goo blog サービス終了のお知らせ 

SENTIMENTAL JAZZ DIARY

感傷的ジャズ日記 ~私のアルバムコレクションから~

PEGGY LEE 「Black Coffee」

2007年10月04日 | Vocal

まだ学生だった頃、憧れに憧れたレコードだ。
このレコードを手に入れた時の嬉しさは未だに忘れられない。
まずこのジャケットである。
テーブルにはバウハウスで作られたようなデザインの真鍮らしきコーヒーポットと、マイセンかウェッジウッド製ではないかと思わせるカップが置かれ、その中にコーヒーが注いである。また脇には真珠のネックレスと赤いバラが配置されてセレブな雰囲気を醸し出している。全般的にコテコテな演出だということはわかってはいるがこのムードがたまらなく好きだ。
このジャケットは、50年代初期という時代が凝縮されているのではないかと思う。Black Coffeeというスクリプト系のタイトル書体もさりげなく写真にマッチしているし、全体にバランスの取れたレイアウトになっている。

このアルバムはペギー・リーの最高傑作として名高い作品だ。
タイトル曲の他にもいい曲がたくさん揃っているが、やはりこのアルバムは「Black Coffee」という曲に価値がある。
ピート・カンドリの目一杯怪しいミュート・トランペットに乗って、ため息をつくかのようなペギー・リーの歌が始まる。このジャケットを見ながら自分もその世界に浸る。Black Coffee~~ときたところで気分は最高潮。数年前にやめてしまったが、この時ばかりはタバコの一本も吸いたくなる。

考えてみればコーヒーに砂糖を入れなくても飲めるようになったのはいつのことだったろう。
小さい頃は砂糖無しのコーヒーなんてまずくて飲めたものではなかった。しかし大人になるためにはブラック・コーヒーが飲めなくてはいけないという今になってはばかばかしいと思える強迫観念があったのも事実である。その後背伸びして、まずいブラック・コーヒーをがまんして飲むようになり、それがいつしか慣れとなって日本茶のように飲めるようになったのではないかと思う。
このジャケットを見るとそんなことまで思い出す。
ジャズもこのブラック・コーヒーと同じである。最初は取っつきにくい音楽だと思っていても、しばらく聴き続けているうちにいつしかやみつきになってくる。
ジャズもブラック・コーヒーも私にとっては大人の象徴だった。だからこのアルバムに憧れたのだ。

NAT 'KING' COLE 「AFTER MIDNIGHT」

2007年09月27日 | Vocal

ポピュラー音楽界にはどの時代にも最高のエンターティナーと呼ばれるスーパースターがいた。
30年代後期~40年代前期はビング・クロスビー、40年代後期~50年代前期はフランク・シナトラ、50年代後期はエルヴィス・プレスリー、60年代はビートルズといった具合だ。
こうした人たちの歌声は今私たちが聴いても少しも古びてはいない。
ナット・キング・コールも同様だ。時代的にはフランク・シナトラと被っているが、正に双璧といってもいいくらいの人気者だっだ。
ピアノの腕だって超一流で、それだけでも充分有名な存在になった人だろうと思う。事実彼の弾き語りスタイルはその後のミュージシャンに多大な影響を与え続けている。
但しポップス系の歌も多く、「あれっ、この人ジャズシンガーだったっけ?」と思う人もいるだろう。私も彼の歌声を聴いているとジャズを聴いているという感覚が薄れていくことに気づくことがある。要するに気楽なムード、リラックスできる甘さがジャズが持つ特有の苦みを消しているのである。
このアルバムは彼が発表した作品の中でもジャズアルバムの最高傑作として名高いものだ。
しかしこの作品でさえ、聴いているうちにポピュラーミュージックを聞く耳になっていくのがわかる。決して悪い意味ではないが、これが嫌だという人もいるだろう。それを否定はしないが、それがナット・キング・コールの真骨頂であり、この部分を外しては彼の偉大さが理解できないはずだ。

個人的には軽快な5曲目の「IT'S ONLY A PAPER MOON」、ゆったりした6曲目の「YOU'RE LOOKIN' AT ME」、むせかえるようなラテンムード漂う7曲目の「LONELY ONE」、この3曲が大好きだ。いつもこの3曲を聴いて満足している。
バックはスイング系の大ベテランで占められている。
吹き込まれたのは56年だが、これをモダンジャズといえるかどうかは微妙だ。これこそジャンルを超えた傑作なのかもしれない。ジャズファン以外の方にもお薦めしたい作品である。

BETTY BLAKE 「in a tender mood」

2007年09月04日 | Vocal

こういうアルバムを買うときはだいたいワンパターンの行動になる。
まずジャケットを見る。ベティ・ブレイク、どこかで彼女の歌を聴いた気はするが顔を見ても思い出せない。しかしこの歌う表情を見てちょっといいかなと思う。「in a tender mood」というタイトルも単純だが気に入った。なぜ、といわれてもうまく説明できないが、何となくアルバム全体の雰囲気が伝わってくるような気がしたのだ。
次にジャケットをひっくり返して収録されている曲を確認する。まずよく見るとアレック・ワイルダーの曲が6曲も入っている。アレック・ワイルダーといえばフランク・シナトラやメル・トーメ、ジャッキー&ロイなどの歌でよく知られている。中でも目を引いたのが「MOON AND SAND」。この曲はチェット・ベイカーの名唱で有名だ。これでかなり食指が動く。
さらにバックの布陣を見てみる。ズート・シムズやマル・ウオルドロン、ケニー・バレル、チャーリー・バーシップなんかも参加している。ベツレヘム盤だから何も不思議ではないが、どうやらテディ・チャールズがプロデュースしているようだ。
テディ・チャールズはヴァイヴ奏者として演奏にも参加しているが、マル・ウオルドロンの大人気盤「Left Alone」を作るきっかけを作ったのがこの人だ。他に若き日のマイルス・デイヴィスやリー・コニッツらとも共演を重ねたベテランである。
これまでの行動ではこのアルバムをどうしてもほしいというところまではいかないが、後は半分賭である。この方法で失敗したケースもかなりあるが、このアルバムは期待を裏切らなかった。

ジャケットを見る限りもっと華奢なヴォーカルかと思えばベティ・ブレイクの歌声は堂々たるものだった。
さて問題の「MOON AND SAND」を彼女はどう歌うか、わくわくしながら聴いた。チャーリー・バーシップがチコ・ハミルトンのようなドラムを叩き、ケニー・バレルのギターがスパイスになっている。その中で彼女は怪しさを湛えたムードたっぷりに歌い出す。短い曲ながら印象に残る出来映えだ。
全体の雰囲気はというとクリス・コナーのアルバムを連想させる作品だ。この当時のベツレヘムの女性ヴォーカル盤はクリス・コナーが基準だったのだ。これはたぶん間違いない話だろう。
アルバムはもちろんモノラル。しかしこれが意外といい録音だ。モノラルにはモノラルの魅力があると思う。特にヴォーカルはその良さが顕著に出る。
大切なのは音の色艶なのだ。この作品の音は充分に艶っぽい。

NANCY HARROW 「ANYTHING GOES」

2007年08月22日 | Vocal

まったりする歌い方だ。
口を横に目一杯広げて歌うと彼女のような歌声になるかもしれない。
どことなくカントリーのような雰囲気もある。彼女の歌声を聴いていると土埃の上がる乾いた大地と強烈な草木の匂いがする。これがアメリカというものかと思う。
この雰囲気を創り出しているのが、ギターのジャック・ウィルキンスだ。
このアルバムは彼を大々的にフューチャーしており、そのギターの音色の上でナンシー・ハーロウが気持ちよく歌っている。

まず1曲目からちゃんと聴く。
ルーファス・リードの魅力的なベースだけを背景にした「ANYTHING GOES」で幕開けだ。ルーファス・リードといえば、レイ・ブライアントやケニー・バロンらと組んだトリオでの演奏が印象的だが、中でもケニー・バロンの「ザ・モーメント」での彼はすごかった。ここでもその時を彷彿とさせる深いベースの音を披露してくれている。
2曲目からはジャック・ウィルキンスを中心としたギタートリオがバッキングに廻る。
お気に入りは「I've got a crush on you」。この曲は最近だとステイシー・ケントも取り上げ、コケティッシュな魅力を振りまいていたが、ナンシー・ハーロウの歌声も実にいい味を出している。半分はこの曲の才能だとは思うが、何度聴いてもいい、そんな気にさせるナンバーだ。

話は変わるが、このところやたら忙しくなってしまい、このブログも毎日はとても更新できる状態ではなくなってきた。仕事柄これからの季節が一番忙しい時期なのである。何とぞご理解いただきたい。
しかし忙しいときにこそ欠かせないのが音楽である。幸いにしてデスクワークが多いのと、好き勝手な音楽を流しながら仕事ができる環境なので、その間も色々なジャズを聞き流している。特にインターネットラジオは重宝する。radioioJazzなどのジャズ専用チャンネルを流していると、知らないアーチストがどんどん出てくる。これをチェックするわけだ。
これが数年前からの私のささやかな楽しみの一つである。

ANN BURTON 「BLUE BURTON」

2007年08月09日 | Vocal

5曲目の「IT'S EASY TO REMEMBER」、6曲目の「YOU'VE CHANGED」、この2曲が愛聴曲である。
他の曲が決して悪いわけではないが、私にとってこのアルバムはこの2曲が全てなのだ。
「IT'S EASY TO REMEMBER」ではベースが主軸のスローナンバー。
これまで多くのジャズマンに愛され演奏され続けてきたこの曲は、ここに一つの頂点があるといえる。この曲はさらりと歌うことがコツであり、粘っこく引きずっては台無しだ。多くの場合、感情過多になりすぎて失敗するケースが多い中、アン・バートンは何のためらいもなくサビの部分までさらりと歌いきる。この清涼感がたまらなくいい。
「YOU'VE CHANGED」では、ドラムスのブラシが全体のムードメーカーだ。
いかにも涼しげな彼女の歌声とルイス・ヴァン・ダイクのピアノに、ピエト・ノールディクのハスキーなアルトが優しく絡んでいく。この絶妙な取り合わせがこのアルバムのハイライトになっている。

ヴォーカルはバッキングの善し悪しで決まるというが、これは正にその典型だ。
とにかくルイス・ヴァン・ダイク・トリオが見事なのだ。
このアルバムを聴くとおそらく10人に9人までが彼らのピアノトリオアルバムを聴きたいと思うようになる。
ルイス・ヴァン・ダイクはブルージーな感性の持ち主だが、彼のピアノの響き方が実にいい。ツボを押さえたように、ここぞというところで、これしかないというような音を出す。
またジャック・スコルズのベースもジョン・エンゲルスのドラムスも、しっかり自己主張をしながら自分の役目を果たしている。録音がいいからそういう風に聞こえるのかもしれないが、どうやらそれだけではなさそうだ。

私にとってオランダという国はピュアなイメージがある国だ。
それは多分にピム・ヤコブス・トリオとこのルイス・ヴァン・ダイク・トリオのせいである。

JANE MONHEIT 「Taking A Chance On Love」

2007年07月21日 | Vocal

ジェーン・モンハイトはデビュー作「Never Never Land」から聴いてきた。今から約7~8年前だと思う。
この頃は優秀な女性ボーカリストが次々と現れて、さながら一大ブームになっていた。
ここでも既にご紹介したダイアナ・クラールやジャシンサ、ステーシー・ケントはもちろん、カーラ・ヘルムブレクト、コニー・エヴィンソン、リサ・エクダールといった人たちに混じってジェーン・モンハイトもいた。

彼女のデビュー当時の写真を見ると結構太っている。それが今はどうだ、すっかりスリムになってどこから見ても文句のない容姿になった。こんなことを書くとあちこちからお叱りを受けそうだが、女性ボーカリストはやはりきれいなのに越したことはない。
もちろん彼女の魅力は容姿だけではない。確かな歌唱力を持っている。彼女の歌声を聴くたびに、相当下積み時代に苦労したのではないだろうかと想像してしまう。この歌唱力だけをとったら若手女性ボーカリストのトップに挙げられるだろう。
弾き語りのように楽器一本をバックに歌うとその歌唱力がものをいう。
1曲目の「Honeysuckle Rose」、クリスチャン・マクブライドの何とも魅力的なランニング・ベースをバックに彼女の美しい歌声が始まる。その歌唱力からくる安定感は本当に聴いていて気持ちがいい。
続く「In The Still Of The Night」は一転してストリングスをバックにした爽やかなボサノヴァだ。その後もバラエティに富んだ楽曲を並べて、さながらミュージカルを見ているような華やかさがある。
また「Bill」や「I Won't Dance」「Do I Love You?」等における彼女の歌声は古き良き時代をも思い起こさせる。他の若手女性ヴォーカリストとの決定的な違いはこのノスタルジックな雰囲気にあるのではないだろうか。プロデューサーの仕業か、かなり意識的にそうさせている節がある。これも絶対的な歌唱力があるからこそできることなのかもしれない。
そうした意味合いからしても、このジェーン・モンハイトは古いジャズファンにも新しいジャズファンにも自信を持ってお勧めできる人だ。
女性ボーカルは一度はまるとやみつきになるジャンルである。これからジャズを聴こうかと思っている人は、ここから入るのがいいかもしれない。



TERRY MOREL 「Songs of a Woman in Love」

2007年07月08日 | Vocal

いかにもベツレヘムのヴォーカル盤といえる内容だ。
何がベツレヘムらしいかというとこのレーベルの看板娘であったクリス・コナーによく似ているからだ。
伴奏も私の大好きなラルフ・シャロントリオが務めている。
このアルバムは、クラブ・モントクレアでのライヴ録音であるが、よく聴いていると会場内に熱狂的なファンがいることに気がつく。それほど大きなステージではないので拍手の数も数えられる程度だが、その中に一生懸命拍手する人間がいる。ひょっとするとクラブの人なのかもしれないが、ここは熱狂的なファンだと思いたい。
懸命に拍手する彼の気持ちはよくわかる。
テリー・モレルの歌声はさりげなく思わせぶりで、どことなく投げやりだ。この一見距離を置いたようなスタンスがたまらない魅力になって観客を虜にしているのだ。
またラルフ・シャロンのピアノが相変わらずいい。歌伴をやらせたらおそらく彼の右に出る者はいないだろうと思う。決して自己主張をせず、小気味のいいフレーズを転がる指で弾き流す。これは明らかに職人芸である。
バックにはもう一人、フルートのハービー・マンがいる。
彼もまたベツレヘムの代名詞のような人だが、シャロンのピアノややや重いモレルの歌声にジャストフィットしている。彼のバッキングのうまさも特筆したい。

テリー・モレルは知る人ぞ知るという存在だ。ヴォーカリストとしては短命に終わった人だからそれも頷ける。
但し売れなかかったために身を引いたのではなく、おそらく一身上の都合で舞台裏から消えた人なのだと思う。
その後の消息は知らない。
タイトル通りに、「恋する女の歌」をさらりと歌って消えたあたりが、いかにも彼女らしいともいえる。そんな歌声なのだ。

PAT MORAN 「THE PAT MORAN QUARTET」

2007年06月04日 | Vocal

こんなアットホームで小粋なカルテットは他に類を見ない。
パット・モランとベヴ・ケリーが出会った当時はデュオでステージに立っていたようだが、その後、歌も歌えるベーシストとドラマーを加えてこのカルテットが誕生した。50年代半ばのことである。
このパット・モラン・カルテットは、いわばフォア・フレッシュメンやマンハッタン・トランスファーのようなスタイル(混声コーラスグループ)と、スインギーなピアノトリオの魅力を兼ね備えたグループだといえる。
彼女らが一躍有名になったのはスコット・ラファロが参加した「This is PAT MORAN」からかもしれないが、個人的にはヴォーカル中心のこのアルバムや「While At Birdland」が、彼女たちのオリジナリティが感じられて好きだ。

このアルバムは全12曲で構成されているが、内4曲はヴォーカルなしのピアノトリオで演奏されている。この全体構成がまたいい。全ての曲にヴォーカルを入れると聴く方も集中力がなくなってしまうが、適度なタイミングでピアノトリオが差し込まれているとその都度新鮮な気持ちになれるので好都合なのだ。
彼女のピアノは雄弁である。タッチも強い。そのせいで時にはデリカシーがなくなることもあるが、バド・パウエルに通じるノリの良さとスイング感には大きな魅力がある。このアルバムでは10曲目に入っているメドレーなどで彼女の実力を知ることができる。
歌声はというとベヴ・ケリーの伸びのある美しいヴォーカルに、他の3人のコーラスが見事に絡んで実におしゃれなサウンドを生み出している。
肩肘張らずにジャズを楽しもうと思っている方にとっては、座右の一枚になること間違いなしの名盤である。

MARIELLE KOEMAN & JOS VAN BEEST 「BETWEEN YOU & ME」

2007年05月24日 | Vocal

心温まる爽やかな歌声と甘いピアノをお聴きあれ。
ハロルド・メイバーンなどの勢いのある演奏を聴いた後でこれをかけると、リラックス効果は満点だ。
心地よいボサノヴァも要所要所で出てくるので、季節はメイバーン同様に夏。全く涼しげな夏の昼下がりだ。

女性ジャズ・ヴォーカルにはいくつかのパターンがある。
サラ・ヴォーンらに代表される「熱唱タイプ」、ヘレン・メリルのようにセクシーな「ハスキータイプ」、ブロッサム・ディアリーのようにコケティッシュな「甘ったれタイプ」、ニーナ・シモンのように孤独な「うなだれタイプ」、ダイナ・ショアのような「ささやきタイプ」などだ。まだまだあるとは思うが細かく挙げていくときりがないのでここまでにする。
ではこのマリエル・コーマンはどうかというと、癖の無い、とてもきれいな歌を聴かせてくれる。誰に似ているかを強いていえば私の好きなジョー・スタッフォードかもしれない。但し癖が無いといういい方は必ずしもジャズ界ではほめ言葉ではない。個性がないと判断されてしまうからだ。
そこで重要になってくるのが共演者だ。彼女が組んだヨス・ヴァン・ビースト・トリオとはこれが2枚目になる。
ヴォーカルアルバムほど共演者の出来不出来でいい作品になるかどうかがはっきりする分野もない。
典型的なのはヘレン・メリルの「ウィズ・クリフォード・ブラウン」。この作品はブラウンが参加したお陰で何倍も価値が高まった。
このアルバムもこれと同じである。2人が組むことで1つの個性が生まれた。決して大袈裟に言っているのではない。
マリエル・コーマンの足りない分をヨス・ヴァン・ビーストが埋めている。
まるで夫婦のようだ。

MEL TORME 「SWINGS SHUBERT ALLEY」

2007年05月13日 | Vocal

ジャズ・ボーカルのファンならば、ぜひ押さえておいてもらわねばならない作品だ。何たって男性ボーカルの王者に君臨するメル・トーメの傑作だからだ。
しかしこのアルバムの評価を上げたのは彼の歌声がすばらしかったからだけではない。ここにもマーティ・ペイチがアレンジャーとして参加しているからである。
マーティ・ペイチはこの作品を作る上でウェストコーストから腕利きのプレイヤーを集めてきた。スチュ・ウィリアムソン(tp)、フランク・ロソリーノ(tb)、アート・ペッパー(as)、ビル・パーキンス(ts)、ビル・フッド(bs)、ヴィンス・デローザ(frt)、レッド・カレンダー(tu)、ジョー・モンドラゴン(b)、メル・ルイス(ds)らである。実に豪華メンバーだ。
その中でもやはり花形はアート・ペッパーだろう。
「Too close for comfort」や「On the street where you live(君住む街角)」などは、ある意味ヘレン・メリルの「ウィズ・クリフォード・ブラウン」をも彷彿とさせるソロが聴ける。正直アート・ペッパーがこんなに歌伴に合う人だとは思わなかった。それもこれもマーティ・ペイチの手腕なのである。彼は間違いなくクインシー・ジョーンズと並ぶ逸材だ。

アルバムタイトルにもなっているシューバート・アレイとは、ブロードウェイ周辺の通り名のようだ。
メル・トーメの歌声はブロードウェイのイメージそのものである。多くのスポットライトに照らされたステージを観て、心がうきうきと高揚してくるのは私だけではないだろう。
アメリカンドリームを夢見てこのブロードウェイにやってきた人にとっては、メル・トーメの歌こそ真のあこがれだったのだ。