電車に乗ろうとしていたら、Nに会った。最近顔を見せていないが高校1年生になっているはずだ。化粧や染毛こそしていないが、眉毛にソリが入ったせいだろう、一瞬本人かと目を疑った。だが、その姿は現代女子高生の典型のミニスカートの下にズボン姿。中途半端に現代風な女子高生を真似しているだけで、渋谷や新宿を闊歩しているジョシコ-セーとは大分趣が違う。整った顔をしているが、どう見ても男の欲情をそそるとは思えない。だが、どうやらそれは私がNを小さい時から見ていて“オンナ”を感じないだけで、他の男の目には違って映るようだ。
Nは電車に乗るなり、「ネ、ネ、聞いて下さいよ。私この前、痴漢にあったんです」と言ってきた。
Nが言うには、普段は自転車通学だが、その日は雨模様だったので電車に乗ったとのこと。朝の武蔵野線は、身動きできないほど混むが、その時も酷い混みようだったという。すると、前の中年男が痴漢行為をしてきたというのだ。彼女がにらむと男はいったん手を引いたが、しばらくするとまた卑劣な行為を始めたという。
手が自由に動かず、悔しい思いをしたが、電車が南浦和駅に滑り込む前に急ブレーキがかかった。そのお陰で、痴漢男との空間が出来た。短距離走で鍛えた運動神経だ。その瞬間を逃さず、Nは男のコートをつかんだ。そして声を上げた。「この人痴漢です!」。
勇気ある行動である。16歳と言えば、恥ずかしくて我慢してしまうのが普通だ。
ところが、周りの大人たちはといえば、ただ二人を見るだけ。駅に着いてもつかんだ手を放さないNに、男は観念したか、「逃げないから離せよ」と言ったらしい。悔しい思いをしたNはそんな言葉に騙されるはずはない。男を逃がすまいと必死だった。それでも周りは誰一人声をかけてくるわけでもなかったという。
こんな「見て見ぬフリ社会」だから日本はダメなのだ。痴漢がこんなに跋扈している国など他にない。
幸いなことに、近くにいた駅員が異変に気がついて「どうしたんですか」と声をかけてきた。そして、二人を駅の事務室に導いてくれた。しばらくすると事務室に警察官が現れた。Nはここでホッとしたらしい。“味方”が来たと思ったのだろう。
取調べは駅西口にある交番で行われた。取調べにはNが通う高校の担任も付き添ってくれた。
警察が痴漢男を逮捕してくれると信じていたNは、しばらくして大きな失望感と怒りに包まれることになった。逮捕は出来ないというのだ。
その理由は、痴漢行為をしている時にその手をつかんでいれば良かったが、離してしまっているから証拠不十分で逮捕は無理とのことらしい。警察は「7,80%はヤツがやったんだろうけど」「ヤツに直接謝ってもらうか」とNに言っている位だから、痴漢男から自白を取っていたのだろう。
法律的なことは分からないから、明日友人の弁護士に会うことになっているのでついでに見解を聞いてこようと思っているが、Nならずともこんな警察の説明に納得する者はいない。
その夜偶然だが、実は私も同じ南浦和駅で「警察沙汰」に巻き込まれていた。男二人の殴り合いというか、大柄な男が小柄な男を殴る蹴るという暴行が駅構内で行なわれており、それを目撃した私は止めに入ったのだ。
その時、警察は10分以上現れなかった。私は先を急いでいたが、暴行男は目を離せば再び相手に殴りかかる恐れがあった。また、駅員から証人になって欲しいといわれたこともあり、警察が来るまで待っていた。
なかなか現れなかった警察官は、姿を見せたと思ったら次から次に現れ10人以上になった。まさか暴行事件と聞いて少人数で現場に向かうのが怖かったわけでもあるまいが、それにしても極端だ。
私は警察官に簡単に状況を説明し、連絡先を告げてその場を去った。
用事を済ませ、西口交番(Nがその朝いたところ)の前を通りかかった。もし、乞われれば、調書の作成ぐらいには協力するつもりであった。
ガラス戸越しに交番の中に5,6名の警官が暴力男を“取調べ”ている光景が見えた。ところが、取り調べる側も取り調べられる側も緊張感がない。しばらく見ていたが、それはどう見ても談笑しているようにしか見えなかった。失望した私は家路を急いだ。
それから1週間経っても警察から連絡はなかった。そこでこちらから刑事課に電話を入れてみた。すると、担当刑事は私の名前や連絡先が確認できないと言う。私は証人として扱われていなかったのだ。そこで立件はしたのかと問うと、それには答えられぬと刑事は言った。まあ、素性の分からぬ私に情報を漏らすわけにはいかないだろう。
Nと私が関わったこの2つの事件を取って見ても日本の警察が「税金の無駄遣い組織」である事が分かる。こんな警察では、警察に守ってもらうまでは勇気を振り絞って声を上げようとか、捜査に協力しようという気にはならなくなる。警察官の人数不足ばかりが話題になるが、その前に警察がきちんと本来の機能をしているか検証をする必要があるのではないだろうか。
Nは電車に乗るなり、「ネ、ネ、聞いて下さいよ。私この前、痴漢にあったんです」と言ってきた。
Nが言うには、普段は自転車通学だが、その日は雨模様だったので電車に乗ったとのこと。朝の武蔵野線は、身動きできないほど混むが、その時も酷い混みようだったという。すると、前の中年男が痴漢行為をしてきたというのだ。彼女がにらむと男はいったん手を引いたが、しばらくするとまた卑劣な行為を始めたという。
手が自由に動かず、悔しい思いをしたが、電車が南浦和駅に滑り込む前に急ブレーキがかかった。そのお陰で、痴漢男との空間が出来た。短距離走で鍛えた運動神経だ。その瞬間を逃さず、Nは男のコートをつかんだ。そして声を上げた。「この人痴漢です!」。
勇気ある行動である。16歳と言えば、恥ずかしくて我慢してしまうのが普通だ。
ところが、周りの大人たちはといえば、ただ二人を見るだけ。駅に着いてもつかんだ手を放さないNに、男は観念したか、「逃げないから離せよ」と言ったらしい。悔しい思いをしたNはそんな言葉に騙されるはずはない。男を逃がすまいと必死だった。それでも周りは誰一人声をかけてくるわけでもなかったという。
こんな「見て見ぬフリ社会」だから日本はダメなのだ。痴漢がこんなに跋扈している国など他にない。
幸いなことに、近くにいた駅員が異変に気がついて「どうしたんですか」と声をかけてきた。そして、二人を駅の事務室に導いてくれた。しばらくすると事務室に警察官が現れた。Nはここでホッとしたらしい。“味方”が来たと思ったのだろう。
取調べは駅西口にある交番で行われた。取調べにはNが通う高校の担任も付き添ってくれた。
警察が痴漢男を逮捕してくれると信じていたNは、しばらくして大きな失望感と怒りに包まれることになった。逮捕は出来ないというのだ。
その理由は、痴漢行為をしている時にその手をつかんでいれば良かったが、離してしまっているから証拠不十分で逮捕は無理とのことらしい。警察は「7,80%はヤツがやったんだろうけど」「ヤツに直接謝ってもらうか」とNに言っている位だから、痴漢男から自白を取っていたのだろう。
法律的なことは分からないから、明日友人の弁護士に会うことになっているのでついでに見解を聞いてこようと思っているが、Nならずともこんな警察の説明に納得する者はいない。
その夜偶然だが、実は私も同じ南浦和駅で「警察沙汰」に巻き込まれていた。男二人の殴り合いというか、大柄な男が小柄な男を殴る蹴るという暴行が駅構内で行なわれており、それを目撃した私は止めに入ったのだ。
その時、警察は10分以上現れなかった。私は先を急いでいたが、暴行男は目を離せば再び相手に殴りかかる恐れがあった。また、駅員から証人になって欲しいといわれたこともあり、警察が来るまで待っていた。
なかなか現れなかった警察官は、姿を見せたと思ったら次から次に現れ10人以上になった。まさか暴行事件と聞いて少人数で現場に向かうのが怖かったわけでもあるまいが、それにしても極端だ。
私は警察官に簡単に状況を説明し、連絡先を告げてその場を去った。
用事を済ませ、西口交番(Nがその朝いたところ)の前を通りかかった。もし、乞われれば、調書の作成ぐらいには協力するつもりであった。
ガラス戸越しに交番の中に5,6名の警官が暴力男を“取調べ”ている光景が見えた。ところが、取り調べる側も取り調べられる側も緊張感がない。しばらく見ていたが、それはどう見ても談笑しているようにしか見えなかった。失望した私は家路を急いだ。
それから1週間経っても警察から連絡はなかった。そこでこちらから刑事課に電話を入れてみた。すると、担当刑事は私の名前や連絡先が確認できないと言う。私は証人として扱われていなかったのだ。そこで立件はしたのかと問うと、それには答えられぬと刑事は言った。まあ、素性の分からぬ私に情報を漏らすわけにはいかないだろう。
Nと私が関わったこの2つの事件を取って見ても日本の警察が「税金の無駄遣い組織」である事が分かる。こんな警察では、警察に守ってもらうまでは勇気を振り絞って声を上げようとか、捜査に協力しようという気にはならなくなる。警察官の人数不足ばかりが話題になるが、その前に警察がきちんと本来の機能をしているか検証をする必要があるのではないだろうか。