心温まる爽やかな歌声と甘いピアノをお聴きあれ。
ハロルド・メイバーンなどの勢いのある演奏を聴いた後でこれをかけると、リラックス効果は満点だ。
心地よいボサノヴァも要所要所で出てくるので、季節はメイバーン同様に夏。全く涼しげな夏の昼下がりだ。
女性ジャズ・ヴォーカルにはいくつかのパターンがある。
サラ・ヴォーンらに代表される「熱唱タイプ」、ヘレン・メリルのようにセクシーな「ハスキータイプ」、ブロッサム・ディアリーのようにコケティッシュな「甘ったれタイプ」、ニーナ・シモンのように孤独な「うなだれタイプ」、ダイナ・ショアのような「ささやきタイプ」などだ。まだまだあるとは思うが細かく挙げていくときりがないのでここまでにする。
ではこのマリエル・コーマンはどうかというと、癖の無い、とてもきれいな歌を聴かせてくれる。誰に似ているかを強いていえば私の好きなジョー・スタッフォードかもしれない。但し癖が無いといういい方は必ずしもジャズ界ではほめ言葉ではない。個性がないと判断されてしまうからだ。
そこで重要になってくるのが共演者だ。彼女が組んだヨス・ヴァン・ビースト・トリオとはこれが2枚目になる。
ヴォーカルアルバムほど共演者の出来不出来でいい作品になるかどうかがはっきりする分野もない。
典型的なのはヘレン・メリルの「ウィズ・クリフォード・ブラウン」。この作品はブラウンが参加したお陰で何倍も価値が高まった。
このアルバムもこれと同じである。2人が組むことで1つの個性が生まれた。決して大袈裟に言っているのではない。
マリエル・コーマンの足りない分をヨス・ヴァン・ビーストが埋めている。
まるで夫婦のようだ。