崩壊が始まる
人間を傀儡にして
複数の鬼で操っていた
馬鹿が建てた銀色の塔が
うらめしいと言いながら
だんだんと傾いでゆく
なぜおれを造った
なぜおれをこんなものにした
いやだ いやだ
おれがおれであるのが
とてつもなくいやだ
月光の下に立つ塔は
身をふるわせながら
馬鹿が造った自分自身から
必死に逃げようとする
魂があえいでいる
もう二度とこんなものになりたくない
月光は塔を濡らし
産婆のように 塔の中から
悲哀の魂を取りだす
それは風に託され
神がまだ秘めている
誰も知らない宇宙にさらわれてゆくのだ
人類は 王者になりたかった
人類は 神になりたかった
故にあの銀の塔を造った
だがそれはもう
魂のないもぬけのからの
馬鹿にしか見えないのだ
どんなに美しい光で飾ろうとも
それはない方がよいものとしか
見えないのだ
哀れな馬鹿め
崩壊が始まる
馬鹿が造ったあらゆるものから
魂が鼠のように逃げて行く
ああ あんなものになるのは
いやだ いやだ
絶対に いやだ
馬鹿の正体がばれる
あふれるほど金を注いで造った
銀色の都市が黄昏の中でまるごと馬鹿になる
人間はまだ気づかない
気づいた時にはすべてが遅い
阿呆らめ
いつまで眠っているつもりなのだ