福島章恭 合唱指揮とレコード蒐集に生きるⅢ

合唱指揮者、音楽評論家である福島章恭が、レコード、CD、オーディオ、合唱指揮活動から世間話まで、気ままに綴ります。

ベーム&SKDの「フィデリオ」黒エテルナ未開封盤

2016-03-07 11:00:45 | レコード、オーディオ



留守中に溜まりに溜まった野暮用を片付けなければならないというのに、まずはレコード観賞からとのこと(なんという意志薄弱!)で、件のベルリンのレコード店Robert Hartwigで入手したものから、カール・ベーム指揮シュターツカペレ・ドレスデンによる「フィデリオ」(1969年)を聴いている。選んだカートリッジは先代光悦メノウだ。




この録音は勿論グラモフォンのレコードやCDでは聴いたことがあったけど、エテルナ盤だとまるで別の音楽に聴こえる。

今までは、どこか乾いた響に乏しい音だと感じていたのだが・・・。

これぞSKDという、なんと深い音色にライヴのように活き活きとした息遣い! これぞエテルナ・マジック!!

レコード蒐集家垂涎の旧東独エテルナの黒レーベル、しかも、未開封盤。 まるで缶詰めを開けたように47年前の音が最新録音のように目の前で鳴っている、という歓びこそは何ものにも代え難い。 

ライプツィヒでしこたまレコードを買っていたなら、ベルリンのお店を訪れることもなかったかも知れず、これもまた天のお導きと呼べるだろう。

因みに、この稀少な未開封盤も市場価格からみると破格の安値にてお譲り頂いた(具体的な金額は内緒)。
「ディーラーには適正な価格で売るけれど、君はアーティストだから特別だ」とのこと。

まこと、聖トーマス教会で指揮したということが、このバッハ好きの店主には水戸黄門の印籠のような絶大な効果を与えたようである。ありがたいことだ。

ベートーヴェン:歌劇『フィデリオ』全曲
ギネス・ジョーンズ(S)、ジェイムズ・キング(T)、エディット・マティス(S)、テオ・アダム(Bs)、マルッティ・タルヴェラ(Bs)、ペーター・シュライヤー(T)、フランツ・クラス(Bs)
カール・ベーム(指揮) ドレスデン国立歌劇場管弦楽団&合唱団 

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レコード店主の自室でテノール歌手とバッハ談義

2016-03-07 09:33:11 | コーラス、オーケストラ

というわけで、3月3日の最初の訪問翌日、午前10時にベルリンのレコード店Robert Hartwigを訪ねると店舗には入らず、「着いてこい」と店主の自宅へ招かれそこでレコード捜索となった。

山と積まれた段ボール箱の中身をいくつか見終えたとき、玄関で呼び鈴が鳴った。

「おお、ベネディクトが来たぞ!」

とのことでやって来たのが、写真左のテノール歌手Benedikt Kristjanssonさんであった。

http://www.kristjansson-tenor.com

店主ロベルトさんによれば、「アイルランド出身のテノール歌手で、バッハのエヴァンゲリストのスペシャリスト」とのこと。聖トーマス教会で「マタイ受難曲」を指揮したわたしに、どうしても引き合わせたかったらしい。

その録音のいくつかを聴かせて頂いたが、ベネディクトさんはまだ20代の新進気鋭ながら、声の純粋な美しさ、伸びやかさにおいて、確実に世界レベルにある。

今年の受難節には、「マタイ受難曲」のエヴァンゲリストとしてラインベルト・デ・レーウ指揮オランダ・バロック・ソサエティ&オランダ室内合唱団とともに5回もの公演を行うという。

大家レーウに抜擢されたということからも、その実力が窺い知れよう。

「オランダの人々の『マタイ受難曲』好きは常軌を逸している。我々の他にもガーディナーその他、至る所で『マタイ、マタイ、マタイ・・・』。それでいて、『ヨハネ受難曲』の演奏は数えるほどしかないのも愉快な話だ(笑)」

とは、ベネディクトさんの談。

「メンゲルベルクの時代からの伝統でしょうね」とわたしが返すと、そこで店主ロベルトさんが「おお、メンゲルベルク! カール・エルプは本当に素晴らしい!」と大声を上げる。

「メンゲルベルクの演奏は、たしかにロマンティックだけれど美しい。どのようなスタイルでも崩れることのないのがバッハの素晴らしさだ」(ベネディクト)

「そう、その通り。これがヘンデルだとそうはいかない。バッハの音楽にはどんなスタイルをも飲み込んでしまう力があるんだ」(ロベルト店主)

価値観の共有できる人々との会話は愉しい。メンゲルベルクをゲテモノ扱いする音楽学者には分からないだろうなぁ、この感覚は。

さて、ベネディクトさんに、東京ジングフェラインとの東京公演の録音を聴いて頂いたところ、「おお、良いテンポだね。ボクはこのテンポが好きだよ」との嬉しいお言葉。

その後は、最近流行の速いテンポではバッハの真実は伝わらない、ということで意気投合。

ここには具体的な名前は書かないけれど、「世評の高い○○や△△の録音は、聴くに堪えない」との意見も一致した(笑)。というより、ベネディクトさんの方が毒舌だったかも・・・。

ということで、将来、共演の機会などあれば嬉しいね、ということで、店主を交えての愉しいバッハ談義は幕となった。

本当にそんな日が来る。なんだか、そんな気がしてならない。


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