コメント(私見):
私の勤務する病院の医師談話室には、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、中日新聞、信濃毎日新聞、医療タイムス、Japan Medicineなどの主な全国紙、地方紙、業界紙が毎日届きます。診療の合間に、それらの新聞をいろいろ読み比べています。
医療事故に関する報道で、『医療ミス』とか、『誤診』とか、一方的にセンセーショナルな大見出しがついているものの、何回記事を読み返してみても、どこが医療ミスなのか?どこが誤診なのか?さっぱり理解できないような場合もあります。そういう時は、各紙の同じ事故を取り扱った記事を読み比べてみると、それぞれの担当記者の考え方によって、『重大な医療ミス事例』という取り上げ方であったり、『結果は重大であったが、医療ミスがあったかどうかに関しては、現段階では不明』という取り上げ方であったりと、記事のニュアンスがそれぞれ全く異なる場合も少なくありません。
(例えば、大野病院事件の報道など、)産婦人科関連の医療事故の記事の場合だと、自分の専攻している分野なので、記事を読んだ瞬間に「これは変だ!」と直感的にピンとくることもあります。しかし、他の診療科に関する記事の場合だと、一体全体、何が問題なのか?もよくわからないことが多いので、医師談話室でくつろいでいる他の診療科の先生方に「これはどうなっているの?」と聞いて詳しく解説してもらわないことには、門外漢にはさっぱり理解できません。
昨今の医療裁判の報道記事を見ていると、医学的には理不尽な理解しがたい判決も少なくないように思われます。それが医療崩壊を促進しているとも考えられます。医療事故の原因を究明するための公正な第三者調査機関を新設する必要があると多くの人が考えています。厚労省でもそれが検討されていて、新制度創設の準備が着々と進められている段階のようです。
「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」に関するご意見の募集について 【厚生労働省医政局総務課医療安全推進室】
****** 朝日新聞、2007年3月9日
「医療事故調」の報告公表 医療機関に還元 厚労省試案
医療中の死亡事故の原因究明を行う医療版「事故調査委員会」設置に向けた厚生労働省の試案が8日、明らかになった。臨床医や弁護士らで構成する調査・評価委員会(仮称)を国か都道府県に設置。聞き取り調査を実施し、臨床経過などを評価したうえで作成する調査報告書は公表する。調査結果を医療機関に還元することで、再発防止を図る狙いだ。4月にも立ち上げる有識者検討会で、医師法改正を含めた制度設計を進める。
試案では、医療機関に対して死亡事故の届け出の義務化を検討。届け出を受けた調査・評価委員会が、解剖やカルテ調査、関係者の聞き取りなどによって死因を調べ、臨床経過や診療行為などを評価する。作成した調査報告書は、医療機関と遺族に渡すとともに、個人情報は伏せて公表する方針だ。
報告書で医療機関側の過失責任が指摘された場合には、国が速やかに行政処分を下す仕組みを設けるとともに、報告書を民事訴訟や刑事訴訟に活用する仕組みも検討する。
このほか、遺族からの申し出を受けて調査を実施することや一定規模以上の死亡事故以外も調査対象とすることなども検討対象とする。
この試案は9日、自民党の「医療紛争処理のあり方検討会」(座長・大村秀章内閣府副大臣)と社会保障制度調査会医療委員会の合同会議に示される。
(朝日新聞、2007年3月9日)
****** 共同通信、2007年3月9日
「医療事故調」で意見募集 厚労省、4月20日まで
診療行為に関連して患者が死亡した場合の原因究明に当たる第三者組織創設について、厚生労働省は9日、同省がまとめた素案について国民から意見を募るパブリックコメントを同日から4月20日まで実施すると発表した。
素案は患者が死亡した場合、臨床医や法律家で構成する調査組織が医療機関から届け出を受け、独自に遺体の解剖や関係者からの聞き取りを行い報告書をまとめるとの内容。
国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会の「医療版」といえるもので、記者会見した同省医政局総務課の二川一男課長は「変死体や殺人など犯罪が疑われるケース以外は、調査組織への届け出を義務付けるような仕組みを考えたい」と話した。
同省は4月にも医療関係者や弁護士、患者団体らでつくる検討会を設置。報告書がまとまり次第、必要な法整備に取り組みたいとしている。
(共同通信、2007年3月9日)
「診療行為に関連した死亡の死因究明等のあり方に関する課題と検討の方向性」に関するご意見の募集について
****** 産経新聞、2007年3月9日
「医療版事故調」創設へ 届け出義務付け 厚労省試案
厚生労働省は9日、診療行為の中で起きた不審死(医療関連死)について第三者機関が原因を調べる新たな組織を設置し、届け出を義務付ける試案を公表した。医療版の事故調査委員会とも言える組織で、今後、国民の意見を募るとともに、4月から専門家による検討会をスタートさせ、平成22年度の新制度開始を目指す。
新組織は解剖医、臨床医、法律家からなる調査・評価委員会と事務局で構成。解剖やカルテの調査、関係者からの聞き取りを行い、医療関連死の原因を究明する。
調査結果については、評価委員会が評価した上で報告書を医療機関と患者の遺族に提供。事故の再発防止に役立てる。新組織には中立・公平性が求められるため、国や都道府県などの行政機関か、行政機関の中の委員会として設置する方針。
医師法では病死ではない異状死の場合、医師に24時間以内の警察への届け出を義務付けており、医療関連死についても医療機関は警察に届け出ていたが、捜査に直結する警察への届け出をためらう医療機関も多かった。
新組織は医療関連死について一元的に原因究明を行う方針。暴行、薬物使用の形跡や交通事故が疑われるケースについては警察に届け出る。
届け出の対象となる医療関連死の定義を明確にするため、厚労省は「医師法と新組織の関係を整理する必要がある」としている。届け出なかった場合の罰則規定についても検討する。
(産経新聞、2007年3月9日)
****** 読売新聞、2007年3月9日
医療事故にも調査委設置へ、厚労省が素案
厚生労働省は9日午前、新設を検討している医療版の事故調査委員会の素案を公表した。
医療ミスなどによる死亡事例の速やかな原因究明と再発防止を目的にしている。政府は2010年度からの制度開始を目指しており、来年の通常国会にも関連法案を提出する方針だ。
調査委員会は行政機関と位置付けられ、医師や法律家ら専門家で構成する。遺体を解剖したり、病院にカルテなどの証拠類を提出させたりする権限を持ち、半年から1年程度で事故原因を分析した調査報告書をとりまとめる予定だ。報告書に基づいた迅速な医師の処分や、遺族への補償が実現すると期待されている。
病院など医療機関は、調査委員会への死亡事例の届け出が義務化され、暴行や毒物の使用などが疑われる事件性の高い事例を除けば、警察の捜査よりも委員会の調査を優先させることを目指している。全国の死亡事例に対応するため、地方ブロック単位などで地方組織も整備する方針だ。
医療ミスをめぐっては、現行の警察中心の原因究明では、必ずしも事故の再発防止につながらず、医師に重大な過失があっても裁判で有罪が確定するまで、医師免許の停止など行政処分ができないなどの問題点が指摘されていた。
厚生労働省によると、医療が原因とみられる原因不明の死亡事例は全国で年2万件で、うち2000件程度は医療ミスが原因とみられている。
(読売新聞、2007年3月9日)
****** 毎日新聞、2007年3月9日
厚労省:医療死届け出義務化 事故防止へ調査委設置----試案発表
厚生労働省は9日、医療事故の死因究明に関する「課題と検討の方向性」(試案)を発表した。診療行為中、予期せぬ形で患者が死亡した場合、医療機関に届け出を義務づけ、必要に応じて解剖や検査、関係者への聞き取りなどを実施するといい、医師や法律家などで構成する「調査・評価委員会」(仮称)を新設して調査を委ねる。同日から意見を一般募集し、有識者による検討会を4月に設置し、次期通常国会で新法の制定や関連法の改正をしたい考えだ。
医療事故の死因究明については、現在は専門調査機関はなく、刑事事件や民事の医療訴訟で一端が明らかになるだけだ。第三者による調査機関の創設を望む声が高まり、日本内科学会が05年9月から調査分析のモデル事業を開始。柳沢伯夫厚労相も昨年10月、衆院厚労委で、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会に類似した専門家機関を作る意向を表明していた。
試案によると、調査組織の単位は全国や地方ブロック、都道府県など幅広く検討。中立、公平性、秘密保持の観点から、行政機関か行政の中に置く委員会が検討されている。調査報告書は医療機関と患者の遺族に提供し、個人情報を削除しての公表も提案している。
検討が必要な課題としては、▽死亡に至らない事例を届け出や調査の対象にするのか▽遺族の申し出で調査を開始するのか----などが列挙された。【玉木達也】
(毎日新聞、2007年3月9日)
****** 読売新聞、2007年3月8日
医療事故死 届け出義務化、究明組織 素案まとまる
医療版の事故調査委員会の新設を検討している厚生労働省は、医療事故による死亡事例の届け出の義務化などを盛り込んだ素案をまとめた。
医療事故死に関し、新組織が一元的に原因究明にあたることを念頭に置いたもので、この素案をたたき台に、来月設置される検討会が本格的な議論をスタートさせ、2010年度の新制度開始を目指す。
新しい制度は、診療行為中に患者が予期しない形で死亡した事例について、調査組織が解剖や診療録(カルテ)の精査などにより原因を調べる仕組み。
素案によると、医師と法律家が調査結果を評価した上で、報告書を医療機関と患者の遺族の双方に提供。医師に過失があると認められた場合は、厚労省が医師の業務停止などの行政処分を速やかに行う。該当する死亡事例については、医療機関に届け出を義務づける方針で、届け出を怠った場合の罰則も検討する。
現在、死因究明を目的とした届け出制度は設けられていない。医師法21条に基づき、医療事故による死亡事例が「異状死」として警察に届けられるケースは多いが、捜査を目的としているため、迅速な死因究明や再発防止には必ずしも結びついていないのが実情だ。
これに対し、新制度導入後は、届け出の義務化を前提に調査組織が一元的に原因究明を担当し、暴行や毒物使用の形跡があったり、交通事故が疑われたりする場合について警察に届け出るという役割分担案が、同省内で検討されている。
また、調査組織には高度な中立性が求められることから、公益法人としたり学会に置いたりするのではなく、厚労省や都道府県に設置するか、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会のような委員会組織にする案を軸に検討を進める。
****** 共同通信、2007年3月8日
独自に解剖、聞き取りも 「医療事故調」素案判明 刑事訴追との関係課題 厚労省、4月にも検討会
医療行為に関連して患者が死亡した場合の原因究明に当たる第3者機関創設について、厚生労働省がまとめた素案の全容が7日、明らかになった。医師や法律家で構成する「調査・評価委員会(仮称)」が現場に駆けつけ独自に解剖や聞き取り調査をし、報告書を作成、結果を再発防止に役立てることなどが柱で、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会の「医療版」。
厚労省は国民の意見を募るとともに、4月にも専門家による検討会をスタートさせるが、刑事訴追の可能性があるケースの取り扱いなど検討課題は多く、関係者間の調整は難航も予想される。
医療事故をめぐっては近年、民事訴訟が増加する一方、医師の刑事責任が問われるケースも目立つ。昨年、妊婦死亡をめぐり福島県立大野病院で医師が逮捕、起訴された後は、医療現場が司法に強く反発するなどし、中立・専門的な機関の設置を求める声が強まっていた。
素案によると、創設される機関は解剖医や臨床医、法律家からなる調査・評価委員会と、事務局で構成。中立、公正性や秘密保持が求められるため、行政機関か行政機関の中の委員会として設置するとしている。全国または地方ブロック単位とするか、都道府県単位とするかは今後検討する。
調査は、日本内科学会が実施しているモデル事業を参考に(1)死因を究明するため解剖、画像検査、尿・血液検査を実施(2)診療録の調査や関係者の聞き取り(3)結果を評価、検討(4)報告書の作成(5)報告書を当事者に交付し個人情報を削除して公表-を例示。結果を再発防止に役立てることも検討する。設置には必要な立法措置をとる。
ただ、医師は異状死を24間以内に警察署に届け出ることが義務付けられている(医師法21条)ことから「新たに創設する制度との関係を整理する必要がある」と指摘。刑事訴追の可能性がある場合の調査結果の取り扱いや、報告書を民事訴訟などでどう活用するかも課題としている。
警察庁によると、医療事故の届け出は1999年ごろから急増し、立件は99年の10件から2006年には約10倍の98件に達した。04年には日本医学会加盟の19学会が第3者機関創設を求める共同声明を出している。
医療事故と原因究明
医療事故の民事訴訟では医学的な専門知識が求められる上、鑑定人の確保も難しく、長期化する傾向がある。訴訟は遺族側の負担が重いばかりでなく、訴訟の多い診療科では医師のなり手が少ないともいわれる。医師が刑事責任を問われるケースが相次いだこともあり、厚生労働省は事故の原因究明に当たる第3者機関の創設を検討。日本内科学会のモデル事業を参考にし、昨年6月からは医師法21条(異状死の届け出義務)の解釈などについて法務省、警察庁と協議を始めた。英国や米国の一部、豪ビクトリア州などでは、手術や麻酔関連死の多くが異状死として届け出られ、専門の検視官などが解剖、死因究明にあたる制度がある。
制度実現にハードル多く
【解説】医療ミスか、それとも努力を尽くした上での死だったのか。医師と遺族が対立し、刑事手続きや民事訴訟に委ねるしかなかった医療事故の原因究明について、厚生労働省は7日、"医療版・事故調査委員会"創設の素案をまとめた。実現までのハードルは多いが、実効性ある制度としてスタートする日が待ち望まれる。
航空機や鉄道事故では現場の物証や長年にわたる調査活動の蓄積があり、原因特定につながりやすいとされる。これに対し医療事故は、患者一人一人の特性や思わぬ容体の変化など要因が複雑に絡み合い、因果関係が分かりにくいことが多い。
人手不足もある。日本内科学会は2005年9月から、全国7都道府県で同様のモデル事業を実施しているが、運営委員からは「解剖専門医の育成を」との声が上がった。大都市以外では、不足はもっと深刻だろう。
厚労省の素案では、医師側が届け出ることを前提に、遺族からの届け出を認めるか、遺族をどの範囲とするか、死亡に至らない事故も対象に含めるのかなども検討課題として列挙されている。
訴訟などに費やされてきた医師と遺族双方の負担を軽減し、納得できる結論が得られ、事故の再発防止にもつながる仕組みをどうやって作り上げるか。立場の違いを超えた議論が望まれる。
素案要旨
厚生労働省がまとめた第3者機関創設素案の要旨は次の通り。
【組織の在り方】
診療に関連した死亡の死因を究明する組織は、中立性・公正性や臨床・解剖などに関する高度の専門性、調査権限、秘密保持などが求められるため、行政機関または行政機関の中に置かれる委員会を中心に検討する。監察医制度などとの関係を整理する必要がある。
【組織の設置単位】
全国または地方ブロックか、都道府県単位。都道府県や地方ブロックの場合は、支援や調査結果の集積・還元のため中央機関の設置も検討。
【組織の構成】
解剖担当医や臨床医、法律家で構成する「調査・評価委員会」(仮称)と、実務を担う事務局で構成。人材育成も検討。
【届け出制度】
届け出先や、対象となる診療関連死の範囲を具体化し、医師法21条の異状死の届け出との関係を整理する必要がある。
国または都道府県が届け出を受け付けて組織に調査させるか、組織が自ら届け出を受け付ける仕組みが考えられる。
【調査手順】
モデル事業を参考に、例えば(1)必要に応じ解剖、画像検査、尿・血液検査などを実施(2)診療録の調査、関係者への聞き取り調査をし、臨床経過や死因を調査(3)調査結果を調査・評価委員会で検討(4)調査報告書の作成(5)報告書を当事者へ交付、個人情報を削除して公表-が考えられる。死亡に至らない事例や遺族からの申し出による調査開始、解剖の必要性の判断基準なども検討。
【再発防止】
再発防止のための対応として、診療関連死に関する知見や再発防止策の集積と還元、行政機関による指導を検討。
【行政処分、民事紛争、刑事手続きとの関係】
医療従事者の過失責任の可能性が指摘されている場合の、国による迅速な行政処分との関係、報告書の活用などによる民事紛争解決の仕組み、刑事訴追の可能性がある場合の調査結果の取り扱いを検討。
(共同通信、2007年3月8日)
医療行為に関連した患者死亡の死因の究明が、警察によってではなく、中立的な第三者機関によって公正に行われるシステムが存在しないと、あぶなくて、産科、外科、救急などに従事することはできませんし、医療の崩壊も止まらないと思います。
確かに、現状では、同じ産婦人科医と言っても、世代によって、やっている診療内容がずいぶん違っているのは事実です。
特に、日本の産科診療の場合、同じく分娩を扱うプロフェッショナルと言っても、助産所、診療所、病院、周産期センターなど、それぞれの施設ごとに、診療内容の差が非常に大きいと思われます。
事故調査の判定を誰がやるのか?判定基準として何を根拠とするか?などによって、判定の結論が全く違ってしまう可能性もあります。判定基準が曖昧では困りますので、すべての産科施設が準拠すべき産科診療のガイドラインを作成する必要があると思います。
多くの人が意見を述べる必要があると思います。
家族の突然の死をなかなか受け入れられないというのは、人間として当然の感情だと思います。rijin先生のおっしゃるように、患者さんの御遺族の心の救済の問題は非常に重要だと思います。
この厚労省案では、患者さんとその遺族への心の救済の方法についてまったく欠落したものとなっています。紛争予防を通じた医療崩壊対策としては、最大の問題点かと思います。