徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

機上気象レーダ( Onboard / Airborn WX Radar )って

 明日は(夏の)土用の入りです。鰻をおねだりできる“丑の日”は、今年は7月23日(日)なのですが、それまでに梅雨は明けるのでしょうか。

きょうも各地で梅雨前線に伴う激しい雨が観測されているようです。

すごく簡単にですが、悪天候回避の強い?見方?である“機上気象レーダ( Onboard / Airborn WX Radar )”についてお話します。

疑問符“?”を付けたのは、折角搭載されている WX Radar も使い方次第では全く意味をなさないからであります。

それ程に WX Radar の使い方は重要であり、パイロットの方々は皆勉強に余念がありません。味方につければ快適性を向上させる強力な武器になるのですから。

WX Radar については一般論は勿論存在しますが、それだけではいささか不十分であり、日頃の運航や資料の研究から独自のノウハウをためこんでいるパイロットさんが多いようです。
「キャプテン(機長)の数だけ WX Radar の活用法がある」と言っても過言ではないでしょう。

今回は“簡単に”ですから、一般論、それも原理が中心です。
(世間一般には、気象レーダというとテレビの天気予報やインターネットのサイトで目にする程度であり、“機上気象レーダ( Onboard / Airborn WX Radar )”には無縁ですからね....)

WX Radar は機首部分に格納されています。

アンテナはパラボラ・アンテナで、Cバンド周波数といわれる4GHz~8GHzのマイクロ波を使っています。

近年開発されている新しいレーダは、Xバンド周波数(8GHz~12.5GHz)を用い、平面アンテナになっています。
Xバンドを用いた新世代レーダには;
  • パルス波のエネルギーがより強力
  • ビーム幅が狭いため、ターゲットの解像度が向上する
  • 反射効率が高く、ターゲットから返ってくるエネルギー総量が増える
  • 擾乱、ウィンド・シェアも検出できる
  • 低消費電力
等のメリットがあるので、今後はこの新世代 WX Radar 搭載機が増えてくることでしょう。



さて、“機上気象レーダ( Onboard / Airborn WX Radar )”の原理です。

機首部分に格納されたアンテナから、マイクロ波のパルスを照射します。

照射されたマイクロ波(波長が極めて短いですから、強い直進性を持っています)は、それを反射するターゲットがあると、それにぶつかり、逆方向に戻ってきます。

Weather Radar Principle


その戻ってきたマイクロ波をアンテナで受信し、アンプで増幅、反射強度に応じて色分けをして(または輝度を変えて)レーダ画面に表示します。
(この表示された画像を、一般的には“(レーダ)エコー”と言います)

エコーをどこに表示するかですが、最近のハイテク機ではパイロットの正面に配置されている CRT / LCD ディスプレーの一つを ND: Navigation Display モード(カーナビの地図表示のようなものです)にして、そこに重ねて表示させることが可能です。

クラシックでビンテージものの機材(非グラス・コックピット機)では、別途レーダー画面があります。

と、原理はたったこれだけです。

「反射強度」は何故変化するのか。

ひとつは、アンテナからターゲットまでの距離の要因があります。
当然のことながら、遠くのターゲットは照射してからその反射波を受信するまでの距離が長くなりますので、その分、照射したマイクロ波のエネルギーは減衰して弱くなります。
が WX Radar の場合、これはあまり重要視されません。

重要なのは、ターゲットによる反射率の違いです。

WX Radar (ここでは従来から用いられてきているCバンドのレーダを想定します)が検出できるのは、
  • 雨滴( Rain )
  • 湿った雹( Wet hail )
  • 氷晶( Ice crystal ),乾いた雹( Dry hail ),乾いた雪( Dry snow )
のみであり、
  • 霧( Fog )
  •  は水滴が細かすぎて
  • ウィンド・シェア( Wind shear ),晴天乱気流( Clear Air Turbulence )
  •  は降水粒子が存在しないので検出できません。

さらに、検出できるものの中でも反射率が異なります。

ターゲットによる反射率の違いは以下の図のようになります。

Reflectivity According to Droplet Type


これを見ると、単位体積あたりに含まれる水の総量が多いほど反射率が強いことがわかります。

加えて、降水粒子の大きさが反射率に大きく影響します(反射強度は降水粒子直径の6乗に比例)。

Reflectivity According to Droplet Size


これは、以前の投稿にも記したのですが、雲の粒子は半径が10ミクロン、雨雲の代表的な雨粒は半径が1000ミクロン、雲粒と雨粒の境界は大体半径が100ミクロンと言われています。

雲粒と雨粒との間には、100倍の大きさの差がある訳ですが、これはレーダの反射波では、(10×10)の6乗=10の12乗=1000億倍の反射強度の差となって現れます。

雲であれば、何でもかんでもレーダに映るわけではないのです。

※これは、“機上気象レーダ( Onboard / Airborn WX Radar )”に限ったことではないので、インターネットで提供されているリアルタイム・レーダー・サイトで、エコーが全く映っていないのに、空を見上げると全天雲に覆われている、といったことを経験された方もおられることでしょう。



原理としては単純明快な WX Radar ですが、使いこなすのには Tilt 角の調節,Range の調節,Gain の調節など種々の留意点があります。

小生を含め一般人にとっては箪笥の肥やしにもならないことですが、気が向いたら(且つ書く気力があれば)取り上げるかもしれません。
Comment ( 8 ) | Trackback ( 0 )