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仏女性記者解放から考えること

2005-06-13 00:12:14 | Weblog
 仏外務省は12日、イラクで拉致され人質になっていた仏女性記者フロランス・オブナさんと通訳のイラク人男性フセイン・サアディさんが5ヶ月ぶりに釈放されたと発表した。
 オブナさんは仏リベラシオン紙の記者で、今年1月、バグダッドで何者かに拉致されていた。拉致事件後、インターネット上にオブナさんの映像が確認されていたが、拉致実行者らの身元が判明せず、拉致が政治的なものではなく金目当ての犯行ではないかとの情報が有力視されていた。そういった事情から今回の釈放劇の舞台裏には多額の金銭が動いたのではないかと噂されている。
 リベラシオンという媒体は、現在は多額の広告収入を得る「ブルジョア新聞」との厳しい見方もあるが、73年に発刊された時の反骨精神は今も脈々と生き続け、独特の批判精神と辛口のコラムが特徴のメディアである。そんな反体制的なメディアでもフランス政府は他のマスコミ各社に対するのと同じ姿勢で対応し、今回の人質事件の解決に向けて最大の努力を続けてきた。
 これが日本だったらどうだろうかと考えてみた。例えば私のような政府に対して厳しい発言を繰り返すようなジャーナリストが同様の目に遭ったら日本政府がどのような対処をするかと考えてみたのだ。昨年人質になった3人の若者に対する政府の対応を見れば、大方の想像はついてしまう。政府は恐らくかなりおざなりな救援活動を行なうだけで、「自己責任」という言葉と共に救出を諦めてしまうに違いない。今だから言うが、ジャーナリストの橋田さんが襲撃された時、官邸(小泉首相側)から“オフレコ”で流された情報が、「橋田さんと日本共産党との関係」だったのだ。「だからなんなんだ」と聞き返す記者もいなくて、官邸詰めの記者からその報告を受けた一部の報道機関は“その線”を考えて、報道の内容をトーンダウンさせようとしたと聞く。
 この両政府の対応の違いは、両国の政治だけでなく社会全体の成熟度の違いにあるような気がする。イタリアの女性記者が人質になった時、国民の多くが政府に早期釈放に動くようデモを行ない、釈放されると大喜びしたが、その女性記者はバリバリの共産主義であったのだ。さらに、その記者が釈放直後、米軍の“誤射”を受けると、仏政府から派遣されたガードマンが自らの命を顧みず彼女を守ったのだ。これらのことを考えると、思想の違いを乗り越えて同じ人間として命の重さを考えられる視点が日本社会には決定的に欠けているような気がする。

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