「うつ病」自体は珍しくもなんともない病気で、身近にいる(いた)という人も多いだろう。
←「必ず治る」といい続けたお兄さんがちょっとカッコイイ
会社でもいます。そういう休職の人。私は根つめて仕事したことないからたぶん大丈夫だと思うんだけど…
「うつ病」のイメージとは程遠い人でも、やっぱりあんまりな環境にあるとうつ病(それもひどいやつ)になるんだ!! ということで衝撃的だった本が「うつ病九段 プロ棋士が将棋をなくした一年間(先崎学)」
直接知ってるわけじゃないから勝手なイメージだけど、人生の楽しみ方をいろいろ知ってて、結婚もしてて、仕事も順調で、つきあいも広そうで、本を書けばおもしろく、しゃべってもおもしろい、先崎学九段がこんなにひどいうつ病になるなんて。
それにしても、うつ病になる人って、オーバーワークから生活が回らなくなって、「だんだん」気持ちも落ちていくようなことが多いのかと思っていたけど、この本によれば、先崎さんのうつ病は「この日から」とハッキリいえるくらいの突然。
47回目の誕生日に、ひと仕事終えていつものボクシングジムへ行き、帰りに家族で食事をして幸せなひととき、ビール2、3杯飲んで、要するにとても元気に楽しく、生活に余裕のある一日を過ごして…そしてその翌日。
起きている時は常に頭が重く気分が暗い
という状態に落ち込んだ。ふつうなら一日の中で、楽しい時間と嫌な時間が両方あるとか、休めば疲れが取れるとか、いろいろな変化があるだろうけどそれがない。常にどんより。そして寝入りが悪い、朝の四時には目が覚めてしまうという睡眠リズムの乱れからさらにどんどん悪化していく。
そして不安…不安がない人というのもいなくて、いろいろそれぞれに抱えているだろうけど、具体的な対象のない、得体の知れない不安。そして決断力が鈍り、集中もできなくなり、将棋で勝てないのはもちろん、「昼食を食べに行く」というような簡単なこともできない。脳内には死のイメージが駆け巡り、衝動的に飛び込みたくなるのが自分でもわかるから怖くて電車にも乗れない。
しかしここで幸運だったのは、先崎のお兄さんが有能な精神科医だったこと。早速、入院準備から本人の説得から、なんとか自殺しないうちに病院につっこんだのはGJとしかいいようがない。
治療の初動で最も重要なのは自殺防止だが、そのほかにも、本人の病識というのもいまいちだから、すっぱり仕事の整理をさせるのも一苦労なんだなということは読んでいてよくわかった。先崎も、こんな状態なのに最初は1、2ヶ月で復帰できるつもりで予定を組もうとするんだから…
典型的な、そして相当重症のうつ病になり、一年くらいかけて徐々に回復した、という話であればおそらく全国にいくらでも溢れているのだろうけど、この本のすごいところは2つある。
・先崎の文章力がものすごく優れていること
・脳みその働きの状況が的確にわかるように書かれていること
文章力が優れていることは、これまで何冊ものエッセイ本を(楽しく)読んで知っていたけれど、ほとんどゾンビ状態だった時期(もちろんメモなど取ってない)も含めて思い出しながらこんなに生き生きと…いや状態はちっとも生き生きしてないんだけどゾンビ状態であったことを生々しく書けるというのはすごい。
入院直後はほんとうに最悪な状況だったらしいけど、10日ほど経ってようやく、シャワーを浴び、「そのかすかな心地よい感覚にすごく懐かしいものを感じた」。続いて、昼食では「ちょっとだけ美味しいと感じた」。それまではまったく味がしなくて流し込んでいたから。そののち横になっていると、なんの脈絡もなく頭の奥から「エロ動画が観たい」というサインが送られてきたそうなので、ほんとにこれが人間(?)に戻った瞬間だったのだろう。
入院して10日でいちおう人間に戻るんなら、回復も早そうに思うけれどこれがちゃんと一年かかってしまう長い道のりになるのだ。なにしろ、ようやく活字が読めるようになったとはいえ、見出し程度の長さのものなら「読める」けど中身はわからない、四コマ漫画ですらストーリー(というほどのものじゃないが)がわからないし何がおもしろいかもわからないという状態なんだから…ここからプロとして将棋を指せるまではそれはずいぶんな距離があっても不思議はない。
そこで「脳みその働きの状況が的確にわかるように書かれていること」なんだけど、ふつうの人の闘病記だったら、いろんな面の回復がただ主観的な記録にしかならないところ、この「うつ病九段」の中では「実に類型的な七手詰がまったく詰まない」という状態から始まって、どのくらい将棋が指せるようになったかが具体的に書かれていて、ほんとうに薄皮を一枚いちまい剥いでいくようにじわじわと回復してくる様子がほとんど定量的といってもいいくらいにわかる。
回復の終盤戦、奨励会員相手に30秒将棋を指し、二十数手詰をちゃんと読みきって勝ったところとか、読んでいるほうもヤッター!! ここまでキター!! などと思ってしまう。
復帰を強く願うあまり、将棋の面では真面目に闘病というよりずいぶん無理して指しているようにみえるけれど、全体としてみて病状が後戻りすることなく、順調にプロ(お兄さん)の見立てどおり一年で回復したのは、いちおう将棋以外の面では「うつ病を治す心得(睡眠と散歩)」を守ったからだろうか。
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「はじめての中学受験 第一志望合格のためにやってよかった5つのこと~アンダンテのだんだんと中受日記完結編」ダイヤモンド社
←またろうがイラストを描いた本(^^)

「発達障害グレーゾーン まったり息子の成長日記」ダイヤモンド社

会社でもいます。そういう休職の人。私は根つめて仕事したことないからたぶん大丈夫だと思うんだけど…
「うつ病」のイメージとは程遠い人でも、やっぱりあんまりな環境にあるとうつ病(それもひどいやつ)になるんだ!! ということで衝撃的だった本が「うつ病九段 プロ棋士が将棋をなくした一年間(先崎学)」
直接知ってるわけじゃないから勝手なイメージだけど、人生の楽しみ方をいろいろ知ってて、結婚もしてて、仕事も順調で、つきあいも広そうで、本を書けばおもしろく、しゃべってもおもしろい、先崎学九段がこんなにひどいうつ病になるなんて。
それにしても、うつ病になる人って、オーバーワークから生活が回らなくなって、「だんだん」気持ちも落ちていくようなことが多いのかと思っていたけど、この本によれば、先崎さんのうつ病は「この日から」とハッキリいえるくらいの突然。
47回目の誕生日に、ひと仕事終えていつものボクシングジムへ行き、帰りに家族で食事をして幸せなひととき、ビール2、3杯飲んで、要するにとても元気に楽しく、生活に余裕のある一日を過ごして…そしてその翌日。
起きている時は常に頭が重く気分が暗い
という状態に落ち込んだ。ふつうなら一日の中で、楽しい時間と嫌な時間が両方あるとか、休めば疲れが取れるとか、いろいろな変化があるだろうけどそれがない。常にどんより。そして寝入りが悪い、朝の四時には目が覚めてしまうという睡眠リズムの乱れからさらにどんどん悪化していく。
そして不安…不安がない人というのもいなくて、いろいろそれぞれに抱えているだろうけど、具体的な対象のない、得体の知れない不安。そして決断力が鈍り、集中もできなくなり、将棋で勝てないのはもちろん、「昼食を食べに行く」というような簡単なこともできない。脳内には死のイメージが駆け巡り、衝動的に飛び込みたくなるのが自分でもわかるから怖くて電車にも乗れない。
しかしここで幸運だったのは、先崎のお兄さんが有能な精神科医だったこと。早速、入院準備から本人の説得から、なんとか自殺しないうちに病院につっこんだのはGJとしかいいようがない。
治療の初動で最も重要なのは自殺防止だが、そのほかにも、本人の病識というのもいまいちだから、すっぱり仕事の整理をさせるのも一苦労なんだなということは読んでいてよくわかった。先崎も、こんな状態なのに最初は1、2ヶ月で復帰できるつもりで予定を組もうとするんだから…
典型的な、そして相当重症のうつ病になり、一年くらいかけて徐々に回復した、という話であればおそらく全国にいくらでも溢れているのだろうけど、この本のすごいところは2つある。
・先崎の文章力がものすごく優れていること
・脳みその働きの状況が的確にわかるように書かれていること
文章力が優れていることは、これまで何冊ものエッセイ本を(楽しく)読んで知っていたけれど、ほとんどゾンビ状態だった時期(もちろんメモなど取ってない)も含めて思い出しながらこんなに生き生きと…いや状態はちっとも生き生きしてないんだけどゾンビ状態であったことを生々しく書けるというのはすごい。
入院直後はほんとうに最悪な状況だったらしいけど、10日ほど経ってようやく、シャワーを浴び、「そのかすかな心地よい感覚にすごく懐かしいものを感じた」。続いて、昼食では「ちょっとだけ美味しいと感じた」。それまではまったく味がしなくて流し込んでいたから。そののち横になっていると、なんの脈絡もなく頭の奥から「エロ動画が観たい」というサインが送られてきたそうなので、ほんとにこれが人間(?)に戻った瞬間だったのだろう。
入院して10日でいちおう人間に戻るんなら、回復も早そうに思うけれどこれがちゃんと一年かかってしまう長い道のりになるのだ。なにしろ、ようやく活字が読めるようになったとはいえ、見出し程度の長さのものなら「読める」けど中身はわからない、四コマ漫画ですらストーリー(というほどのものじゃないが)がわからないし何がおもしろいかもわからないという状態なんだから…ここからプロとして将棋を指せるまではそれはずいぶんな距離があっても不思議はない。
そこで「脳みその働きの状況が的確にわかるように書かれていること」なんだけど、ふつうの人の闘病記だったら、いろんな面の回復がただ主観的な記録にしかならないところ、この「うつ病九段」の中では「実に類型的な七手詰がまったく詰まない」という状態から始まって、どのくらい将棋が指せるようになったかが具体的に書かれていて、ほんとうに薄皮を一枚いちまい剥いでいくようにじわじわと回復してくる様子がほとんど定量的といってもいいくらいにわかる。
回復の終盤戦、奨励会員相手に30秒将棋を指し、二十数手詰をちゃんと読みきって勝ったところとか、読んでいるほうもヤッター!! ここまでキター!! などと思ってしまう。
復帰を強く願うあまり、将棋の面では真面目に闘病というよりずいぶん無理して指しているようにみえるけれど、全体としてみて病状が後戻りすることなく、順調にプロ(お兄さん)の見立てどおり一年で回復したのは、いちおう将棋以外の面では「うつ病を治す心得(睡眠と散歩)」を守ったからだろうか。
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