ぶーくん読書録

今まで読んできた本について、いろいろ書いてみる。
ほとんど、ネタバレ!!

卵をめぐる祖父の戦争 デイヴィッド・ベニオフ

2011年10月25日 | 小説-海外-
2010年
ハヤカワ・ポケット・ミステリ
☆☆☆


この本が、ミステリ枠なのかちょっと疑問であったが、
それでも、この本は良い本だと思う。

話は脱線するが、
本屋大賞という賞は日本人作家限定なのだろうか?
本屋はある意味、本のエキスパートなのだから、
ただ売れているだけでたいして内容の無い「謎解きはディナーのあとで」みたいな本を大賞にするくらいなら、
こういう「良い」本をすすめたらどうだと言いたい!

第二次世界大戦中のソ連を舞台に
青年兵コーリャと十七歳の少年レフの卵を探す旅の話である。
と、書くと、なにかのアドベンチャー小説かと思うが、
れっきとした戦争物である。

レフはある夜、ドイツの落下傘部隊兵が投下途中で凍死死体となって降りてきた兵士のナイフを手に入れたことで、
刑務所に入れらる。その牢屋には先客がいて、脱走兵のコーリャだった。
処刑されるものと思っていた二人が連れて行かれたのは
大佐の屋敷で、大佐の娘の結婚式用のケーキのために、卵を1ダース探して持ってこいと言うものだった。
戦時下、卵を手に入れることが困難で
それ以前に一般市民は食べることすらできなくなっていた。

戦争は一般市民を飢えさせて疲労させているのに、
上層部の一部の人間は、暖かい屋敷にいて、食べる物にも困らず、
結婚式のためにケーキを作るという戦争の理不尽さを表現している。

さらに、この二人が卵を求めて旅をするのだが、
その先には、食べ物がなく本ののり部分を集めて作った飴だとか
鶏を守るために死にかけている少年や、
爆薬を積んで敵兵に向かうように訓練された地雷犬
毎夜、ドイツ兵の相手をさせられる少女
実際、読んでいてつらくなる部分が多いが
この本の主人公二人が若者らしい会話をしながらの冒険譚にすくわれる部分がある。
ただ、若者らしいということで、かなり下品な会話が多いのですが・・・
しかし、そんな青年たちも人を殺さなくてはいけないという
戦争の理不尽さを考えずにはおれない。

コーリャは見た目もいい男のようだが、人間としても実にいい男で、
おしゃべりで勝手そうにみえて、常にレフに不安を与えないようにしていたり、
ドイツ兵との話のくだりでは
”ユダヤ人”であるレフをそれと思われないようにしたり、
最後もレフを不安にさせないように微笑みながら目を閉じるところは
ジンとなった。

最後はコーリャも「よかったな」って、言っているかもしれないな・・と、思った。

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2 コメント

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いい人だったでしょう?コーリャ・・・ (ぶー)
2011-10-26 01:54:00
ものすごく身近にいたらちょっとうるさいかも・・・と思うかもしれないのだけれど、
彼の人間性に惹かれました。
だってお読みになったとおりの状況、この状態であの性格をそのまま出したような行動。

ラストは切なかったです。
だって卵がすでに4ダース・・・。
大人ってこういう風に考えるのね・・・
と思い知ったことでしょう。

これでもこの本「このミス」の海外部門1位じゃないんだよね。おかしすぎ。
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ぶーさんへ (ぶーくん)
2011-10-26 13:22:06
戦時下で、ほとんどの人は
食べるものが無く、疲弊している中で
一部の人間だけは贅沢ができているという理不尽さ・・・
これほどの優勢に立っていたドイツ軍が敗戦国となったのも皮肉な感じがしましたし、
ドイツを日本に置き換えると実に複雑な気持ちになります。

ただ、これだけの重い話でありながら読めたのはこの二人のおかげなのでしょうね、
本当に、コーリャ・・最後は泣けてしまいましたよ。
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