ぶらっとJAPAN

おもに大阪、ときどき京都。
足の向くまま、気の向くまま。プチ放浪の日々。

西福寺の若冲

2016-11-03 22:44:59 | アート

この後ろにもながーい列が。

 

半年前から手帳に印をつけて楽しみにしていた西福寺の若冲を観てきました!

年に一度の虫干しを兼ねての特別公開です。

折からの快晴はまさに絶好の虫干し日和

阪急宝塚線・服部天神駅からハイキング気分でのんびりとお寺へ向かいます。足の神様・服部天神や住吉神社などがあり、駅前の商店街は昭和の香りが残る、ゆったりとした空気が魅力の街並みです。お寺は駅から15分ほど。奥まったところにあり、地図がなければ絶対にたどり着けません^^;

到着は開場の1時間ほど前でしたが、既に十数人が並んでいました。30分ほど前から受付が始まり、整理番号札が配られ記帳を済ませれば、パンフレットと記念メダルがいただけます。可愛らしいメダルに大盛り上がり、こんな時間にこんなところにいるのはご近所さんか筋金入りの若冲ファンに違いなく、ほぐれた空気も手伝って、若冲話の交歓会が始まります おかげで待っている間も退屈することはありません。

その後、境内に案内されて更に待機。樹齢数百年とおぼしき見事な扇松の下で、その瞬間を待ちます。若冲は天明の大火で自分の家を失った後、しばらくこのお寺に滞在して画を描いたそうですが、この同じ松を眺めつつ構想を練ったのかもしれませんね。

綺麗な松の木に見とれているうちに、ついに開場! 人数を制限しつつの案内ですが、運よく先頭グループに入れてもらえました。鶏の前はすぐ満員になってしまったので、先に『蓮池図』の前にかぶりつきの正座です(笑)。襖10枚分ほどの間口で画が飾られているのですが、人数制限のおかげで根気よく待っていれば、1枚ずつ存分に眺めることができます。いつもは四角四面なガラスケースに閉じ込められたものばかり見ているので、普通のお寺にあの若冲の画がある景色はとても新鮮です。若干の距離はとられているものの、障害物なしにナマでみられるのでテンションは急上昇

こちらのお寺が所蔵しているのは『仙人掌(さぼてん)群鶏図』と『蓮池図』。どちらも若冲75歳頃の作です。鶏たちは金地を背景にした六双の襖に描かれ、襖という条件のせいなのか、家や多くの作品を失った喪失感か、過去に見た鶏たちに比べ、細密さで若干劣り、線の勢いもやや緩やかな気がします。それでも全体の構図のリズムや鮮やかな色彩と尻尾のダイナミックな動き、そして慈愛に満ちた番(つがい)の表情は間違いなく若冲ならではで、75歳でこんな画を描いたのはやはり驚嘆すべきエネルギーです。

うわぁ若冲だあ、とただただ興奮です。

ナマ鶏(笑)は本当に素晴らしかったですが、実は、今回楽しみにしていたのは、元々この鶏の襖の裏側に貼られていたという『蓮池図』でした。生命の存在がほとんど感じられない茫漠とした荒野と病葉たち。そこに、老境の若冲の本音が潜んでいるようで、胸に迫るものがあります。子供を持たなかった若冲にとって、老いることの寂寥は尋常ではなかったに違いありません。以前と変わらぬ鶏を描く気概を保ちつつも、その裏側には確かに歳月が流れている。しみじみと人生を噛みしめている若冲の姿が浮かびます。そうした虚無の景色の傍にすっくりと伸びて見事な花を咲かせている一輪の蓮。その気高い佇まいは、若冲の意志の表れに思えてなりません。年表を見ると、この年に大病を患ったそうですが、結局、若冲はその後十年を生きました。

こうした裏側に潜む哀しみが、表の鶏たちの情熱的な色彩や躍動感を一層魅力的にしている気がします。

それぞれの画を何度もためつすがめつ、端から端までひたすらうろうろ、後にまだたくさんの人が待っているからと思っても、どうにも立ち去りがたく、本当にいつまでも眺めていたかったです。

来年もあるからと自分に言い聞かせてようやくお寺の外に出ると、尋常ではない人の列にびっくり仰天。これだと見るまでに数時間はかかるのではないでしょうか。でも皆さん、文句を言うでもなく半ば楽し気に並んでいらっしゃいました。

恐らくご主人さまは若冲に夢中

 

帰り道でも、スマホや地図を手にした老若男女に続々遭遇。途中にお墓があるのですが、年に一度の活気に、ご先祖さまもざわついていたに違いありません。

数百年後にこんなことになるなんて描いた本人は思ってもいなかったでしょうが、こうやって興味を持つ人が増えていけば、きっと大事にされて後世に伝えられていくことでしょう。まさに画家冥利に尽きますね。

ホントに綺麗な松でした

1日限りの熱狂に包まれた虫干しを終え、鶏や蓮たちはまた長い眠りにつきました。再会はいつになるのでしょうか。1日限りとはいえ、また必ず会える日があるのは楽しみで仕方ありません

 

コメント
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