グッチのヨーコさん
私が新宿区担当に大分慣れて来た頃、会社では当時1番売れていたウイスキーよりもワンランク上の商品を拡売するよう指示を始めました。そしてしばらくして新宿3丁目にワンランク上の商品を専門に扱ってくれるスナックがオープンしました。お店の名はグッチ、そしてママの名前はヨーコさんと言いました。
グッチのヨーコさんは山本リンダを少しふくよかにしたような美人でおっとりとしていて、少し頭が弱いのかと思わせる所も有る、男性にとっては魅力的な人でした。開店のお祝いに訪問した時こそヨーコさんも私も緊張しましたが、それから何度かお店を訪ねるようになるとお互いにすっかり打ち解けました。私はヨーコさんの魅力に惹かれて月に2~3度はお店に通うようになりました。お店には1人常連客も出来ていてボトルキープしたオールドパーをカウンターで飲んでいるのですが、私がお店に入るとヨーコさんはその客はほったらかしにして私にべったり付いてくれるのですから私は気分の悪かろう筈がありません。
さて会社には業務店調査費というのがあって、営業部員はそれを使って業務店回りをします。しかし業務店調査費はその性格上同じ店を月に1回までしか使えません。ちょうどその頃私と同じ営業所には私と同期のYYが居て中野区を担当していました。同期のYYも中野区に馴染のお店が出来ていて業務店調査費をうまく使い回していました。会社に業務店調査費を請求するには領収書に併せて会社で毎月配布される月次の業務店調査表を提出します。調査表には訪問日、店名、金額、調査内容の記入欄があります。同期のYYの馴染のお店を例えばスナック・グリーンだとしましょうか。同期のYYは調査表に最初はスナック・グリーンと記入し、2回目には平仮名ですなっく・ぐりーんと記入し、3回目にはアルファベットでSnack Greenと記入して営業所長の目をくぐり抜けていました。そして私はその逆をやりました。1度目と2度目の領収書を自分で保管しておき、3度目に合わせて3回分の金額を領収書に書いてもらい、月に1回をクリアしたのです。皆、苦労しましたよ。
グッチへは私1人で行ったり気の合う仲間と2~3人で行ったりしてはカラオケで盛り上がりました。そしてお店が閉まるまで1人で居残った時にはタクシーでヨーコさんをお家へ送ってそのまま帰宅しました。タクシーではヨーコさんとキスもしました。
ヨーコさんには愛人と思われる男が居て、男から電話があるとヨーコさんは男と喧嘩して、「今日はお客さんとホテルへ行くんだから」などと言いました。お客さんとは私の事です。男へのあてつけなのか少しは本気なのか悩ましいところでした。私はヨーコさんとホテルへ行きたいとも思いましたが、お店を閉めてからですと時間も遅く眠気の方が性欲に勝ってしまうのは自分でも分かっていて、結局は帰宅しました。そしてそんな事は何度か有りました。しかし私には「浮気はしたくない」という思いも一方で確かに有ったと思います。私の思いは揺れ動いていました。
ウイークデーのある夜めずらしく早くに帰宅していますと、同期のYYから電話が掛かってきました。同期のYYは言います、「今グッチから電話してるんだ、ママと替わるよ」。ママと少し話をした私は同期のYYに替わってもらい、「公私混同は止めてくれ」と怒って電話を切りました。思い返してみますと「公私混同」は私ですよね。
狭い社宅に住んでいるので噂はすぐに広がります。ある日曜日の朝私がソファーで日経新聞の朝刊を読んでいますと、当時3才か4才になっていた長女が「グッチのヨーコさん、グッチのヨーコさん」と言いながら私の前を通り過ぎました。私の持っていた日経新聞はパッタリと半分に折れました。先の妻が長女に言わせたのです。カミナリが落ちるぞ、いや、ヒステリーかな。しかし意外な事に先の妻は以前よりも増して私に優しくなりました。
「妻には1本取られた!」。そしてそれから私はいっそう妻一筋となりました。おしまい。
私が新宿区担当に大分慣れて来た頃、会社では当時1番売れていたウイスキーよりもワンランク上の商品を拡売するよう指示を始めました。そしてしばらくして新宿3丁目にワンランク上の商品を専門に扱ってくれるスナックがオープンしました。お店の名はグッチ、そしてママの名前はヨーコさんと言いました。
グッチのヨーコさんは山本リンダを少しふくよかにしたような美人でおっとりとしていて、少し頭が弱いのかと思わせる所も有る、男性にとっては魅力的な人でした。開店のお祝いに訪問した時こそヨーコさんも私も緊張しましたが、それから何度かお店を訪ねるようになるとお互いにすっかり打ち解けました。私はヨーコさんの魅力に惹かれて月に2~3度はお店に通うようになりました。お店には1人常連客も出来ていてボトルキープしたオールドパーをカウンターで飲んでいるのですが、私がお店に入るとヨーコさんはその客はほったらかしにして私にべったり付いてくれるのですから私は気分の悪かろう筈がありません。
さて会社には業務店調査費というのがあって、営業部員はそれを使って業務店回りをします。しかし業務店調査費はその性格上同じ店を月に1回までしか使えません。ちょうどその頃私と同じ営業所には私と同期のYYが居て中野区を担当していました。同期のYYも中野区に馴染のお店が出来ていて業務店調査費をうまく使い回していました。会社に業務店調査費を請求するには領収書に併せて会社で毎月配布される月次の業務店調査表を提出します。調査表には訪問日、店名、金額、調査内容の記入欄があります。同期のYYの馴染のお店を例えばスナック・グリーンだとしましょうか。同期のYYは調査表に最初はスナック・グリーンと記入し、2回目には平仮名ですなっく・ぐりーんと記入し、3回目にはアルファベットでSnack Greenと記入して営業所長の目をくぐり抜けていました。そして私はその逆をやりました。1度目と2度目の領収書を自分で保管しておき、3度目に合わせて3回分の金額を領収書に書いてもらい、月に1回をクリアしたのです。皆、苦労しましたよ。
グッチへは私1人で行ったり気の合う仲間と2~3人で行ったりしてはカラオケで盛り上がりました。そしてお店が閉まるまで1人で居残った時にはタクシーでヨーコさんをお家へ送ってそのまま帰宅しました。タクシーではヨーコさんとキスもしました。
ヨーコさんには愛人と思われる男が居て、男から電話があるとヨーコさんは男と喧嘩して、「今日はお客さんとホテルへ行くんだから」などと言いました。お客さんとは私の事です。男へのあてつけなのか少しは本気なのか悩ましいところでした。私はヨーコさんとホテルへ行きたいとも思いましたが、お店を閉めてからですと時間も遅く眠気の方が性欲に勝ってしまうのは自分でも分かっていて、結局は帰宅しました。そしてそんな事は何度か有りました。しかし私には「浮気はしたくない」という思いも一方で確かに有ったと思います。私の思いは揺れ動いていました。
ウイークデーのある夜めずらしく早くに帰宅していますと、同期のYYから電話が掛かってきました。同期のYYは言います、「今グッチから電話してるんだ、ママと替わるよ」。ママと少し話をした私は同期のYYに替わってもらい、「公私混同は止めてくれ」と怒って電話を切りました。思い返してみますと「公私混同」は私ですよね。
狭い社宅に住んでいるので噂はすぐに広がります。ある日曜日の朝私がソファーで日経新聞の朝刊を読んでいますと、当時3才か4才になっていた長女が「グッチのヨーコさん、グッチのヨーコさん」と言いながら私の前を通り過ぎました。私の持っていた日経新聞はパッタリと半分に折れました。先の妻が長女に言わせたのです。カミナリが落ちるぞ、いや、ヒステリーかな。しかし意外な事に先の妻は以前よりも増して私に優しくなりました。
「妻には1本取られた!」。そしてそれから私はいっそう妻一筋となりました。おしまい。