SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

JUTTA HIPP 「with zoot sims」

2007年11月09日 | Piano/keyboard

まずジャケットが気に入っている。
このグラフィックを見ていると刈り取られた芝のある庭先を連想してしまう。一見手抜きに見えるかもしれないが、思い切ってこういうデザインを施すところがすごい。もちろんリード・マイルスの仕業だ。彼はもともとこういったフリーハンド的な図形を巧みに使うデザイナーであるが、こうした彼の感性に影響されたデザイナーも数多いのではないかと思う。私もその一人である。
ブルーノートにはアルフレッド・ライオン、フランシス・ウルフ、ルディ・ヴァン・ゲルダー、そしてこのリード・マイルスという才能溢れる人たちが揃っていたためにジャズのナンバーワン・レーベルになれたのだ。

次に特筆されるのが「VIOLETS FOR YOUR FURS(コートにスミレを)」の名演である。
ズート・シムズという類い希なジャズメンの真価がここに現れている。ズートの吹くテナーは実に暖かく、さりげなさの中に見事というしかないアドリヴを展開させている。
この曲はコルトレーンが初リーダー作でも演奏していてそちらもすばらしい出来なのだが、個人的にはズートの奏でる旋律の美しさ、テナーの音の美しさに軍配を上げたい。この曲に限ってはピアノもアルバム「コルトレーン」のレッド・ガーランドより、こちらのユタ・ヒップのソロの方が美しい。
このアルバムにはズート・シムズの他に、ジェリー・ロイドがトランペットで参加しているが、ロイドの存在はほとんど感じない。まるでズート・シムズのワン・ホーン・アルバムのように聞こえてしまう。それくらいズート・シムズの存在が大きいのだ。

最後にリーダーであるユタ・ヒップの存在である。
彼女は2003年の4月、78才でこの夜を去った。
もともと僅か数枚のレコードしか残さなかったために、彼女には若くして亡くなった優秀なジャズメンと同様のイメージがつきまとう。むしろ78才まで生き抜いたことに驚いてしまうのだ。
アルバム「At The Hickory House」には彼女が挨拶をする声が録音されているが、その物憂げな声が頭にこびりついて離れない。彼女は78年間、いったいどんな人生を過ごしたのだろうか。