井財野は今

昔、ベルギーにウジェーヌ・イザイというヴァイオリニスト作曲家がいました。(英語読みでユージン・イザイ)それが語源です。

アニソン界の神、降臨!

2015-02-24 22:24:08 | アニメ・コミック・ゲーム

田中公平 with 下関市民オーケストラ「オーケストラで聴く人気アニメ音楽」、とチラシやポスターにかいてあった。

神と言うには、かなり普通、いわゆるサラリーマン風とでも言うような風貌の写真が載っている。

曲目は全て・・・よくわからない曲。知っているのは「ドラえもん」と「となりのトトロ」のみ。私が知らないだけではない。オーケストラのメンバーの9割は、私と同じ状況だったようで、誰に尋ねても、何だかよくわからないコンサート。

「アニソンって何?」「アニメのマラソンだろ?」大体、そんな認識からのスタートである。

それのリハーサルにコンマス代理として先日参加した。

初日はカラオケ(歌なし)だったので、わからないものはわからないまま終わった。

とにかくオーケストレーションが複雑で、ここまで細かく書き込まなくても、というのが正直な感想。しかも、時々何調の曲なのかわからなくなる。調性も単純ではなかった。


翌日、田中公平氏がお見えになった。プログラムの半分以上が田中氏の曲で、ピアノを弾きながら、なんと「歌う」のであった。歌われたのは、

・ビンクスの酒

・We go!

・We are

シンガーソングライター出身の作曲家ならともかく、東京芸大とバークリー音楽院を出た作曲家で、まともに歌う人を、私は寡聞にして知らない。

歌は、まともなどという生易しいものではなかった。そこら辺のアイドル歌手は吹っ飛んでしまう、抜群の上手さ。そして、前日のリハーサルは言う所の「画竜点睛を欠く」状態だったことを、オーケストラメンバーは知るところとなった。

複雑なオーケストレーションに段々意味が出て来た。

そして私は(大げさではあるが)戦後日本のアニメ音楽の発展ぶりを肌で感じることができて、感慨無量だったのである。


日本のアニメ音楽は、昭和一ケタの作曲家が礎を築いた(この上の世代は映画音楽世代でアニメは無かった)。

5年前にも似たようなことを書いたが、一応復習すると、代表格は冨田勲(1932- ジャングル大帝etc.)と宮川泰(1931-2006 宇宙戦艦ヤマトetc.)

この昭和一ケタ世代の活躍が長かったのは、戦後日本の全ジャンルに共通していることである。

冨田がシンセサイザーに方向転換しなければ、別の発展をしていたかもしれないが、総じて高度経済成長期のスコアリングは、粗製濫造が目立ったし、プレイヤー側も今程の技術を持ち合わせず、有り体に言えば、安っぽいサウンドが耳についた。

オーケストラ側から言えば、楽器のことをあまりよくわかってないなぁ、という楽譜がかなり多かった時代と言えるだろう。


その昭和のアニメサウンドを聞いて育った世代が、現在第一線の作曲家達になる。必然的にサウンドは洗練される訳だ。

これは演奏家もまた然り。昔がひどい演奏だったという訳ではないが、宇宙戦艦ヤマトの録音で集まったヴァイオリニスト、外山滋先生は「戦艦大和」の映画音楽だと思っていた、という話も5年前に書いた。

さらに重要なことは「オーケストラの各パートは、面白く書かれなければならない」という鉄則が守られていること。

今回演奏する曲は、全て面白い、をやや通り越して複雑で難しい。(後でオリジナルのバンド編成のものを聞くと、なぜここまで音を書き込むのかがわかってくるのだが…。)ほとんどの曲で頻繁に転調がある。

例えば「Family」という曲。聞いただけならば2ビートの緩めの感じがする。

基調はホ長調なのだが、ワンコーラス終わる間に、ハ長調→変ホ長調を経由してホ長調に戻る。その間に借用和音(ホ長調の部分にホ短調の和音を使うようなこと)も多用される。

おまけに、スウィングという指定があり、8分音符の連続を3連音符の長短をつけたように演奏して、しかも本物の3連音符も混じっている。

で、転調する間に4ビートになったり、1小節だけ2拍子が挿入されたり「これで合っているの?」みたいなブルーノート(ジャズで使う音)もある。

極めつけは「We go!」

始まりは単純明快なハ長調、と思いきや、臨時記号がいっぱいで、実質イ長調。それがハ長調に変わり,イ短調を経過して変ト長調(フラット6つ!)、これは8小節で終わり、臨時記号で変ホ長調に変化、そしてハ長調に戻る。1分間あたりで5つ以上の調、これをぐるぐる回るのだ。

しかも四分音符が176というアップテンポ。それをノリノリの田中氏が歌いまくり、最後には、楽譜上での3点ハ音(実音で2点ハ、俗に言うハイC)を伸ばして終わる・・・。

と、文章にしても、あの熱気はまるで伝わらないのだが、とにかく、この田中氏の歌声が決め手になって、オーケストラ全体がロケットに積み込まれて連れて行かれたような気分だった。明らかに、自分以外の力で「ノリノリに」させられている!

数名の熱狂的なワン・ピース・ファンを除き、もう何が起きているのかわからないアラ50のおじさんおばさん集団が大多数。

「全く、若いモンが・・・」と一部思っていた人もいたようだが、田中氏現在61歳、それを知ったアラ50集団は固まってしまった。

私の頭の中に、マタイ伝による福音書の一節がよぎった。

本当に、この方は神の子だったのだ

ただのキャッチコピーだと思っていたけれど、作曲して、それを歌いまくって、それでオーケストラをノリノリにさせてしまう(映画「ベン・ハー」のガレー船もちょっとばかり想起したけど)。しかも、作品は前述の通り、高度な技法が単純な形式の中に盛り込まれている。

そして、これらの作品は、既にロンドン、パリ、モスクワ等でも演奏されていて、現地のファンも熱狂させているとのこと。

そして、当然英訳もあるようだが、楽譜には堂々と日本語でタイトルが書いてある。

「海賊王になるんだ Kaizokuou Ni Narunda」

決して、I'm becoming the Pirate King ではないところが嬉しい。文化交流的に考えれば日本政府のはるか先を行っている。

これらは、大げさではなく神業と言えるだろう。

と、大いなる元気をもらった私、田中神の隠れ信者になってしまった。