労働市場においては、個々の意欲・能力・適性とは関係なく、「性」による振り分けが最も安定性を保ち、経済的であることを前項で見た。事務部門においては、総合職は「男の仕事」、一般職は高卒や短大卒の「女の仕事」という慣行が企業の中に暗黙のうちにある。そうした慣行が自然に受け入れられてきた背景には、男とはこういうもの、女とはこういうものというステレオタイプ的な考えに基づいた「男性に適した仕事」「女性に適した仕事」という適正論があると考えられる。適正論は、直接的には「男の仕事」「女の仕事」という「水平的職務分離」に結びつくが、それはスムーズに「垂直的職務分離」に転化されて女性の下位職務への緊縛を間接的に正当化している。
ここでは、均等法改正を前にした1996年時点における総務庁行政監察局の調査から「女性の特質・感性」についての企業の考え方を見ていきたい。均等法においては、男女の均等な機会及び待遇を確保するために事業主が講ずるべき措置のうち、募集・採用及び配置・昇進に係る男女の均等な取扱いについては事業主の努力義務とされるにとどまったため、女性一般に対する先入観、固定的観念等に基づいた合理性のない理由により、補助的・定型的業務への配置に固定化し、男女平等の理念にそぐわない結果をもたらしている状況がみられる。1)
総務庁では、1996(平成8)年4月から6月にかけて均等法の定着状況、労働基準による募集・採用及び配置・昇進への影響、均等法の実効性を確保するための措置の実施状況、職業生活と家庭生活との両立支援対策の実施状況等を調査し、その結果をとりまとめ、1996(平成8)年12月13日に労働省(当事)に対し勧告した。この報告の中で、企業における「女性のみ」又は「女性優遇」の取扱いに関しては、以下の通りである。
調査した企業239社における職務(人事・総務・経理、企画・調査・広報等7種類)別の配置状況を1995(平成7)年度の女子雇用調査の結果からみると、表1-11のとおり、各職務とも「いずれの職場にも男女とも配置」している企業が多いが、「営業」、「研究・開発」、「生産」及び「販売・サービス」で「男性のみ配置の職場がある」とする企業の割合が比較的高い。この「男性のみ配置の職場がある」とする企業についてその理由をみると、表1-12のとおり、1995(平成7)年度では、「外部との折衝が多い」(28.7%)、「深夜には及ばないが時間外労働が多い」(27.7%)、「女性の適任者がいない」(26.3%)及び「体力・筋力を必要とする業務がある」(23.4%)が比較的多い。
また、企業における女性の配置の基本的な考え方について、表1-13のとおり、1995(平成7)年度では、「能力や適性に応じて男性と同様の職務に配置」する企業が47.1%、「女性の特質・感性を生かせる職務に配置」とする企業が44.6%となっている。また、「男性のみを配置している職種または部署がある」企業の中には、表1-14のとおり、①体力を要する業務であり、女性には不向きであること、②出張や対外折衝があり営業には女性は適さないこと、③基幹的業務には女性を配置できないこと等、女性一般に対する固定的な先入観に基づいた合理性のない理由により男性のみを配置している例がみられる。
新規学卒者に対する募集について「女性のみ募集の職種がある」企業の割合は、表1-15のとおり、新規学卒者に対する募集を行った企業(177社)の29.9%(53社)となっており、また、「女性のみ募集」の対象となっている職種としては、一般事務職が35.2%(総合職と区分されるいわゆる「一般職」と合わせて48.1%)、顧客、乗客等に対するサービス職が20.4%となっている。これらの職種別に女性のみの募集を行っている理由をみると、表1-16のとおり、「女性の特性・感性を活用する」(23.9%)、「顧客、取引先等が女性を好む」(16.9%)及び「補助的・定型的な業務である」(15.5%)といった合理性のないものが多い。
また、「女子のみの募集の職種・コースあり」とする企業について、その理由を同様に比較すると、表1-17のとおり、1995(平成7)年度と1992(平成4年)度とではほとんど変わっておらず、「女性の方がソフトな対応ができ、顧客が好む、又は女性の感性を生かすことができる」(7年度52.0%)及び「補助的・定型的業務である」(同44.2%)を挙げる企業が多い。
このことは、労働省の「企業における女子のみを対象とした取扱いについての調査」の結果においても同様の傾向となっており、女子のみを、又は女子を優先して募集・採用している理由をみると、表1-18のとおり、「補助的・定型的業務である」及び「女子の方がソフトな対応ができ顧客が好む、又は女子の感性をいかせる」とする企業が圧倒的に多い。すなわち、女子のみを募集・採用する場合は、「一般事務」、「パート等正社員以外」及び「高卒事務職・販売職」では「補助的・定型的業務である」ことを理由とするものの割合が63.5%ないし77.2%と多い一方、「電話交換手」及び「接客(受付を含む)」では「女子の方がソフトな対応ができ顧客が好む、または女性の感性をいかせる」ことを理由とするものが9割を超えている。また、女子を優先して募集・採用する場合は、「パート等正社員以外」では「補助的・定型的業務である」ことを理由とするものが、「営業・販売職」では「女子のほうがソフトな対応ができ顧客が好む、又は女子の感性をいかせる」ことを理由とするものが特に多く、その他の職種・コースでも、これら2つの理由を挙げる企業が多い傾向にある。
以上の報告から、経営者や男たちが考える「女性の特質・感性」とは、①補助的または定型的業務に適していること、②男性の顧客の気を惹き、女性の顧客を安心させるようなやさしくソフトな接遇ができること、であると思われる。このような「女性の特質・感性」に関する考え方が企業社会の中でまとわりつき、性別職務分離となって現れている状況の例として熊沢の1999年のききとり調査の一例を紹介したい。
男性行員20名のすべてを総合職、女性行員13名すべてを一般職に配置している信託銀行の支店長は、次のように語っているー一流大学卒の総合職志望の女性は、だいたい専門職志望で、「理詰めでこつこつ」勉強して、年金、証券、不動産、遺産などの一分野に強くなることがある。しかし、「大所高所」の視点に立つ「飛躍的な発想」は苦手だ。それになりより、「当行の中心業務である顧客との立ち入った相談にもとづく財産信託」をさせると成果が乏しい。「がんばる気」と、相談しやすさとか「客と同じ視点に立つ」態度、「なんというか社会性?」がいまひとつなのだ。そこでそうした若干の女性総合職は本店の専門部に集中することになり、当支店のような前線では、頼りになるのは一般大学卒、短大卒の、規則に対する順応性が高く、「あえていえば定型的作業に適した」一般職の女性ということになる。彼女らは「上司からの期待役割にそって働くという役割限定意識がつよい・・・」
この信託銀行の資格基準表を覗いてみると、総合職では、全11ランクのうち「定型的な事務」が職務に含まれるのは、最低二つのランクに限られている。その第二のランクには、早くも「非定型的事務」のほか、「やや幅広い専門的知識と実務知識」、そして「やや広範囲の事項の分析、調査、企画、適切な対外折衝」の要請があらわれる。一般職についても「特定の渉外業務」が第2ランク以上の職務に含まれる。しかし一般職では「定型的事務」が、最高位第8ランクまでつきまとっている。それにベテランが新参者を「指導」することは求められていても、一般職業務のすべては「上司の包括的な指示のもとに」ある。あらためていえば、実態として総合職は男性、一般職は女性であった。
以上から、企業社会の内なる女性は今でも総じて幅広い知識のいる企画や開発、「度胸」と決断のいる大きな取引、危機管理的な対応、予算必達の営業、そして個人的感情にとらわれてはならぬ人的管理などには「向かない」とみなされ、これらの「総合職的」業務から排除されているということができるのである。2) 事務部門の中でも、比較的簡単な様々の仕事を適宜わりあてられる「一般職」=女性は、「女性の特質・感性を生かした」職務配置の結果なのである。経営の論理を体現する男性は、男性よりも女性は誰かがやらなければならない単純で雑務的な「おもしろくない仕事」をさほど苦にせず、コツコツと従順にこなしてくれる労働者とみなしていることがわかる。「かなり高度の判断力を要する」基幹的な業務には不向きであり、定型的業務に適した女性が就く一般職いわゆる「OL」に期待されているのは、基幹的な作業を担う男性の上司や同僚を補助し、身の回りの世話をする家庭における「女房的」役割である。
もう一点、性による分業が企業の中で受け入れられてきた背景として忘れてならないのは、女性が主に家庭責任を担っているという点である。熊沢は、職場外の生活のニーズをあまり気にせずに残業や転勤のできるような〈生活態度としての能力〉の要請に応えられる「能力」を、日本的能力主義の特徴と指摘している。将来またはいま現在「家庭責任」を負う女たちには、とくにこうした「能力」を求められる総合職や管理職に就くことはふさわしくないとされるわけである。 3)先の女子雇用調査の結果で、男性のみ配置の理由として、時間外労働が多いが27.7%、出張・全国転勤があるが14.0%を占めていた(表1-11)が、男性が深夜に及ぶ残業をし、出張・転勤も厭わず働くことができる「能力」を有するのに対して、家事・育児の責任を担う女性には会社で働ける時間に限界があり、その量的限界が女性は責任の重い職務に就けない理由とされている場合がきわめて多い。建前に掲げられるのは能力差であるが、この「能力」とは、どれほど家庭を顧みず長時間働けるかなのである。男性の長時間労働が可能になるのは、仕事以外の生活ニーズを全て女性が担っているからに他ならない。女性が「家庭責任」を負うことを理由に下位職務に留め置くことは、男性を中心とした日本型企業社会自身がつくりだしたものなのである。性を基準とした雇用管理の違いは、均等法施行後10年を経ても女性の管理職が10%に満たない(1996年時点)という事実として表れている。次に、日本においては女性の昇進・昇格はまだまだおくれている様子を概観したいと思う。
1)1997年に改正された男女雇用機会均等法の第5条は、事業主は募集・採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならないと定め、募集・採用に関する女性差別を禁止した。この改正によって、事業主は法および指針に違反する場合には、直ちに是正を求められることになった。具体的には、13条の紛争解決の援助及び25条の行政指導(厚生労働大臣の助言、指導、勧告)の対象となり、厚生労働大臣の勧告に従わない場合は、26条により企業名公表の制裁を受けることになる。また、5条に違反して募集・採用に関する女性差別が行われた場合、その行為は民事上も違法・無効となり、差別された女性は、この規程を直接の根拠として裁判所に提訴することができる。(『2002年版、働く女性と労働法』32頁、東京都産業労働局労働部労働環境課)
2)熊沢誠『女性労働と企業社会』93-95頁、岩波新書、2000年。
3)熊沢、前掲書、75頁。
ここでは、均等法改正を前にした1996年時点における総務庁行政監察局の調査から「女性の特質・感性」についての企業の考え方を見ていきたい。均等法においては、男女の均等な機会及び待遇を確保するために事業主が講ずるべき措置のうち、募集・採用及び配置・昇進に係る男女の均等な取扱いについては事業主の努力義務とされるにとどまったため、女性一般に対する先入観、固定的観念等に基づいた合理性のない理由により、補助的・定型的業務への配置に固定化し、男女平等の理念にそぐわない結果をもたらしている状況がみられる。1)
総務庁では、1996(平成8)年4月から6月にかけて均等法の定着状況、労働基準による募集・採用及び配置・昇進への影響、均等法の実効性を確保するための措置の実施状況、職業生活と家庭生活との両立支援対策の実施状況等を調査し、その結果をとりまとめ、1996(平成8)年12月13日に労働省(当事)に対し勧告した。この報告の中で、企業における「女性のみ」又は「女性優遇」の取扱いに関しては、以下の通りである。
調査した企業239社における職務(人事・総務・経理、企画・調査・広報等7種類)別の配置状況を1995(平成7)年度の女子雇用調査の結果からみると、表1-11のとおり、各職務とも「いずれの職場にも男女とも配置」している企業が多いが、「営業」、「研究・開発」、「生産」及び「販売・サービス」で「男性のみ配置の職場がある」とする企業の割合が比較的高い。この「男性のみ配置の職場がある」とする企業についてその理由をみると、表1-12のとおり、1995(平成7)年度では、「外部との折衝が多い」(28.7%)、「深夜には及ばないが時間外労働が多い」(27.7%)、「女性の適任者がいない」(26.3%)及び「体力・筋力を必要とする業務がある」(23.4%)が比較的多い。
また、企業における女性の配置の基本的な考え方について、表1-13のとおり、1995(平成7)年度では、「能力や適性に応じて男性と同様の職務に配置」する企業が47.1%、「女性の特質・感性を生かせる職務に配置」とする企業が44.6%となっている。また、「男性のみを配置している職種または部署がある」企業の中には、表1-14のとおり、①体力を要する業務であり、女性には不向きであること、②出張や対外折衝があり営業には女性は適さないこと、③基幹的業務には女性を配置できないこと等、女性一般に対する固定的な先入観に基づいた合理性のない理由により男性のみを配置している例がみられる。
新規学卒者に対する募集について「女性のみ募集の職種がある」企業の割合は、表1-15のとおり、新規学卒者に対する募集を行った企業(177社)の29.9%(53社)となっており、また、「女性のみ募集」の対象となっている職種としては、一般事務職が35.2%(総合職と区分されるいわゆる「一般職」と合わせて48.1%)、顧客、乗客等に対するサービス職が20.4%となっている。これらの職種別に女性のみの募集を行っている理由をみると、表1-16のとおり、「女性の特性・感性を活用する」(23.9%)、「顧客、取引先等が女性を好む」(16.9%)及び「補助的・定型的な業務である」(15.5%)といった合理性のないものが多い。
また、「女子のみの募集の職種・コースあり」とする企業について、その理由を同様に比較すると、表1-17のとおり、1995(平成7)年度と1992(平成4年)度とではほとんど変わっておらず、「女性の方がソフトな対応ができ、顧客が好む、又は女性の感性を生かすことができる」(7年度52.0%)及び「補助的・定型的業務である」(同44.2%)を挙げる企業が多い。
このことは、労働省の「企業における女子のみを対象とした取扱いについての調査」の結果においても同様の傾向となっており、女子のみを、又は女子を優先して募集・採用している理由をみると、表1-18のとおり、「補助的・定型的業務である」及び「女子の方がソフトな対応ができ顧客が好む、又は女子の感性をいかせる」とする企業が圧倒的に多い。すなわち、女子のみを募集・採用する場合は、「一般事務」、「パート等正社員以外」及び「高卒事務職・販売職」では「補助的・定型的業務である」ことを理由とするものの割合が63.5%ないし77.2%と多い一方、「電話交換手」及び「接客(受付を含む)」では「女子の方がソフトな対応ができ顧客が好む、または女性の感性をいかせる」ことを理由とするものが9割を超えている。また、女子を優先して募集・採用する場合は、「パート等正社員以外」では「補助的・定型的業務である」ことを理由とするものが、「営業・販売職」では「女子のほうがソフトな対応ができ顧客が好む、又は女子の感性をいかせる」ことを理由とするものが特に多く、その他の職種・コースでも、これら2つの理由を挙げる企業が多い傾向にある。
以上の報告から、経営者や男たちが考える「女性の特質・感性」とは、①補助的または定型的業務に適していること、②男性の顧客の気を惹き、女性の顧客を安心させるようなやさしくソフトな接遇ができること、であると思われる。このような「女性の特質・感性」に関する考え方が企業社会の中でまとわりつき、性別職務分離となって現れている状況の例として熊沢の1999年のききとり調査の一例を紹介したい。
男性行員20名のすべてを総合職、女性行員13名すべてを一般職に配置している信託銀行の支店長は、次のように語っているー一流大学卒の総合職志望の女性は、だいたい専門職志望で、「理詰めでこつこつ」勉強して、年金、証券、不動産、遺産などの一分野に強くなることがある。しかし、「大所高所」の視点に立つ「飛躍的な発想」は苦手だ。それになりより、「当行の中心業務である顧客との立ち入った相談にもとづく財産信託」をさせると成果が乏しい。「がんばる気」と、相談しやすさとか「客と同じ視点に立つ」態度、「なんというか社会性?」がいまひとつなのだ。そこでそうした若干の女性総合職は本店の専門部に集中することになり、当支店のような前線では、頼りになるのは一般大学卒、短大卒の、規則に対する順応性が高く、「あえていえば定型的作業に適した」一般職の女性ということになる。彼女らは「上司からの期待役割にそって働くという役割限定意識がつよい・・・」
この信託銀行の資格基準表を覗いてみると、総合職では、全11ランクのうち「定型的な事務」が職務に含まれるのは、最低二つのランクに限られている。その第二のランクには、早くも「非定型的事務」のほか、「やや幅広い専門的知識と実務知識」、そして「やや広範囲の事項の分析、調査、企画、適切な対外折衝」の要請があらわれる。一般職についても「特定の渉外業務」が第2ランク以上の職務に含まれる。しかし一般職では「定型的事務」が、最高位第8ランクまでつきまとっている。それにベテランが新参者を「指導」することは求められていても、一般職業務のすべては「上司の包括的な指示のもとに」ある。あらためていえば、実態として総合職は男性、一般職は女性であった。
以上から、企業社会の内なる女性は今でも総じて幅広い知識のいる企画や開発、「度胸」と決断のいる大きな取引、危機管理的な対応、予算必達の営業、そして個人的感情にとらわれてはならぬ人的管理などには「向かない」とみなされ、これらの「総合職的」業務から排除されているということができるのである。2) 事務部門の中でも、比較的簡単な様々の仕事を適宜わりあてられる「一般職」=女性は、「女性の特質・感性を生かした」職務配置の結果なのである。経営の論理を体現する男性は、男性よりも女性は誰かがやらなければならない単純で雑務的な「おもしろくない仕事」をさほど苦にせず、コツコツと従順にこなしてくれる労働者とみなしていることがわかる。「かなり高度の判断力を要する」基幹的な業務には不向きであり、定型的業務に適した女性が就く一般職いわゆる「OL」に期待されているのは、基幹的な作業を担う男性の上司や同僚を補助し、身の回りの世話をする家庭における「女房的」役割である。
もう一点、性による分業が企業の中で受け入れられてきた背景として忘れてならないのは、女性が主に家庭責任を担っているという点である。熊沢は、職場外の生活のニーズをあまり気にせずに残業や転勤のできるような〈生活態度としての能力〉の要請に応えられる「能力」を、日本的能力主義の特徴と指摘している。将来またはいま現在「家庭責任」を負う女たちには、とくにこうした「能力」を求められる総合職や管理職に就くことはふさわしくないとされるわけである。 3)先の女子雇用調査の結果で、男性のみ配置の理由として、時間外労働が多いが27.7%、出張・全国転勤があるが14.0%を占めていた(表1-11)が、男性が深夜に及ぶ残業をし、出張・転勤も厭わず働くことができる「能力」を有するのに対して、家事・育児の責任を担う女性には会社で働ける時間に限界があり、その量的限界が女性は責任の重い職務に就けない理由とされている場合がきわめて多い。建前に掲げられるのは能力差であるが、この「能力」とは、どれほど家庭を顧みず長時間働けるかなのである。男性の長時間労働が可能になるのは、仕事以外の生活ニーズを全て女性が担っているからに他ならない。女性が「家庭責任」を負うことを理由に下位職務に留め置くことは、男性を中心とした日本型企業社会自身がつくりだしたものなのである。性を基準とした雇用管理の違いは、均等法施行後10年を経ても女性の管理職が10%に満たない(1996年時点)という事実として表れている。次に、日本においては女性の昇進・昇格はまだまだおくれている様子を概観したいと思う。
1)1997年に改正された男女雇用機会均等法の第5条は、事業主は募集・採用について、女性に対して男性と均等な機会を与えなければならないと定め、募集・採用に関する女性差別を禁止した。この改正によって、事業主は法および指針に違反する場合には、直ちに是正を求められることになった。具体的には、13条の紛争解決の援助及び25条の行政指導(厚生労働大臣の助言、指導、勧告)の対象となり、厚生労働大臣の勧告に従わない場合は、26条により企業名公表の制裁を受けることになる。また、5条に違反して募集・採用に関する女性差別が行われた場合、その行為は民事上も違法・無効となり、差別された女性は、この規程を直接の根拠として裁判所に提訴することができる。(『2002年版、働く女性と労働法』32頁、東京都産業労働局労働部労働環境課)
2)熊沢誠『女性労働と企業社会』93-95頁、岩波新書、2000年。
3)熊沢、前掲書、75頁。