(今日の写真は岩木山山頂の上空を飛ぶイヌワシの幼鳥である。これは私が撮影したものだ。)
その日は遠足で鰺ヶ沢長平旅行村にいっていた。昼食後の1時過ぎに、山岳部の生徒2人と長平登山道を登り、百沢に降りたのである。そして、百沢からの最終バスで弘前に戻ったのだ。登り初めの「場所」に注目してほしい。今は、自動車で標高600m近くまで行くことが出来るが、「長平旅行村」の標高は300m足らずである。それだけ、距離が長くなる。
もちろん、学校長の許可を得た上である。現在も、弘前から長平までの交通機関はない。当時も、またそれよりも昔もなかった。
自動車がなければ「長平登山道」を登ることは、そのアクセスに大変苦労する。汽車で鰺ヶ沢まで行って、そこからバスに乗り換えて「長平」まで行くという不便さである。
だから、私のように「自動車」を持たない者にとっては、この「長平登山道」はその登山頻度が少なくなる。
単独登山の場合はよく、「自転車」で出かけたものだ。複数名でこの登山道を登る場合は、自動車を使わないと登山は出来ない。
そこで、バスで長平まで来るという遠足を利用しない手はないということで、そういうことになったのである。
登りながら、切り刻まれるお山の姿をこれ以上眺めることがつらくて、登山口付近で視線を逸(そ)らした。すると、笹森山が見えた。
その山頂付近の上空をハチクマが一羽飛んでいる。少し旋回したなと思ったら、突然、両翼をすぼめて立てたまま小刻みに羽ばたいて空中で一瞬停止した。この鳥独特な飛び方によるデスプレイだ。きっと近くに雌鳥がいるのだろう。
「ハチクマ」は鷲鷹の仲間で、低山の林に棲み、ハチの幼虫やさなぎを餌とする鳥だ。羽毛は灰褐色でクマタカに似ている。ハチを食べ、クマタカに似ていることが名前の由来である。
頂上に着いたのは、午後の4時近かった。「山の神石」付近を登っているころから、頭上に大きな鳥の影が現れていた。百沢と岳からの登山道分岐に出たら、上空に、親子3羽のイヌワシが旋回していた。
今日の写真は、その中の「子供」である。「幼鳥」の翼の下側には「白い斑点」があるので見分けが簡単だ。
同行している生徒が訊く。「先生、あの鳥は何ですか。」「イヌワシだよ。」「あの、絶滅危惧種のイヌワシですか。」「そうだよ。」「岩木山にもいるなんて信じられません。」…。
彼らは、私たちのことを「無視」するかのように、ひたすら旋回を続けて、螺旋状に上空に上がり、そのあとは、一気に西の「白神山地」を目指して滑空し、彼方に消えた。
■ 「岩木山のイヌワシ」(その3) ■
(承前)
…1980年前半には50%近くだった繁殖成功率(ヒナが無事巣立ちできる確率)は現在、30%前後まで低下し、国内では一年間に20羽程度しかヒナは巣立ちすることが出来ていないという。
「イヌワシ」は自然界の食物連鎖の頂点にあり、自然の豊かさと安定を示す指標となっている。このことから、「イヌワシ」の生息する場所は、自然が豊かであり、人間にとっても大切な環境となっているのである。
・イヌワシの生活・
「イヌワシ」はペアになると生涯つれそう。厳寒期に2個の卵を産み、雌が約43日間温める。「イヌワシ」の営巣が可能な岩棚は限られており、広大な「なわばり」を持つイヌワシでも、巣をつくることの出来る岩棚をたった1ヶ所しか持たないものも数多くいると言われている。
「イヌワシ」は大変神経質なため、卵の時やヒナの小さいうちに人間が不用意に近づくと、すぐに巣を放棄し、繁殖を中断してしう。決して巣に近づかいてはいけないのである。
「イヌワシ」が同じ場所で生きていくためには次の事が必要である。それは厳しい生育環境である。
* 雨や雪がかからない場所で、巣をつくるのに十分な広さを持つ岩棚があること。
* ノウサギやヘビなどの餌が豊富であること。
* 餌となる動物を育む落葉広葉樹林が行動範囲内にあること。
* イヌワシが狩りをする落葉広葉樹林や草地、開放地がバランスよくあること。
* 1年を通じて安定した餌を捕まえるための広大な面積の行動圏があること。
・日本のイヌワシ減少の要因・
* 食物の不足:ノウサギ、ヤマドリなどの減少
* 生息環境の悪化:生息地でのダム建設、大型リゾート開発、スキー場の騒音、高圧送電線の鉄塔建設、それに大規模な人工造林など
・イヌワシの保護の必要性・
自然界の生態系のバランスは様々な生物が生息してはじめて保たれる。「イヌワシ」は「クマタカ」などと共にその分布域の森林生態系における食物連鎖の頂点に立ち、生態系のバランスを保つのに重要な役割を果たしている。
つまり、イヌワシが生息出来る森林は「豊かで生態系のバランスのとれた環境」である。地球環境全体と人類の将来を考えると「イヌワシ」を含む野生動物をその生息環境と共に守っていくことは私たちにとって大切なことなのである。
岩木山では、特別天然記念物のこの「イヌワシ」や「クマゲラ」を含む90数種類野鳥が確認されている。
イヌワシなどの猛禽類はタカ科のイヌワシ・ハイタカ・クマタカ・チョウゲンボウ・オオタカ・ハチクマ・ノスリ・トビやフクロウ科のフクロウ・トラフズクなどがいる。
なお、クマゲラについては、写真撮影されたものはないが、視認されたり、あるいは「ねぐら木、採餌木、採餌痕」の撮影はされているし、鳴き声も確認されている。クマゲラについては別に稿を起こしてそのうちに紹介しよう。
その日は遠足で鰺ヶ沢長平旅行村にいっていた。昼食後の1時過ぎに、山岳部の生徒2人と長平登山道を登り、百沢に降りたのである。そして、百沢からの最終バスで弘前に戻ったのだ。登り初めの「場所」に注目してほしい。今は、自動車で標高600m近くまで行くことが出来るが、「長平旅行村」の標高は300m足らずである。それだけ、距離が長くなる。
もちろん、学校長の許可を得た上である。現在も、弘前から長平までの交通機関はない。当時も、またそれよりも昔もなかった。
自動車がなければ「長平登山道」を登ることは、そのアクセスに大変苦労する。汽車で鰺ヶ沢まで行って、そこからバスに乗り換えて「長平」まで行くという不便さである。
だから、私のように「自動車」を持たない者にとっては、この「長平登山道」はその登山頻度が少なくなる。
単独登山の場合はよく、「自転車」で出かけたものだ。複数名でこの登山道を登る場合は、自動車を使わないと登山は出来ない。
そこで、バスで長平まで来るという遠足を利用しない手はないということで、そういうことになったのである。
登りながら、切り刻まれるお山の姿をこれ以上眺めることがつらくて、登山口付近で視線を逸(そ)らした。すると、笹森山が見えた。
その山頂付近の上空をハチクマが一羽飛んでいる。少し旋回したなと思ったら、突然、両翼をすぼめて立てたまま小刻みに羽ばたいて空中で一瞬停止した。この鳥独特な飛び方によるデスプレイだ。きっと近くに雌鳥がいるのだろう。
「ハチクマ」は鷲鷹の仲間で、低山の林に棲み、ハチの幼虫やさなぎを餌とする鳥だ。羽毛は灰褐色でクマタカに似ている。ハチを食べ、クマタカに似ていることが名前の由来である。
頂上に着いたのは、午後の4時近かった。「山の神石」付近を登っているころから、頭上に大きな鳥の影が現れていた。百沢と岳からの登山道分岐に出たら、上空に、親子3羽のイヌワシが旋回していた。
今日の写真は、その中の「子供」である。「幼鳥」の翼の下側には「白い斑点」があるので見分けが簡単だ。
同行している生徒が訊く。「先生、あの鳥は何ですか。」「イヌワシだよ。」「あの、絶滅危惧種のイヌワシですか。」「そうだよ。」「岩木山にもいるなんて信じられません。」…。
彼らは、私たちのことを「無視」するかのように、ひたすら旋回を続けて、螺旋状に上空に上がり、そのあとは、一気に西の「白神山地」を目指して滑空し、彼方に消えた。
■ 「岩木山のイヌワシ」(その3) ■
(承前)
…1980年前半には50%近くだった繁殖成功率(ヒナが無事巣立ちできる確率)は現在、30%前後まで低下し、国内では一年間に20羽程度しかヒナは巣立ちすることが出来ていないという。
「イヌワシ」は自然界の食物連鎖の頂点にあり、自然の豊かさと安定を示す指標となっている。このことから、「イヌワシ」の生息する場所は、自然が豊かであり、人間にとっても大切な環境となっているのである。
・イヌワシの生活・
「イヌワシ」はペアになると生涯つれそう。厳寒期に2個の卵を産み、雌が約43日間温める。「イヌワシ」の営巣が可能な岩棚は限られており、広大な「なわばり」を持つイヌワシでも、巣をつくることの出来る岩棚をたった1ヶ所しか持たないものも数多くいると言われている。
「イヌワシ」は大変神経質なため、卵の時やヒナの小さいうちに人間が不用意に近づくと、すぐに巣を放棄し、繁殖を中断してしう。決して巣に近づかいてはいけないのである。
「イヌワシ」が同じ場所で生きていくためには次の事が必要である。それは厳しい生育環境である。
* 雨や雪がかからない場所で、巣をつくるのに十分な広さを持つ岩棚があること。
* ノウサギやヘビなどの餌が豊富であること。
* 餌となる動物を育む落葉広葉樹林が行動範囲内にあること。
* イヌワシが狩りをする落葉広葉樹林や草地、開放地がバランスよくあること。
* 1年を通じて安定した餌を捕まえるための広大な面積の行動圏があること。
・日本のイヌワシ減少の要因・
* 食物の不足:ノウサギ、ヤマドリなどの減少
* 生息環境の悪化:生息地でのダム建設、大型リゾート開発、スキー場の騒音、高圧送電線の鉄塔建設、それに大規模な人工造林など
・イヌワシの保護の必要性・
自然界の生態系のバランスは様々な生物が生息してはじめて保たれる。「イヌワシ」は「クマタカ」などと共にその分布域の森林生態系における食物連鎖の頂点に立ち、生態系のバランスを保つのに重要な役割を果たしている。
つまり、イヌワシが生息出来る森林は「豊かで生態系のバランスのとれた環境」である。地球環境全体と人類の将来を考えると「イヌワシ」を含む野生動物をその生息環境と共に守っていくことは私たちにとって大切なことなのである。
岩木山では、特別天然記念物のこの「イヌワシ」や「クマゲラ」を含む90数種類野鳥が確認されている。
イヌワシなどの猛禽類はタカ科のイヌワシ・ハイタカ・クマタカ・チョウゲンボウ・オオタカ・ハチクマ・ノスリ・トビやフクロウ科のフクロウ・トラフズクなどがいる。
なお、クマゲラについては、写真撮影されたものはないが、視認されたり、あるいは「ねぐら木、採餌木、採餌痕」の撮影はされているし、鳴き声も確認されている。クマゲラについては別に稿を起こしてそのうちに紹介しよう。