(今日の写真はNHK弘前文化センター講座「津軽富士・岩木山」の野外観察で見たカミキリムシ科ハンノキカミキリの幼虫とハンノキの髄に沿って穿って食べた跡である。枯れたミズナラの葉の上にいるのが幼虫だ。)
●● ハンノキカミキリのこと ●●
虫の名は幼虫がハンノキ(榛の木)を食べることによる。この写真のように、カミキリムシの幼虫は木材に穴を開けて、生木を弱らせ、枯れさせてしまうのである。
だから、木材の商品価値を無くしたり、一方で、成虫は木や葉、または果実を食害するので、林業や農業ではカミキリムシは害虫の一つとされている。
しかし、森全体という「視点」で眺めると、これらカミキリムシの幼虫は「増え過ぎる」樹木の「間引き」の役割をして「健全な自然の森林作り」に何役も担っているのである。人工林では害虫として扱われるが「自然林・天然林」では逆に「益虫」となるという事実を私たちは常々忘れるべきではない。
これは北海道、利尻島、本州、伊豆諸島(大島、新島)、四国、九州から北方の千島列島、樺太に生息しているそうだ。
寄生する樹木はヤマナラシやシラカバ、ヤシャブシ類にハンノキ類だそうである。成虫になると体長は15~22mmでほっそりとした小型のカミキリムシである。)
さすが、同行して講師を務めた昆虫の「虫」本会会長の阿部さんの「蘊蓄」のなせる技である。観察や散策を続けながら進んでいったところ、会長が突然一人だけ遅れた。私たちの後ろについてこないのだ。
私は観察会の時には、いつも「枝きり鋏」と小型の「鉈(なた)」、時にはそれらに加えて「鋸(のこ)」を腰に着けている。その日は鋸を持ってはいなかった。しかし、会長は持っている鋸である木を切っていたのである。それが遅れた理由だ。そして、切った木が今日の写真の「ハンノキ」なのである。
私たちには見えないが、会長は目敏く「ハンノキカミキリ」の幼虫が潜り込んでいるハンノキを見つけて、その部分を20cmほどに切り出したのである。
最後の堰堤に着いて、昼食をとり終えてから会長はその20cmの「丸太」を「枝きり鋏」を使い、写真のようにきれいに半分に「割いた」のである。それをザックの表に並べたのがこの写真なのだ。
直径が3cm程度、長さが20cmというこの丸太には6匹の幼虫が「暮らしていた」。現在は11月半ば、春に幼虫が羽化するまで、このハンノキを中から「食い尽くす」のである。これでは、枯れてしまうしかあるまい。
枯れた後の「日だまり」にはまた別の樹種が育っていくのだ。ちいさな「森林の更新」がこうして始まるのである。
●● 「柳の枯れ葉」から柳と日本人との関わりを探ろう ●●
緩やかな沢水の流れには白っぽい柳の葉が何枚も沈んでいた。ある受講者が「魚のようだ」と言った。そこからみんなで「柳」という樹木やその葉が私たちの生活とどれだけ深い関わりを持ちながら歴史を育んできたかを考えることにした。
そこで、導入部として『「柳の葉」という名前を持った魚がいます。北海道で獲れます。最近ではノルウヘイなどからも輸入されているようです。何でしょうか』と尋ねる。
返答がない。そこで『「子持ち何とか」などと呼ばれてスーパーの鮮魚売り場で売られています。火にあぶって酒の肴にすると最高です』などと言いながらヒントを与える。
…誰かが恐る恐る小さな声で「シシャモですか」と答えた。
そのとおりである。「柳葉魚」と書いて「シシャモ」と読む。元々はアイヌ語で、海産のキュウリウオ科で硬骨魚である。外形はワカサギに似ているが、全長は約15cmとワカサギよりはうんと大きい。アイヌの人が「シシャモ」と呼んでいたものに、その外形から「柳の葉」に似ているので「柳葉魚」という漢語を充てたのである。
ヤナギ(柳・楊柳)は日本人にとって古来から馴染みの樹木だ。世界には北半球北部を中心に約400種があるそうで、日本には90種以上もあると言われている。
代表的なものは、シダレヤナギ、コリヤナギ、カワヤナギなどで、私たちが沢水の中に見たものはカワヤナギやバッコヤナギ(別名ヤマネコヤナギ)の葉である。ヤマネコヤナギもネコヤナギも川辺に見かけるヤナギ科ヤナギ属の落葉低木だ。北海道南西部と近畿地方以北に見られる。早春、葉が出る前に芽鱗を脱いだばかりの花序は大きく銀白色に輝いてよく目立つ。
万葉集にはネコヤナギを詠んだ歌は、数首あるが、いずれも、ネコヤナギとは言わず「かはやぎ」と詠まれている。
花は尾状花序。雌雄異株で、雌雄花ともに花被はない。果実は成熟後2裂して、冠毛のある多数の種子を飛散させる。四月上旬、大きくなった雌花の穂には、ヒガラなどの野鳥が、穂の蜜腺に集まる虫を捕食するために集まるのだ。この穂は後に柳絮(リュウジョ)と呼ばれる綿毛となって飛びまがうのである。
木材は器具および薪炭(しんたん)の材料となる。現在も全国的に、庭木または街路樹として植栽されていて、その馴染み度は非常に高い。
拙著「カラーガイド 岩木山・花の山旅」の18ページで「ヤマネコヤナギ」を紹介しているが「ヤナギ」という名称の由来については説明がないので、この場を借りて「ヤナギ」の名称由来について簡単に触れておこう。
ヤナギは元々「楊之木(ヨウノキ)」と呼ばれていたようである。「楊」の意はヤナギである。西洋やシベリヤのヤナギには今でもこの漢字を当てている。その「ヨウノキ」が転訛して「ヤナギ」となったものと考えるのが妥当だろう。
(明日に続く。)
●●天の配剤、自然は名工である…屹立する巨岩●●
(この稿も明日に続く。)
●● ハンノキカミキリのこと ●●
虫の名は幼虫がハンノキ(榛の木)を食べることによる。この写真のように、カミキリムシの幼虫は木材に穴を開けて、生木を弱らせ、枯れさせてしまうのである。
だから、木材の商品価値を無くしたり、一方で、成虫は木や葉、または果実を食害するので、林業や農業ではカミキリムシは害虫の一つとされている。
しかし、森全体という「視点」で眺めると、これらカミキリムシの幼虫は「増え過ぎる」樹木の「間引き」の役割をして「健全な自然の森林作り」に何役も担っているのである。人工林では害虫として扱われるが「自然林・天然林」では逆に「益虫」となるという事実を私たちは常々忘れるべきではない。
これは北海道、利尻島、本州、伊豆諸島(大島、新島)、四国、九州から北方の千島列島、樺太に生息しているそうだ。
寄生する樹木はヤマナラシやシラカバ、ヤシャブシ類にハンノキ類だそうである。成虫になると体長は15~22mmでほっそりとした小型のカミキリムシである。)
さすが、同行して講師を務めた昆虫の「虫」本会会長の阿部さんの「蘊蓄」のなせる技である。観察や散策を続けながら進んでいったところ、会長が突然一人だけ遅れた。私たちの後ろについてこないのだ。
私は観察会の時には、いつも「枝きり鋏」と小型の「鉈(なた)」、時にはそれらに加えて「鋸(のこ)」を腰に着けている。その日は鋸を持ってはいなかった。しかし、会長は持っている鋸である木を切っていたのである。それが遅れた理由だ。そして、切った木が今日の写真の「ハンノキ」なのである。
私たちには見えないが、会長は目敏く「ハンノキカミキリ」の幼虫が潜り込んでいるハンノキを見つけて、その部分を20cmほどに切り出したのである。
最後の堰堤に着いて、昼食をとり終えてから会長はその20cmの「丸太」を「枝きり鋏」を使い、写真のようにきれいに半分に「割いた」のである。それをザックの表に並べたのがこの写真なのだ。
直径が3cm程度、長さが20cmというこの丸太には6匹の幼虫が「暮らしていた」。現在は11月半ば、春に幼虫が羽化するまで、このハンノキを中から「食い尽くす」のである。これでは、枯れてしまうしかあるまい。
枯れた後の「日だまり」にはまた別の樹種が育っていくのだ。ちいさな「森林の更新」がこうして始まるのである。
●● 「柳の枯れ葉」から柳と日本人との関わりを探ろう ●●
緩やかな沢水の流れには白っぽい柳の葉が何枚も沈んでいた。ある受講者が「魚のようだ」と言った。そこからみんなで「柳」という樹木やその葉が私たちの生活とどれだけ深い関わりを持ちながら歴史を育んできたかを考えることにした。
そこで、導入部として『「柳の葉」という名前を持った魚がいます。北海道で獲れます。最近ではノルウヘイなどからも輸入されているようです。何でしょうか』と尋ねる。
返答がない。そこで『「子持ち何とか」などと呼ばれてスーパーの鮮魚売り場で売られています。火にあぶって酒の肴にすると最高です』などと言いながらヒントを与える。
…誰かが恐る恐る小さな声で「シシャモですか」と答えた。
そのとおりである。「柳葉魚」と書いて「シシャモ」と読む。元々はアイヌ語で、海産のキュウリウオ科で硬骨魚である。外形はワカサギに似ているが、全長は約15cmとワカサギよりはうんと大きい。アイヌの人が「シシャモ」と呼んでいたものに、その外形から「柳の葉」に似ているので「柳葉魚」という漢語を充てたのである。
ヤナギ(柳・楊柳)は日本人にとって古来から馴染みの樹木だ。世界には北半球北部を中心に約400種があるそうで、日本には90種以上もあると言われている。
代表的なものは、シダレヤナギ、コリヤナギ、カワヤナギなどで、私たちが沢水の中に見たものはカワヤナギやバッコヤナギ(別名ヤマネコヤナギ)の葉である。ヤマネコヤナギもネコヤナギも川辺に見かけるヤナギ科ヤナギ属の落葉低木だ。北海道南西部と近畿地方以北に見られる。早春、葉が出る前に芽鱗を脱いだばかりの花序は大きく銀白色に輝いてよく目立つ。
万葉集にはネコヤナギを詠んだ歌は、数首あるが、いずれも、ネコヤナギとは言わず「かはやぎ」と詠まれている。
花は尾状花序。雌雄異株で、雌雄花ともに花被はない。果実は成熟後2裂して、冠毛のある多数の種子を飛散させる。四月上旬、大きくなった雌花の穂には、ヒガラなどの野鳥が、穂の蜜腺に集まる虫を捕食するために集まるのだ。この穂は後に柳絮(リュウジョ)と呼ばれる綿毛となって飛びまがうのである。
木材は器具および薪炭(しんたん)の材料となる。現在も全国的に、庭木または街路樹として植栽されていて、その馴染み度は非常に高い。
拙著「カラーガイド 岩木山・花の山旅」の18ページで「ヤマネコヤナギ」を紹介しているが「ヤナギ」という名称の由来については説明がないので、この場を借りて「ヤナギ」の名称由来について簡単に触れておこう。
ヤナギは元々「楊之木(ヨウノキ)」と呼ばれていたようである。「楊」の意はヤナギである。西洋やシベリヤのヤナギには今でもこの漢字を当てている。その「ヨウノキ」が転訛して「ヤナギ」となったものと考えるのが妥当だろう。
(明日に続く。)
●●天の配剤、自然は名工である…屹立する巨岩●●
(この稿も明日に続く。)