「だれも休まず、だれも病気にならない、という「希望的観測」のもとに人員が配置されている組織は、だれも産まない、だれも子供を育てない、というどこにもない人間を前提にした組織である。このような架空の人間像を支えているのは専業主婦の存在である。しかし、この前提でさえ、今は空洞化しつつある。実態はすでに、既婚女性の半数以上が働いている時代なのである。」
(竹信三恵子著『日本株式会社の女たち』1994年、朝日新聞社発行、148頁より引用しています。)
「銀行の上司から、育児休暇を取るな、と言われた女性がいる、と言っておられたが、日本の会社は権利を目一杯主張し、代わりに義務もきちんと果たす、という仕組みではない。経営と個人が甘え合う関係で成り立っている。全面的にすべての権利を主張されても会社は困る。その女性にも問題がある。
結局、彼は、中間管理職なのだ。企業の既成の仕組みを壊すことなく女性を適応させなければ、彼は立場がないのだ。育児休業制などの新しい制度ができても、その制度の活用を裏打ちするための関連制度の整備がなければ新制度は利用できない。しかし彼らには、女性を正当な一員として迎え入れることのできるような組織へと全体を改革する権限は与えられていない。それなのに「管理職」として、彼女たちを「適応」させたり「活用」したりしなければならないのだ。日本企業は、言われているほど下から上への提言で成り立つボトムアップ方式ではない。上の与える枠内で、上が聞きたがるような知恵を献策することは奨励されても、上司の思惑を超えて、枠組みそのものの変更を提案するには、よほどの能力や人脈がなければ不可能だ。改革の権限も与えられず、企業のトップや政治家たちから、ただ「女性の活用」を申しつけられるばかりなのが中間管理職なのだ。
銀行の労務政策に詳しい「銀行労働研究会」の志賀寛子さんは、こうした業界の状況をこう分析する。
「
銀行は本音では、便利に使えて給料の安い大量の若い女性を必要としている。しかし、そんな女性を引きつけるには、もはや育児休業など母性保護制度を敷くしかない。つまりは人集めのための目玉商品だ。かといって額面通りに受け取られて、長く居坐られては、賃金をたくさん払わなければならない。だから、育児休業制より、いったんやめてもらって賃金を安く押さえられる再雇用制を導入するところが多い。確かに、長くいてほしい女性もいないわけではない。これは、極端に語学が出来たり飛び抜けて特技があり、たくさん給料を払っても損はないというごく一部の女性に限られる」
結局大多数の女性社員が、仕事か出産かの二者択一を選ばされる事態は変わらない、と志賀さんは指摘する。
働く女性が子供を産めない今のような労務政策が続く限り、労働人口は今後減少傾向が続くだろう。長時間労働要員としてより、知識や創意にすぐれた人材を発掘する面からも、女性を真の意味で「活用」することは、ますます避けて通れなくなる。それなのに、こんなふうに、問題を先送りし、とりあえず小手先の手直しのようなことをしていてすむのだろうか。
(竹信三恵子著『日本株式会社の女たち』1994年、朝日新聞社発行、151-153頁より引用しています。)
(竹信三恵子著『日本株式会社の女たち』1994年、朝日新聞社発行、148頁より引用しています。)
「銀行の上司から、育児休暇を取るな、と言われた女性がいる、と言っておられたが、日本の会社は権利を目一杯主張し、代わりに義務もきちんと果たす、という仕組みではない。経営と個人が甘え合う関係で成り立っている。全面的にすべての権利を主張されても会社は困る。その女性にも問題がある。
結局、彼は、中間管理職なのだ。企業の既成の仕組みを壊すことなく女性を適応させなければ、彼は立場がないのだ。育児休業制などの新しい制度ができても、その制度の活用を裏打ちするための関連制度の整備がなければ新制度は利用できない。しかし彼らには、女性を正当な一員として迎え入れることのできるような組織へと全体を改革する権限は与えられていない。それなのに「管理職」として、彼女たちを「適応」させたり「活用」したりしなければならないのだ。日本企業は、言われているほど下から上への提言で成り立つボトムアップ方式ではない。上の与える枠内で、上が聞きたがるような知恵を献策することは奨励されても、上司の思惑を超えて、枠組みそのものの変更を提案するには、よほどの能力や人脈がなければ不可能だ。改革の権限も与えられず、企業のトップや政治家たちから、ただ「女性の活用」を申しつけられるばかりなのが中間管理職なのだ。
銀行の労務政策に詳しい「銀行労働研究会」の志賀寛子さんは、こうした業界の状況をこう分析する。
「
銀行は本音では、便利に使えて給料の安い大量の若い女性を必要としている。しかし、そんな女性を引きつけるには、もはや育児休業など母性保護制度を敷くしかない。つまりは人集めのための目玉商品だ。かといって額面通りに受け取られて、長く居坐られては、賃金をたくさん払わなければならない。だから、育児休業制より、いったんやめてもらって賃金を安く押さえられる再雇用制を導入するところが多い。確かに、長くいてほしい女性もいないわけではない。これは、極端に語学が出来たり飛び抜けて特技があり、たくさん給料を払っても損はないというごく一部の女性に限られる」
結局大多数の女性社員が、仕事か出産かの二者択一を選ばされる事態は変わらない、と志賀さんは指摘する。
働く女性が子供を産めない今のような労務政策が続く限り、労働人口は今後減少傾向が続くだろう。長時間労働要員としてより、知識や創意にすぐれた人材を発掘する面からも、女性を真の意味で「活用」することは、ますます避けて通れなくなる。それなのに、こんなふうに、問題を先送りし、とりあえず小手先の手直しのようなことをしていてすむのだろうか。
(竹信三恵子著『日本株式会社の女たち』1994年、朝日新聞社発行、151-153頁より引用しています。)