徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

事故の防止に寄与することを目的として…

 当該報告書を読みました。約2年ちょっとの歳月をかけて報告された訳ですが、う~ん....。

発表されたのが昨日であり、まだ数回しか読み返していませんし、時間をおいて再度読み直すことをしていないので(これが意外と重要)、まだ冷静+客観的判断が出来るには至っていませんが。

時間をかけたにしては、少々多面的な解析に乏しく、今後の“事故の防止に寄与することを目的”とした場合、オン・コンディション整備方式に対する意見を含めた何らかの建議が欲しかった、というのが現時点での率直な感想です。

一方で報告書を読んだことで、当該便のクルーが突然のイレギュラーに対しても冷静で的確な対応をし、またクルーだけでなく、空港関連の各機関が連携し事故後の対応にあたったことを知ることができ、軽症を負われた3名のお客様には大変お気の毒ではありますが、被害を最小限に食い止められたことは賞賛に値すると思います。

当該報告書には、NTSB: National Transportation Safety Board (米国国家運輸安全委員会)が事故機の製造国として報告書の Draft に対する意見書を提出、それが ICAO Annex 13 に基づき添付されています。
その添付された意見書は、報告書をどのようにに Review しているのかを知る観点から大変参考になりました。

ハイテクを駆使した新型機(新造機)についても共通して言えるのですが、この DC9-81 (JA8297) の場合も、ある意味では“実績の無い未知の領域”でオペレーションされている訳で、点検・整備間隔、点検方法が適切であるかどうかは誰も『適切である』と断言は出来ません。

勿論、過去の実績やコンピュータ・シミュレーションを駆使して開発・設計された機体に対して、運航基準や点検整備プログラムが十分な安全係数を考慮して策定されているわけですが、やはりそこに“絶対”はあり得ません。

今回の報告書、主脚のシリンダー破断について徹底的に調べたことは評価できますし、そこで得られたデータは有益だと思うのですが、そこから“事故の再発防止にはどうすれば良いのか”という強いメッセージが伝わらないのです。

確かに、技術の進歩、信頼性向上により“故障”あるいは“メカニカル・トラブルに起因する事故”は確率論の領域に入っているのかもしれません。

ただ、昨年頻発した PW4000 ジェットエンジンの IFSD や、毎月のイレギュラー運航の状況を見ていると、何らかの Breakthrough が必要に思えてなりません。

今回発表された 株式会社日本エアシステム所属 JA8297(株式会社ハーレクィンエア受託運航) の報告書に少し期待していたのですが....。

非常に意地の悪い言い方をすると、今回の事故を受けて出された SB: Service Bulletin とそれに伴った AD: Airworthiness Directive では「450サイクル」という数字が出されている訳ですが、報告書ではその数字の是非については一切触れていません。
これで、450サイクル未満で同様の事故が起こったならば、今回の報告書は「(類似)事故の防止に寄与」したと言えるのでしょうか。

点検整備の効率性・経済性を重視し、最低でも現在の事故率を維持するのか、効率性・経済性は犠牲になるが(=お金も人もかかるが)、整備に相応の額を投資して少しでも事故の危険を減らす努力をするのか(事故率が確実に減少するとは言い切れない訳ですから、ある意味の保険ですよね)。

非常に難しい判断だと思います。

あくまでも私見ですが、少なくとも現状のオン・コンディション方式を一度見直してみる(変える・変えないは別にして)機会を設けるべきだと思っています。


試験の振動から亀裂、破断 徳之島のMD81主脚折れ (共同通信) - goo ニュース
鹿児島県天城町の徳之島空港で2004年1月、日本エアシステム(現日航ジャパン)のMD81の左主脚が折れて翼が滑走路に接触、乗客3人が軽傷を負った事故で、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は28日「製造直後のブレーキ試験の際に起きた振動で亀裂ができ、徐々に広がり破断した」とする報告書をまとめた。

また報告書は「メーカー設定の点検間隔が適切でなかったため、定期点検で亀裂を発見できなかった」とも指摘した。

事故後、日航は国交省の指示で点検間隔を大幅に短縮しており、現在は着陸450回ごとに詳しく検査している。

2006年 7月28日 (金) 10:00

徳之島JAS機事故、主脚折れは納入前試験の衝撃が原因 (朝日新聞) - goo ニュース
鹿児島県の徳之島空港で04年1月、日本エアシステム(JAS、現日本航空ジャパン)のMD81型機(乗客・乗員計169人)が着陸した際に、左主翼側の主脚が折れて機体が傾き、3人が軽傷を負った事故で、国土交通省航空・鉄道事故調査委員会は28日午前、報告書を北側国交相に提出した。事故より15年前のJAS納入前の段階でメーカーが行った飛行試験で脚に生じた微細な亀裂が徐々に大きくなり、破断に至った可能性が高いとしている。

 報告書によると、折れたのは鋼鉄製の主脚のうち、大きな力がかかった時に付け根の翼が壊れるのを避けるために鉄の厚みをやや薄くしている部分。ここの表面に事故以前に出来た長さ1ミリ以上の亀裂が7カ所確認され、最大は長さ約5ミリ、深さ約2ミリだった。

 この脚は元々違う機体に装備され、89年8月、製造したマクドネル・ダグラス社(97年にボーイング社が吸収合併)で行われた離陸中止試験で3回にわたって脚やタイヤに激しい振動が生じ、強い力が加わっていた。

 事故調は、試験の際にわずかな亀裂が出来て徐々に大きくなった可能性が高い、と指摘。事故時の着陸は正常だったが、この時にかかった力で一気に破断したとみている。

 JAS側は95年と00年に、浸透液や磁石と鉄粉を用いて破断した部分の詳細な検査をしていたが、亀裂は見つからなかった。事故調は、この段階では亀裂は詳細検査でも発見できないほど小さかったとみている。

 この事故を受けて、ボーイング社は450回の着陸ごとに詳細に検査するよう航空各社に通知した。報告書は「点検間隔、点検時期が適切に設定されていなかった」と指摘した。

2006年 7月28日 (金) 10:15

徳之島JAS機主脚折れ 試験での亀裂が拡大 事故調報告書 点検不備も指摘 (西日本新聞) - goo ニュース
2004年1月、鹿児島県・徳之島空港で、日本エアシステム(現日本航空ジャパン)のMD81(乗客乗員169人)の左主脚が着陸する際に折れて翼が滑走路に接触し、乗客3人が軽傷を負った事故で、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会は28日、「製造後の試験飛行の際、激しい振動によって左主脚のシリンダー表面に亀裂が生じ、少しずつ拡大して破断した可能性がある」とする報告書を北側一雄国交相に提出した。

 亀裂を定期点検で発見できなかったことについても「点検間隔や時期がメーカー側によって適切に設定されていなかった可能性がある」と指摘した。

 報告書によると、事故は04年1月1日午後4時20分ごろに発生。徳之島空港は同月3日まで閉鎖された。

 亀裂の原因について、メッキ加工前に部品表面からさびなどの付着物を取り除く処理をする際、作業に不適切な点があったため傷が生じ、その後の振動で少しずつ拡大した可能性を指摘。「傷は強度に大きく影響を与えるので、整備や点検時に傷を生じさせないように十分留意すべきだ」とした。

 さらに、今回の事故以前に同様の主脚破損事故が海外で4件発生し、メーカー側がその都度、点検手法や時期を改定していたのに事故を防げなかったことにも言及、「メーカー側が限られたデータからの仮説に基づいて点検間隔を改定するなどしたため、仮説と現実の相違が生じ、こうした結果を招いた可能性がある」とした。

 事故調は、破断したシリンダーを製造元の米マクドネル・ダグラス社(現ボーイング社)の研究所に送り、米国家運輸安全委員会なども調査に加わった。

 ●確実な航空機整備行う

 ▼日本航空広報部のコメント けがをされた3人のお客さまにあらためて心より深くおわびします。事故後、国土交通省の指示に従い、主脚シリンダーの点検の間隔をそれまでの着陸1200回以内から450回以内に短縮しています。引き続き確実な航空機整備を行い、お客さまに安心して搭乗いただけるフライトを提供します。

=2006/07/28付 西日本新聞夕刊=

2006年 7月28日 (金) 17:09
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【補足】 Mode S Transponder .... TCAS との関係

 昨日の投稿をきっかけとして、追加で調査をしていたら「おお、そうだったのか」ということを発見したので記しておきます。
(※今まで知らなかったことの方がお恥ずかしい限りですが....)

それは、航空機搭載の Transponder に関してです。

Mode-S について、SSR: Secondary Surveillance Radar (二次監視レーダ)の観点から、つまり航空管制の地上局側に主眼を置いてシステムを勉強していたため、完全な視野狭窄に陥ってしまっていたようです。

大反省であります。

書いていてもどうも上手く説明できないということは、自分の理解が不足しているということでして、この Mode-S ももっと己の理解を深めなければなりません。

さて、今回の発見とは
 「航空機に搭載されている Transponder はそのほとんどが Mode-S 対応済である」
と言うことです。

きっかけは、TCAS: Traffic alert and Collision Avoidance System ( ICAO 用語では ACAS: Aircraft Collision Avoidance System )[航空機衝突防止装置]の動作を読んでいたときです。

 ※参考資料: JEPPESEN 社 Instrument Procedures Guide

TCAS には、 TCAS-I と TCAS-II の二種類( FAR では TCAS-III も定義されている)ありますが、旅客機には TCAS-II (Version 7.0) が搭載されています。
本邦では、客席数19、または最大離陸重量5700kgを超えるタービンエンジン搭載機には TCAS-II (Version 7.0) の搭載が義務付けられているからです。
(米国でも FAR: Federal Aviation Reguration の§135.180 に規定があります)

TCAS-I は TAs: Traffic Advisories のみを提供しますが、TCAS-II では加えて RAs: Resolution Adivisories も提供します。
この RA を正確に発するためには、Transponder Mode-S が備えている Datalink 機能が不可欠なのです。

TCAS は以下のの三つのシステムのデータを用いています。
 1)Mode-S Transponder の信号を受信する指向性アンテナ
 2)Mode-C Transponder が発信する高度信号
 3)Mode-S の質問/応答プロトコルのタイミング

これらから得られる情報としては、
 1)近接航空機の方角情報。精度は数°単位
 2)近接航空機の高度情報。
 3)近接航空機との距離。
となります。

さらに、TCAS-II においては衝突脅威機があると RA を発しますが、それには "Climb! Climb!" "Descend! Descend!" といった垂直方向への回避操作指示が含まれます。

先ず、脅威機を正しく把握するために、Mode-S の Datalink 機能でやり取りされているパラメータが用いられます。
Domestic RVSM: Reduced Vertical Separation Minimum が運用されている現在、より精度の高い高度情報が必須であり、Mode-S の Datalink パラメータに含まれる 25 feet 単位の高度情報は欠かすことが出来ません。

また、Datalink パラメータには、当該機の飛行方位、速度、上昇率・降下率も含まれますから、自機に対して脅威となり得るか、仮に脅威となり得えた場合、脅威機を回避するには、上昇したほうが良いのか、降下したほうが良いのか、適切な判断をすることが可能になります。

と、このようなことが解りました。

よって、現時点で既に日本で就航している旅客機については、
 「 Mode-S Transponder を搭載されている」(一部例外はありますが....)
と言えます。

昨日の投稿で引用した記事には具体的な機数(それも双方の記事で異なっておりますが)が出ていましたが、それはあくまでも、不具合を起こす可能性がある Rockwell Collins 社の Mode-S Transponder TPR-901、しかも該当ロットのものを搭載した機数であり、日本の空を飛んでいる旅客機の Transponder は Mode-S と考えるのが自然です。



Mode-S に加え、TCAS のついても更に勉強しなければならないようです。

かくして芋づる式に興味の対象が増え、また奥も深くなってゆくのでした。

....ああ、今週は Jeppesen の Packet も来ていたから差替えもあるし....

(非常に間抜ですが、自分の投稿にトラバしてみました)
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