(今日の写真には厳冬の造化(オブジェ)・山頂異変というキャプションを付けてみた。だが、別に厳冬が山頂を通常とは異なる姿に変えたということではない。また、山頂がどこかに移動したということでもない。
この日は一応山頂までの「正規」ルートとされている大沢から種蒔苗代、鳳鳴小屋、一の御坂方向に行かないで、錫杖清水の上部辺りから、山頂を目ざして真っ直ぐ登った。
12月、1月、2月は雪崩の恐れがあるから「通らない」ルートである。だが、3月に入ると新雪のない時にはこの「ルート」の直登をすることがある。
ところが、近年は3月になると、新雪に覆われていなくても、この斜面に「亀裂」の入ることが多くなっている。
この亀裂は4月までに広がり、深くなっていき、そして全層雪崩の起点となる。
これまで、少なくとも99年まではこのルート上で全層雪崩は発生しなかったが、それ以降3月の上旬から亀裂が目立つようになってきている。
なぜか、それはこの斜面に、降雪が「吹き溜まる」からである。以前は西からの季節風の吹き出しが強く、降雪を後長根沢の源頭部や弥生尾根上部に吹き溜まらせたが、最近は季節風の吹き出しが弱くて、この斜面に「面的な吹き溜まり」を形成してしまうからである。「季節風が弱い」ことも地球温暖化の一シグナルであろう。
快晴だ。風も強いが「吹き飛ばされる」ことがない程度だ。連続するキックステップは疲れるものだ。力を思わず込めて突き刺すピッケルを握る手や腕も、いい加減だらりと下げたくなるほど疲れていた。
ようやく、一の御坂の上部に達した。そこからは、後長根沢の源頭のスリバチ地形が蟻地獄のように見える。
…滑落したらあそこまで行くかな、いやあそこを通過して「大マブ」から真っ逆さまだよ、などと考えながら…まもなく山頂という思いで、目前を見たら、山頂が見えないのだ。「山頂がない」という奇妙な疑心が私を捉えた。
何と、風が作り出す「大きな雪庇の張り出し」が小さな平原をなしていたのだ。
少し、いやかなりうろたえた。そこを乗り越えたら、まぎれもなく「山頂」があった。
余りにも視界が利く「快晴」は、時には困りものでもある。3月 山頂20m手前南面)
■■日赤岩木山パトロール隊主催「冬山遭難救助・搬出訓練」■■
すでに、新聞等を通じてご存じの方もいるだろう。3月8日、スカイライン26番カーブ付近で行われた表記の行事に、講師として本会幹事工藤龍雄さん、それに三浦事務局長が参加した。
その概要をお知らせしよう。
講話として…
Ⅰ: 岩木山の雪崩と最近の雪崩遭難の検証(担当:三浦章男)
1.岩木山でこれまで発生した雪崩と雪崩に巻き込まれた体験について
2.岩木山雪崩発生地図(1986年~現在)についての解説
3.雪層と雪崩について(全層と表層)
4.最近の雪崩遭難の実態から…
■ 十勝岳連峰・上ホロカメットク山「雪崩遭難」に関する検証
検証1 メンバーの力量とキャリア・遭難した人たちのキャリア
検証2 非常に雪崩が発生しやすい状況の中で訓練は行われた
検証3 「毎年の雪質等の違い」などの関わる調査記録をとっていたか
検証4 「危険度の高い場所」でのルート造りは「トップ」任せでいいか
検証5 同時に同じ場所に入山していた他のパーティの動向に気を配ったか
検証6 「弱層」発見のテストをした形跡がない
検証7 持ち分や役割を分担するという中での「自己責任」はどうだったのか
検証8 ビーコンの装着と使用の習熟。ビーコン・ゾンデ棒・スコップという3種の道具で機能が最大になる。ゾンデ棒やスコップの用意は
検証9 「パーティを組み、トップを交代しながら進む」形体の登山と「単独行」との関連性の理解
検証10 「スキー登山」から山スキーのデメリットを実地的に理解していたのか
Ⅱ: 雪崩が起きたらどうするか(捜索・救助する側の留意点)(担当:工藤龍雄)
1.初動捜索の大切さ
雪崩事故では、最初の15分で救出することが生死の境目を分けるといわれている。
2.どこを探せばいいのか
埋没地点を推測するには、雪崩の走路や地形に注目する。雪崩事故の80%で、雪崩が発生したときにいた地点、巻き込まれて見失った地点、遺留品が見つかった地点を結んだ延長線上にあるデブリ(堆積した雪)で埋没者が発見されている。
3.捜索の方法
・雪崩ビーコンを使った捜索法・
受信を音の強弱で表す雪崩ビーコンから、発光ダイオ一ドランプの点滅をするものに変わったことで、捜索方法は変化してきた。
・クロス法と電波誘導法:
クロス法、電波誘導法のどちらも、埋没地点に近付いたらピンポイント捜索を行って位置確定をする。
・上方向(山側)からの捜索・上方向と横方向からの捜索・スカッフとコール
・ゾンデによる捜索法・
ビーコンのない場合や、ビーコンによる捜索のピンポイント状態では、ソンデ捜索が有効だ。ただし、ソンデ(棒)の携行が条件である。
初動捜索で有効な、ソンデの実際的な使用法に、2点ゾンデ法がある。これは、40センチ四方の正方形のマス目を想定し、手前から、右、左の角にソンデを刺していくものである。
4.雪崩埋没者の救出法
Ⅲ: 実地学習 雪の層と弱層、弱層の実態と「弱層テスト」(担当:工藤・三浦)
Ⅳ: 捜索訓練 ゾンデ棒とビーコン (担当:工藤龍雄)
Ⅴ: 応急ボート(シートボートの作り方) (担当:森林管理署富樫氏)
Ⅵ: スノーモービル、アキヤボートによる搬送(担当:スノーモービル協力隊前田氏)
参加者は約40名。今回の訓練には「スノーモービル」の愛好家とその団体も参加した。遭難救助ではスノーモービルの持つ機動力は必要である。私たちも日頃から、スノーモービル愛好者と交流を重ね、捜索・救助の際における彼らの役割が十分機能するように配慮していくことは重要である。
現行法では岩木山を含む国定公園内へのスノーモービルの乗り入れは禁じられているが、「捜索・救助」訓練という目的での「乗り入れ」を「特定の尾根」に限って「自然植生を毀損」しないなどという「具体的な条件」のもとで認めていく方向をさぐることも必要なのではないだろうか。
この日は一応山頂までの「正規」ルートとされている大沢から種蒔苗代、鳳鳴小屋、一の御坂方向に行かないで、錫杖清水の上部辺りから、山頂を目ざして真っ直ぐ登った。
12月、1月、2月は雪崩の恐れがあるから「通らない」ルートである。だが、3月に入ると新雪のない時にはこの「ルート」の直登をすることがある。
ところが、近年は3月になると、新雪に覆われていなくても、この斜面に「亀裂」の入ることが多くなっている。
この亀裂は4月までに広がり、深くなっていき、そして全層雪崩の起点となる。
これまで、少なくとも99年まではこのルート上で全層雪崩は発生しなかったが、それ以降3月の上旬から亀裂が目立つようになってきている。
なぜか、それはこの斜面に、降雪が「吹き溜まる」からである。以前は西からの季節風の吹き出しが強く、降雪を後長根沢の源頭部や弥生尾根上部に吹き溜まらせたが、最近は季節風の吹き出しが弱くて、この斜面に「面的な吹き溜まり」を形成してしまうからである。「季節風が弱い」ことも地球温暖化の一シグナルであろう。
快晴だ。風も強いが「吹き飛ばされる」ことがない程度だ。連続するキックステップは疲れるものだ。力を思わず込めて突き刺すピッケルを握る手や腕も、いい加減だらりと下げたくなるほど疲れていた。
ようやく、一の御坂の上部に達した。そこからは、後長根沢の源頭のスリバチ地形が蟻地獄のように見える。
…滑落したらあそこまで行くかな、いやあそこを通過して「大マブ」から真っ逆さまだよ、などと考えながら…まもなく山頂という思いで、目前を見たら、山頂が見えないのだ。「山頂がない」という奇妙な疑心が私を捉えた。
何と、風が作り出す「大きな雪庇の張り出し」が小さな平原をなしていたのだ。
少し、いやかなりうろたえた。そこを乗り越えたら、まぎれもなく「山頂」があった。
余りにも視界が利く「快晴」は、時には困りものでもある。3月 山頂20m手前南面)
■■日赤岩木山パトロール隊主催「冬山遭難救助・搬出訓練」■■
すでに、新聞等を通じてご存じの方もいるだろう。3月8日、スカイライン26番カーブ付近で行われた表記の行事に、講師として本会幹事工藤龍雄さん、それに三浦事務局長が参加した。
その概要をお知らせしよう。
講話として…
Ⅰ: 岩木山の雪崩と最近の雪崩遭難の検証(担当:三浦章男)
1.岩木山でこれまで発生した雪崩と雪崩に巻き込まれた体験について
2.岩木山雪崩発生地図(1986年~現在)についての解説
3.雪層と雪崩について(全層と表層)
4.最近の雪崩遭難の実態から…
■ 十勝岳連峰・上ホロカメットク山「雪崩遭難」に関する検証
検証1 メンバーの力量とキャリア・遭難した人たちのキャリア
検証2 非常に雪崩が発生しやすい状況の中で訓練は行われた
検証3 「毎年の雪質等の違い」などの関わる調査記録をとっていたか
検証4 「危険度の高い場所」でのルート造りは「トップ」任せでいいか
検証5 同時に同じ場所に入山していた他のパーティの動向に気を配ったか
検証6 「弱層」発見のテストをした形跡がない
検証7 持ち分や役割を分担するという中での「自己責任」はどうだったのか
検証8 ビーコンの装着と使用の習熟。ビーコン・ゾンデ棒・スコップという3種の道具で機能が最大になる。ゾンデ棒やスコップの用意は
検証9 「パーティを組み、トップを交代しながら進む」形体の登山と「単独行」との関連性の理解
検証10 「スキー登山」から山スキーのデメリットを実地的に理解していたのか
Ⅱ: 雪崩が起きたらどうするか(捜索・救助する側の留意点)(担当:工藤龍雄)
1.初動捜索の大切さ
雪崩事故では、最初の15分で救出することが生死の境目を分けるといわれている。
2.どこを探せばいいのか
埋没地点を推測するには、雪崩の走路や地形に注目する。雪崩事故の80%で、雪崩が発生したときにいた地点、巻き込まれて見失った地点、遺留品が見つかった地点を結んだ延長線上にあるデブリ(堆積した雪)で埋没者が発見されている。
3.捜索の方法
・雪崩ビーコンを使った捜索法・
受信を音の強弱で表す雪崩ビーコンから、発光ダイオ一ドランプの点滅をするものに変わったことで、捜索方法は変化してきた。
・クロス法と電波誘導法:
クロス法、電波誘導法のどちらも、埋没地点に近付いたらピンポイント捜索を行って位置確定をする。
・上方向(山側)からの捜索・上方向と横方向からの捜索・スカッフとコール
・ゾンデによる捜索法・
ビーコンのない場合や、ビーコンによる捜索のピンポイント状態では、ソンデ捜索が有効だ。ただし、ソンデ(棒)の携行が条件である。
初動捜索で有効な、ソンデの実際的な使用法に、2点ゾンデ法がある。これは、40センチ四方の正方形のマス目を想定し、手前から、右、左の角にソンデを刺していくものである。
4.雪崩埋没者の救出法
Ⅲ: 実地学習 雪の層と弱層、弱層の実態と「弱層テスト」(担当:工藤・三浦)
Ⅳ: 捜索訓練 ゾンデ棒とビーコン (担当:工藤龍雄)
Ⅴ: 応急ボート(シートボートの作り方) (担当:森林管理署富樫氏)
Ⅵ: スノーモービル、アキヤボートによる搬送(担当:スノーモービル協力隊前田氏)
参加者は約40名。今回の訓練には「スノーモービル」の愛好家とその団体も参加した。遭難救助ではスノーモービルの持つ機動力は必要である。私たちも日頃から、スノーモービル愛好者と交流を重ね、捜索・救助の際における彼らの役割が十分機能するように配慮していくことは重要である。
現行法では岩木山を含む国定公園内へのスノーモービルの乗り入れは禁じられているが、「捜索・救助」訓練という目的での「乗り入れ」を「特定の尾根」に限って「自然植生を毀損」しないなどという「具体的な条件」のもとで認めていく方向をさぐることも必要なのではないだろうか。