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松葉杖日記 “家なきおじさん”に諭されて

2005-06-15 00:29:49 | Weblog
 松葉杖が無くとも歩行可能ではあるが、階段の上り下りに一抹の不安があるため、外出時には携行している。松葉杖を1本持参して自転車にくくりつけるのだ。ただ、急カーブを切ると、松葉杖が“不穏”な動きをするために曲がる時は大幅に速度を落として走る。街中を走っている時、何か四方八方から視線を感じて思わずズボンのズィッパーを確認するが「社会の窓」はしっかり閉まっている。ということは、どうやら自転車に松葉杖を積む姿が珍しいということのようだ。
 駅前で待ち合わせをしている間、軽いストレッチをしていると、背後から「そんなことして大丈夫ですか」と男の声がした。振り返ると、ベンチに座った「家なきおじさん(世間では、ホームレスと呼ぶ)」が心配顔で私を見ていた。
 「私は車にはねられて足を折ってひどい目に遭ったんだ。治るまで長いことかかってね」
 おじさんは自分の体験談を語りながら真顔で私のことを心配してくれた。聞いたところでは、彼はひき逃げされ、治療費も払ってもらえず並々ならぬ苦労をしたという。
 「あんまり無理してリハビリやらん方がいいよ。エッ、もう自転車に乗ってる?」
 彼は治りかけた時に再度骨折したとのことで私の動きを見ていられないという。彼は2度目の骨折にとことん落ち込み、「電車に飛び込もうと思ったよ」と当時の心境を話してくれた。
 「だめだよ、おじさん。そんな安易な死に方しちゃあ。誰が死体を片付けるの。死ぬんだったら人知れず北極とかヒマラヤで死ななきゃ。おじさん結構わがまましてきたんでしょ?死ぬ時までわがままじゃだめだよ」と言う私に拍子抜けしたらしく、
 「アンタ、面白いこと言うね」と、半分以上抜けた歯をむき出しにして笑った。
 その時、待ち合わせている相手から電話が入った。待ち合わせ場所を間違えていた事が判明。そのことを彼に明かすと、「兄さん、しっかりしなよ」と励ましの声を背中に受けた。「ウッ、僕が兄さん?」とかけられた言葉に首をひねったが、よく考えたら彼は70歳と自称していたから彼にとったら私はまだ若造なのかもしれない。 
 
 

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