も多いでしょうから、正確なMICは把握されていないのではないでしょうか。今度 浜松耐性菌研究会(10/14)があるのでできれば聞いてみます。
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