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かわいい、かわいい

2006-10-23 01:24:26 | Weblog
 パートナーの直子が、「写真を撮ってもらおう」と言った。とても気に入った写真家がいるから二人の写真を撮ってもらいたいと言うのだ。2年前から「撮ってもらうとしたらこの人」と決めていたと言う。

 彼女の想いは良く分かる。少々の照れもあったが、お願いすることにした。そして今日、その「X-DAY」を迎えた。

 直子は楽しいことがあると、何日も前から、いや時には何週間も前からテンションが高くなる。一日に何度もそのことを口にする。これが、彼女の「楽しみ」のバロメーターで、最高レヴェルの楽しみだと、一日に20回30回と心のときめきを言葉にする。今回の撮影に関しても、一ヶ月以上も前からほぼ毎日、聞かされた。また、一日に何度もやり取りするメイルにも登場した。

 前の晩も買ってきた服と手持ちのものを幾つか着替えて「ああだこうだ」とファッション・ショウ状態。

 そして、朝早く起きると、弁当の用意を始めた。撮影が公園で行なわれるから撮り終えたら芝生の上で弁当を広げようと言う。そんな遠足に出かける子供のような彼女を見ていて私もいつしか楽しくなってきた。

 早起きしたはずなのに、いつものごとく時間がなくなり、結局握り飯は私が握る羽目に。ただ無骨な私がやることだ。握り飯はいびつな形にしか握れぬが、ほめ上手な直子に乗せられてナントカ形を整えた。そして、二人はアタフタと慌ただしく出発した。

 電車を乗り継ぎ、着いた先は西東京の野川公園。この公園は、小金井、三鷹、調布の三市にまたがる欧米の公園を想起させる大きな自然公園だ。日本の公園によくあるいろんな機具を置いたり、造作したりというものではなく、雑木林が延々と続く、文字通りの自然公園だ。

 バスを降りると、そこには今日お世話になる写真家、橋本和典さんがにこやかな表情で待ち構えていた。写真家と言っても、読者の皆さんが想像されるような、テレビ・ドラマなどに出てくるいでたちのカメラマンではない。橋本さんはママチャリにカメラバッグを積み、くたびれたTシャツ姿に身を包んだおじさんだ。

 しかし、これがこちらの安心感を誘う。公園に向かう途中、また着いてからもしばらくは雑談をしながら我々のことを少しずつ尋ねてくるが、この御仁、何か安心して色んなことが話せる雰囲気を醸し出している。

 彼の撮影の意図もきちんとこちらに説明してくれる。そして、写してはそれを見せながら被写体をほめる。それもミエミエのほめ方ではなく、こちらが「そうかな?自分って意外にイケテルかも?」と思わせる程度のほめ方だ。

 これに嬉しくなったのが、私ではなく直子の方だ。誰が見ても不細工な私を、結構イケテルと勘違いしている彼女は、普段から私をほめまくるが、この時は、橋本さんのほめ言葉にさらに図に乗って、来年還暦を迎えるオヤジを捕まえて、「かわいい、かわいい」を連発した。その姿は、富士フィルムのTV広告の樹木希林を想像していただければ分かりやすいだろう。

 カメラのモニターに再現される私の画像を見て、「かわいい」を直子が連発するのにつられた橋本さんまでもが、「かわいい、かわいい、これ、かわいい」と言い出したのには、私も呆れるやらおかしいやら。大笑いをしてしまった。

 急に笑い出した私に二人は驚いた様子を見せたが、私が理由を説明すると、二人も大笑い。雑木林の中に三人の笑い声がしばらく続いた。
 
 途中、持参した弁当を三人で食べ、その間にも自己紹介。

 橋本さんは、ナント今では珍しい4人の男の子の父親(私のHPの写真を御覧あれ)。カメラ会社に勤めた後、「青年海外協力隊」の一員としてモルディブやガーナに駐在し、写真技術指導してきたという変り種。写真技術も、写真専門学校に通ったとか、写真家に付いた経験はなく、全て独学だという。

 撮ってもらった写真を見ると、型にはまったポートレートとは違い、被写体の笑顔が自然であると同時に躍動感がある。

 気に入った。私は彼の写真に対する姿勢がとても好きになった。

 「年甲斐もなくかわいいと言われておかしくなった?」と思われるかも知れないが、(確かに全否定は出来ないが…)そうではなく被写体の良さを一生懸命引き出そうとする彼の姿勢が気に入ったのだ。

 結局、最初に言われていた「約1時間の撮影時間」が、優に3時間を越えて一緒にいたのは4時間以上になった。

 最後は近くの喫茶店でお茶を飲みながらお互いの趣味にまで話が及び、近く橋本さんのお宅に遊びに行ったり、彼が贔屓にしている音楽グループのコンサートにご一緒することになった。

 直子は帰り道、何度も飽きることなく「かわいい、かわいい」の話を口にした。それこそ20回30回ではきかなかったろう。結構込み合っていた電車の中でも、人目(耳?)をはばからず話す直子に奇異な目を向ける乗客もいたが、すっかり“洗脳”された私は、そんな目を向ける乗客が変だと思うようになっていた。

【筆者注】
 ぜひ、橋本さんの公式ホームペイジをのぞいていただきたい。特に私のお気に入りは、彼の家族の写真だ。
(http://www.kazufoto.com/)

 

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