徒然なるままに、一旅客の戯言(たわごと)
*** reminiscences ***
PAXのひとりごと
since 17 JAN 2005


(since 17 AUG 2005)

ジェット機のエンジンはそう簡単に故障しない、でも故障はする

近年の技術の進歩により、ジェット機に搭載されている「ターボ・ファン・エンジン」の信頼性は日々向上し、そう簡単には止まらない(故障しない)ようになりました。

飛行中のエンジン停止 IFSD: In-Flight Shut Down は、ある統計(ちょっと古いのですが1994年頃の統計データ)によると、約53万飛行に1回の発生割合である、と言われています。

近代的な高バイパス比のターボ・ファン・エンジン(例えば Boeing777 に搭載されているエンジン)では、IFSD は飛行時間あたり10万分の1以下の確率であるとも言われています。
これが、双発機で2発とも同時に IFSD に追い込まれる確率は10億分の1以下になります。

最近のパイロットは、ひと月の上限飛行時間が決められていますから、ラインアウトしてから飛行時間が2万時間に達することはまず不可能になっています。
つまり、実フライトではエンジン故障を経験することなく定年を迎えるエアライン・パイロットの方が圧倒的に多いのです。
※その代わり、半年に一回の SIM:Simulator シミュレータによる訓練では、離陸の極めてクリティカルな局面でエンジン1発停止、そのまま片肺で視界0に近い中を進入着陸と、下手なサウナよりも余程汗をかく訳ですが....。

私も同年代の平均的な日本人乗客よりはやや飛行時間・飛行回数が多いと思いますが、それでも、エンジン故障にも離陸中断にも遭遇していないラッキーおやじです。

古き良き時代にコックピットの見学が許されていた頃や、今でも回数こそ少ないですが機内で偶然にもお隣の席がDHのキャプテンだったりしたときに、常套句のように質問させていただくのが
「キャプテンは Reject または IFSD のご経験がありますか?」
です。
かなりベテランとお見受けするキャプテンでも「う~ん、無いなぁ」とか「一回だけね、DC-8 の頃」といった回答が殆どです。

つまり、“確率論”的には、今日のジェット機のエンジンはそう簡単に故障しないと言えます。

でも、縁日の出店で買ってもらった“緑亀のPAXくん”は連れて来た翌々日に息を引き取り、店のオヤジさんに「亀は万年生きるって言うじゃないか!」と食ってかかったものの、オヤジさん曰く「う~ん、それはきっと今日が一万年目だったんだな」(ってな訳無いだろう)とかわされたことが。

厳密ではありませんが、イメージしやすくするためにちょっと乱暴な例えをしましょう。

10万枚のトランプを二組用意します。
(お手元にそんなにトランプが無いときは、テーブル・マジックの“ふじいあきら”さんに頼んで出してもらってください
その中に、ジョーカーをそれぞれ1枚ずついれて、よ~くシャッフルします。そして、その二組のトランプを上からそれぞれ1枚、同時に2枚引いていきます。
「ジョーカー」が出たら IFSD 、エンジン停止、最寄の飛行場に着陸しなければなりません。
同時に「ジョーカー」が出たら、エンジン2発停止、双発機ならラムエア発電機(小型の風力発電機)を Deploy して、不時着か Ditching することになるでしょう。

No_Thank_You_IFSD_image

相手は機械ですから、絶対はあり得ません。いきなりジョーカーを引いてしまうことも可能性としてはあるわけです。

そして、忘れてならないのは、その高信頼性は、正しい整備プログラムが実施されていることが大前提だということ。

そして、いくら近代的で現代科学の粋を結集したジェットエンジンと言えども、明日は未知の世界だ、と言うことです。
机上の計算や、これまでの実績でものを言うことはできますが、明日そのエンジンがどのような状況になるかは神のみぞ知ることなのです。
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