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アキザキヤツシロラン・4~菌従属栄養植物

 ラン科オニノヤガラ属の「アキザキヤツシロラン(秋咲八代蘭)」。去年の秋に薄暗い竹林でクモの巣に引っ掛かりやぶ蚊に献血しながらやっと見つけた株。先日は果実が熟して裂けたものを確認したが、今回はその枯れ姿。開花期の草丈はわずか5~6センチで落ち葉の中を探すのにひと苦労したが、枯れる段階では草丈は30センチ以上になっている。隣の竹の節と比べられるように全体像を撮っておいた。できれば今秋も小さな花を見つけたい。
 さてアキザキヤツシロランやギンリョウソウなどの“菌従属栄養植物”とは生きるために必要な栄養を光合成に変わって共生する菌に依存する植物で、もともとは光合成を行う独立栄養植物であったものが、光合成を止めていく“進化”が起こったことがわかっている。その進化の過程で、葉緑素の喪失、根や地下茎の変化、色素体ゲノムの退化、普通葉の退化、種子の微細化、菌根菌や送粉昆虫など他の生物との共生関係など実に多様な形質変化が起こった。長くなるが、菌従属栄養植物について少し調べてみたので以下に記載しておく。
 地球上の植物の約80%の種は地下の根や茎で菌類と共生しており(菌根共生)、光合成によって稼いだ炭素の一部を共生菌に与え、菌は植物の生存に欠かすことのできない窒素とリンを植物に与える相利共生が成り立っている。しかし光合成を止めた菌従属栄養植物は自分で栄養を作らないので根も葉も要らず不要な器官が無くなって奇妙な姿になっていった。菌従属栄養植物の大部分は被子植物綱に含まれ、系統樹を拠りどころに菌従属栄養植物の出現したポイントを推定すると約50回の進化があったと考えられている。
 菌従属栄養植物は独立栄養植物からいきなり現れたのではなく、光合成を行いながら菌からも栄養を取るという部分的菌従属栄養(混合栄養)という過程を経て変化している。例えばシュンランは青々とした葉を持ち正常な光合成能力を持つが、個体によっては体内の60%程度の炭素は共生する菌から奪っていることがわかった。
 菌従属栄養植物は独立栄養植物よりずっと多様な菌類のグループと共生関係を結んでいる。ナラタケ属は植物にとっては凶悪な植物病原菌となり、ホウライタケ科は落葉分解菌で、独立栄養植物はこのような菌を避け4億年かけて築き上げた菌とだけ共生関係を作っているが、菌従属栄養植物はリスクを冒しつつ魅力的なパートナーを求めた。オニノヤガラはナラタケと共生するが、これは生育が進んでからのことで、発芽から実生の初期ではクヌギタケ属の菌としか共生しない。最強の植物病原菌のナラタケはひ弱な実生のパートナーにはならないのだ。
 菌に寄生することで他の競争相手の少ない暗い林床でも生存可能になった。地上でストレスを受けた際に、翌年は地上部に展開せずに地下にとどまり、菌から十分に炭素源を得たうえで再度地上に現れる。菌従属栄養植物は休眠中も菌類から炭素源を補給できるので休眠コストが掛からず生存できる。
 部分的菌従属栄養植物は、完全に葉緑素を失ったアルビノ突然変異体を生じることが多い。通常の植物が葉緑素を失うと種子に貯蔵された養分を使い果たすと枯れるが、部分的菌従属栄養植物のアルビノは葉緑素を持つ普通の個体と同程度まで成長し花を咲かせることができる。しかしアルビノは通常個体よりも早いタイミングで消失してしまうため通常の1%以下の種子しか残すことができない。結実前に枯れるのは光合成を行わないにもかかわらず、大きな葉や気孔を保持しており、蒸散がうまくいかず乾燥し易いためと考えられる。
 無葉緑素植物になるためには、菌からの養分略奪を可能にする能力のみならず、気孔の退化、葉の退化、開花から結実までの期間の短縮、非開花時期の休眠、保護色、繁殖様式の変化など様々な適応が必要であり、これらの適応を同時に遂げることが難しいため、部分的菌従属栄養植物に比べ葉緑素を失った菌従属栄養植物は少ないのかも知れない。
 世界の菌従属栄養植物の種数はこの20年間で急増して880種ほどになり、日本でも新種が次々に発見されている。なぜこれまで多くの種が見逃されてきたかというと、菌従属栄養植物は開花期、果実期しか地上部に出ていないことが最大の理由であり、例えばタシロランは地上部があるのは1年のうちのせいぜい3週間程度に過ぎない。研究が進めばこれからも新しい菌従属栄養植物の発見が続くのだろう。
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ハナゾノツクバネウツギ

 長池公園“ながいけの道”で面白い姿を見せていた「ハナゾノツクバネウツギ(花園衝羽根空木)」。スイカズラ科ツクバネウツギ属の半落葉低木(暖地では常緑)で、写真は花が落ちて残った萼片。この形が“追羽根”に似ていることから名付けられている。別名の「アベリア(Abelia)」は属名でもあり、多くの園芸品種がある。
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