ぶらっとJAPAN

おもに大阪、ときどき京都。
足の向くまま、気の向くまま。プチ放浪の日々。

若冲、若冲、若冲 ~ 京都、大阪、そして滋賀 ~ 

2015-05-04 19:32:19 | アート

『動植綵絵』牡丹小禽図(三の丸尚蔵館)

ボタンを若冲が描くとこうなる。花の匂いに酔いそうです。

 

 最近、妙に伊藤若冲の名前を目にすると思ったら、生誕300年なんですね。この間、NHKで若冲特集の再放送もやってました。雑誌も、藝術新潮とPENが特集していて、藝新は気づくのが遅くて手に入れられなかったんだけど、PENはKindle版を購入しました。写真がいっぱい、長い画歴の変遷も、ほぼ網羅してあり、技術の詳しい解説が載っていて興味深かったです。

 若冲といえば、過剰な色彩がぎゅぎゅぎゅっと詰まっているリアルを超えたリアル、でも愛嬌がある、というイメージ。

 NHKの放送では『動植綵絵』の技巧にスポットをあてていました。その中でもひときわ興味を持ったのが「裏彩色(うらざいしき)」という技法なんですけれど、画絹の表と裏、両方から色を塗るんですね。たとえば『動植綵絵』のなかの1枚、『紅葉小禽図』の中のもみじ。

『動植綵絵』紅葉小禽図(三の丸尚蔵館)

 たくさんのもみじを塗り方を変えて表現しているのですが、赤からオレンジのグラデーションになっている葉があるのが、おわかりでしょうか? 画像だと見づらいかな。上から2羽目の鳥、右斜め下あたりの、暗いもみじの下、若干色が薄くなっている一群です。

 これは、表から赤く縁取り、裏から黄色を塗ってます。それで何が起こるかっていうと、表の赤、裏の黄色、そして画絹の白!によって、もみじの後ろから光があたっている様を描写しようとした、というんです。つまり、印象派の代表的画家、スーラの点描と同じ効果を狙ったと推測されるとか。表と裏から塗ることによって、点描と同じく、色が混じって濁らないから明るくみえるんです。当時、日本画に光の概念なんかないですから、これは驚くべき発想だと解説してました。

『動植綵絵』群魚図(三の丸尚蔵館)

裕福だった若冲は、画材に糸目をつけませんでした。この一番左下のルリハタ、

日本最古のプルシアンブルー(むちゃくちゃ高価)の使用例だそうです。

 

『動植綵絵』は宮内庁三の丸尚蔵館所蔵ですが、残念ながら常設展示ではありません。2年ぐらい前に、群魚図は観たかな。一辺に全部はなかなかムリみたいです。でも生誕300年ですからね。近々、一挙公開してくれないかしら・・・。本物みないと光が当たってる風かどうかはわかんないなぁ。

 現在、開催されている若冲関連の展覧会は、関西方面だけ拾ってみると、京都・相国寺承天閣美術館の『伊藤若冲と琳派の世界』(金閣寺大書院の障壁画がみられます)、東京のサントリー美術館(5/10迄)から滋賀のMIHO Museum(7月)を巡回する『若冲と蕪村』、5月22日からあべのハルカス美術館で行われる『昔も今も、こんぴらさん。金刀比羅宮の宝物』などです。

 個人的には全部見たいんですけど、特に相国寺の金閣寺障壁画かな。これも最近の研究で、5つぐらいある部屋をクロスして、3Dで月の光を表現しようとした若冲の野心が見られる意欲作だそうですが――なんのこっちゃわかりませんね(^^; 

 2次元で説明するのは難しいので、実際に見てきてから、また改めて書きたいと思います。

 極彩色の若冲もいいのですが、実はわたくしの一番のお気に入りは京都の細見美術館にある『鶏図押絵貼屏風』っていう墨の濃淡だけで描いたやつなんです。ひと筆書きみたいな生き生きとして自由な線画と、筋目書き(すじめがき)という超絶技巧で描かれた逸品です。

鶏図押絵貼屏風

『鶏図押絵貼屏風』 京都 細見美術館蔵

 

 思うに若冲は、描く前から対象物の造形が隅から隅まで頭に入ってると思うんですよね。だって、西洋画みたいにデッサンするわけじゃなし、色を塗り重ねるわけじゃなし。真っ白な紙にさっさかさっさーと描いていくわけですから、明確な出来上がり図が頭にないと無理ですよね。それから超人的な集中力と。絶対、息留めてる(笑)。番組で模写をした日本画家の方も「一気に描く覚悟がないと無理」とおっしゃってました。

 詳しい解説は省きますが、筋目書きというのは、墨のにじみを予測しつつ描くわけですから、実際に描きだす前に、十分、墨そのものの性質を観察し、把握しておく必要があると思うんです。西洋画は人間中心で、自然をねじ伏せるって感じがするんだけど、日本の、特に昔の画は、自然を写し取ろうという意識が強くて、道具に逆らわない気がする。それこそ、水の重力や紙の性質に自分が「合わせる」。

 家に鶏や雀を飼って延々と観察し続けた若冲は、自然と寄り添う達人だったのではないかと思います。

 なんてね、若冲が聞いたら、まだるっこしい言うてるんやないでぇ、とつっこまれそうです。夢中になって描いた。それだけのことなのかもしれません。

 

【追記】

2016年4月に東京都美術館で若冲展をやるのに伴って、2015年のこちらの記事にたくさんアクセスいただいています。

ありがとうございます^^

東京都美術館のものが関西にくるのかどうか現時点では不明ですが(2016年4月25日)、京都の細見美術館では、6月に若冲展が開催されるようです。また、文中にも書きましたが、京都・相国寺承天閣美術館の鹿苑寺大書院障壁画は常設展示...だと思ったら、ただいまごっそり東京都美術館で展示中でした^^;

さらに東京都美術館の展示内容を確認しましたら、↑の障壁画と『動植綵絵』がまとめて展示されてますね! はからずも文中で書いたことが実現している 

それで皆さんこちらにいらしてくださってるんですね 

さらにさらに、アメリカの有名なコレクター、ジョー・プライスさんのものもたくさん出てます。あああ、観たい! 関西方面ではやらないのでしょうか?

・・・私は今、本気で上京を考えています 

とりあえず、細身美術館には行くつもりです。訪問後に、最新記事をアップしたいと思います


コメント (4)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ぶらっとロンドン ~ ただ... | トップ | 鯉のぼりフェスタ2015 ... »
最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
動く鶏図!そしてイギリス… (tomomi)
2015-05-05 10:34:59
「鶏図押絵貼屏風」、墨の色だけなのに、「動いてる!ダイナミック!」と感じました。すごいですね。
そして、5月3日のロンドン・スコットランド編も興味深かったです。シェイクスピアの「マクベス」で地名だけ覚えていた「インヴァネス」、写真を見せて頂いて、「あぁ、こういう所か!」とイメージが湧きました。荘厳で、どこか陰のある風景、「マクベス」の雰囲気にピッタリですね!
また、ちょっと昔のロンドンの写真、ダイアナ妃に憧れていた小学生時代(笑)を思い出して懐かしい気持ちになりました。
私もいつかは、イギリスやスコットランドを訪れてみたいです!!
返信する
まさにシェイクスピア (bratt-japan)
2015-05-05 20:35:43
若冲、すごいでしょう! 機会があったら是非本物観てくださいね。
インヴァネスと同じときに行ったウェールズのカーディフ城はちゃんと形になったお城で(笑)、私も行った時に「ハムレット」の亡霊のシーンってこういうとこか! と納得しましたよ。渡り廊下でこっそりハムレットごっこをして遊んでました
このイギリスの写真の頃より少し前、東京の高田馬場に東京グローブ座ができたのかな、そこで初めて本場のシェイクスピアを観て、日本語と全然違う言葉の美しさに感動して(言葉わからなくても伝わるもんです)そこから一気にシェイクスピアにハマりました。
素晴らしい本だから、もちろん普遍的なものもあるんだけど、あのイギリスの風土がシェイクスピアを育てたのは間違いないわけで、やっぱ、知ってた方が全然面白いと思います。
ぜひイギリス行ってみてください
返信する
天才! (ナン)
2015-05-05 21:15:52
ただただ素晴らしいの一言です。
細見美術館に行きたかったのですが、時間的に余裕がないもので、難波高島屋の「琳派のきらめき」に行きました。
あの時代の画風は今の画家には描けるんでしょうか。
返信する
お久しぶりです! (bratt-japan)
2015-05-06 08:53:10
ナンさん
こんにちは。コメントありがとうございます
「琳派のきらめき」展行かれましたか! 私は残念ながら行けませんでしたが、琳派は大好きです。俵屋宗達の風神雷神と酒井抱一がお気に入りです。
繊細で洒脱で素晴らしいですよね。最近の日本画はデジタルの要素が入ってきたりして私もあまり馴染まないです。
若冲も、まさに天才という言葉がふさわしい人ですよね
返信する

コメントを投稿

アート」カテゴリの最新記事