ぶーくん読書録

今まで読んできた本について、いろいろ書いてみる。
ほとんど、ネタバレ!!

昭和二十年夏、僕は兵士だった  梯 久美子

2012年08月07日 | 歴史・時代物
2011年
角川文庫
☆☆☆☆



実は、この本は今年の初めには購入してたのですが、
せっかくなら、
8月に入ってから読もうと思ってとっておいたものです。

俳人・金子兜太氏
考古学者・大塚初重氏
俳優・三國連太郎氏
漫画家・水木しげる氏
建築家・池田武邦氏

兵隊として戦地に赴いていた五人に著者がインタビューをするといった形で、
作品が構成されている。
将校として、もしくは招集された一般兵としての立場や
戦地が違うがそれぞれが体験した本物の戦争の話だと思いました。

金子氏はトラック島に大尉として配属された。
見捨てられたトラック島での生活、捕虜になったときの話が
淡々と語られる。
淡々とした語り口はよけいに戦争のむなしさをもの語っていた。

大塚氏は、東京大空襲の後、下士官として寿山丸に乗り込むが
魚雷により、船は沈没する。
この時は、済州島に流れ着く。
海を漂白している間の話など胸の詰まる話が多いのだが
特にジンときたのが
氏がもし生きて、日本に帰ることができたなら
もう一度、歴史勉強しなおそうと。

大塚氏のことば
日本は神国であるとか、神風が吹くとか、そういうことではなくて
もっと科学的な目で見た歴史を学びたいと思いました。そして、
子供たちに間違いのない正しい歴史を教える教師になりたい。


この言葉に、この時代、この戦争では、国のために死ぬということが前提の教育。
その教育になんの疑問もなかった時代があったのだと、痛感させられた。

三國氏は徴兵逃れの末、憲兵につかまり中国戦線に駆り出されることになる。
生き抜いて、帰国するまでの話が語られている。

この本の中で、特に淡々としているのに、
涙が出てきてしまった章があった。
それが
水木氏の章だ。
言わずと知れた、ゲゲゲの鬼太郎の作者であるが
氏が配属されたのが激戦区のラバウルである。
自分のいた分隊が氏一人をのこして全滅した話だとか
仲間の死だとか、とにかく”死”の話が中心である。

水木氏が居た隊の大隊長についての記述が

彼の頭には自分の大義と美学をまっとうすることしかなく
部下のことが全く見えないまま、敵にではなく自分の死に向かって突撃していった。
そんな軍人が数百人の人間の生命を預かっていたという事実への何ともいえないやりきれなさ


先ほどの大塚氏の話とシンクロして、何とも言えない気持ちになった。
玉砕命令がでてしまえば、死ぬ以外の選択枝は無かった。

以前、零戦について調べたいたことがあったときに
ある、掲示板にたどり着いたことがあった。
たぶん、中高生くらいの子たちの集まりだと思うのだが、
零戦の特攻につて、
「なんで、あんな効率の悪い戦い方をしたんだ」と、ちょっとバカにしたような文章が目にとまった。
それを見ながら、
そうではない、もう、資金も弾も燃料も、戦えるだけの飛行機もなくして
誰も止めるものがいないから、最後の最後の方法が特攻しかなかった。
もし、資金や弾や飛行機が充分であれば、”効率”の良い戦い方をしたでしょう、
そんな想像力もなくしているのかと、愕然としたことがあった。

池田氏は、軽巡洋艦 矢矧 に乗員
この本を読むまで、この「矢矧」という船を知らなかった。
「矢矧」は秘密裏に作られた巡洋艦でその最後も闇に葬られた船であったらしい。
さらに、その秘密保持のため、矢矧の乗員は靖国にもまつられていないとのことだ。

戦いも終盤に入り、大和を中心とした海上特攻に
この「矢矧」と「冬月」「凉月」「磯風」「浜風」「雪風」「朝霜」「霞」「初霜」
の計10艦

この作戦では、無事、大和が沖縄についたとしても
陸上に乗り上げて砲台として使用する予定だったという。
どちらにしても、大和には”戦艦”としての未来はなかったのだな~と、
しみじみ思った。

一緒に出撃していた、「磯風」の乗組員の話があった。
「矢矧」が自立航行不能となり、「磯風」への移乗を試みた際に
「磯風」もまた、至近弾を受けて航行不能となる。
その時の話が

正直、あの戦いは、大和の主砲が働いてくれさえしたら、あんなに惨めなことにならなかったと思います。
~中略~
視界が効かず、敵機の姿も、ごく近くに下降してくるまで見えない。
それに味方の飛行機は一機も飛んでいないのですから。


この言葉に、この時の戦況がありありとうかがえる。
戦争を戦っていた人たちは、
日本は負けるという気持ちがあったのだとおもう。
しかし、
先日、義父と話をしていたら、
義父が「まさか、日本が負けるとは思いもしなかった。
ずっと、勝っていると言われて、その通りだと思ってたんだ」
と、言っていた。

そこでまた、
大塚氏の話を思いだのだ。

戦争を知らない自分が、戦争について学ぼうとする場合は、
正しい歴史と、証言を聞くしかないです。

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