徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
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PAXのひとりごと
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GPWS: Ground Proximity Warning System - Mode 6

 GPWS: Ground Proximity Warning System 「地上接近警報装置」 説明にチャレンジ、無謀にも始めてしまったこのシリーズも今回の Mode 6 をもって終了です。

航空業界、ことにクルーの間では "Situational Awareness" という言葉を良く使います。
実際、運航乗務員のみならず客室乗務員でも、この "Situational Awareness" はとても大切なことです。

"Situational Awareness" を直訳すると「状況の意識」と漠然としてしまいますが、要は「自分がいま置かれている状態・立場・境遇を自覚すること(正しく知ること)」です。

今の世の中、我々の日々の暮らしにおいても "Situation Awareness" が重要となってきていることは想像に難くないでしょう。

さて、シリーズ最後にとりあげる GPWS Mode 6 の役割は、
 -進入の最終段階( Final Approach )
 -機体の極端な左右の傾き( Roll 角、 Bank 角といいます)
に対して、上述した "Situation Awareness" を高めるための警告を発することです。

最初に Final Approach でどのように動作するかを説明します。

GPWS Mode 6 は、 "Situation Awareness" を高めるために2つの人工音声を発します。

一つめは、 "Five Hundred" (500) の音声警告です。

これは、進入降下している飛行機が ILS Glide Slope (計器着陸装置の誘導電波の内、的確な進入角度(通常は3度)を示すビーム)に乗っていなかったり、あるいは、 Glide Slope のビーム中心よりもかなり下を飛行していて、電波高度計が示す地上からの高度( Radio Altitude )が500フィートになった時点で発せられます。
※ On Glide Slope で進入してきた場合、 GPWS Mode 6 は "500" のコールアウトをしません。

二つめは、"Two Hundred" (200) の音声警告です。

このコールアウトは、 "Situation Awareness" を高めるため、電波高度計が計測した高度( Radio Altitude )が地上200フィート( 200 feet AGL: Above Ground Level )の時点で常に発せられます。

着陸にあたっては、空港・滑走路・地上および機上航法装置・パイロットの資格に応じて「決心高度: DH: Decision Height 」が決められます。
例えば、CAT-I の資格を有する機長が沖縄那覇空港の滑走路( Runway 36 )に南側(糸満方面)からILS進入で着陸を試みる場合の「決心高度」は250フィートです。
「決心高度」まで降下してきても滑走路が視認できなければ、着陸は許されず“着陸復行(所謂、ゴーアラウンド)”となります。
このように「決心高度」は着陸に際して重要な意味を持つ高度(高さ)です。

GPWS Mode 6 では、「決心高度」を設定することで、GPWS に接続されている電波高度計の値が、その設定値になったときに
 "Minimuns, Minimums" [(着陸する・しないを決断せねばならない)最低高度だぞ]
のコールアウトをさせることもできます。

これら Final Approach における GPWS Mode 6 の動作を模式化したのが下の図です。

GPWS Mode 6 Smart Callout


次に「機体の極端な左右の傾き」に対してどのような動作をするか説明します。

まずは GPWS Mode 6 の警告特性から見てみましょう。

GPWS Mode 6 Steed Bank Angle Callout


この図を見ればそのままなのですが、電波高度計が計測した高度( Radio Altitude )が地上190フィートにおいて飛行機のロール角(機体重心位置を通り、機体の前後方向に引いた軸を中心とする回転角度;0度の基準は同重心位置で直行する左右方向の軸)が左右どちらかに50度を超えたとき、 GPWS Mode 6 は
 "Bank Angle" [左右傾斜角!]
の警告を発します。

190フィート未満では、その警告を発するバンク角の限界がリニアに厳しくなり、地表面での境界値は15度です。

実運用上、この警告が意味を持つのは、滑走路に接近した状態で、視界不良や夜間などの悪条件が重なった条件下で不用意にバンクをとったとき位でしょう。

スキーをなさる方は“最大斜度”と重ねてイメージしていただくと分かりやすいかと思いますが、50度の傾きと言ったら尋常ではありません。
多分、旅客機でそんなにバンクとったら、窓側のお客様は窓前面に地面か水面が広がる(反対側のお客様は一面の空)ことでしょう。

なによりもエアバスやボーイングの FBW: Fly By Wire 機を始めとする最近のハイテク機では、機体姿勢をコントロールするコンピュータの制御則により、そんな凄まじいバンク角に入れることは出来ません。

よって、 GPWS Mode 6 のこの警告が発せられることはまず無いでしょう。



以上、 GPWS: Ground Proximity Warning System 「地上接近警報装置」の動作について、 Mode 1 から Mode 6 まで6回にわけて説明してきました。
下手で退屈な文章を最後までお付き合いいただきありがとうございました。

そもそも、この「地上接近警報装置」の話をとりあげてみようかな、と思ったモティベーションは、CFIT: Controlled Flight Into Terrain (機材故障などではなく、正常に制御され飛行していた機体の地上・海上への激突)について調べている最中に GPWS について「有効な CFIT 対策装備の一つ」としてちょっと首を突っ込んだことにあります。

GPWS そのものは何一つとして回避操作をしてくれません。
何よりも危険な状態に陥らないようにするのが一番大切であり、万一、何らかの“ヌケ”によって危険な状態に陥ったときに早急な回避を促すためのバックアップ体制として GPWS があります。

GPWS がバックアップ体制として満点でないことは、依然として後を絶たぬ CFIT が原因の事故やインシデント。 GPWS をさらに改良し、地形のデータベースを持ち(カーナビでもお馴染みとなった) GPS: Global Positioning System により自機の位置を得て、自機の周囲の地形・障害物形状を考慮し、より現実的で回避のためのマージンも持った EGPWS: Enhanced GPWS が開発、搭載されはじめていることからも明らかです。

GPWS, EGPWS はこれからも進歩を続けるでしょうが、それ一つで CFIT を防げる訳ではなく、パイロットのトレーニングも含め、トータルなシステムとして CFIT に立ち向かわなければなりません。

最後に、昨今のハイテク機を含む2名乗務機では、合成音声による様々なコールアウト、また注意喚起の警告音があります。
それらは、航空機システムが必要に応じて通常運航時でも発しているものです。
 「コックピットに何か合成音声が響いた == (E)GPWS が作動した」
では必ずしもありませんから、短絡的な誤解はしないで下さい。

※現在、本邦の航空会社では駐機中も含め操縦室へは立入禁止です。よって操縦室内に響く生の音を聞く機会は皆無です。
テレビのドキュメンタリー番組や以下に紹介するような企画ものDVDなどで見聞することができます。

BLUE ON BLUE THE WORLD OF ANA THE GREAT COCKPITS 2 A320/B767/B737

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