マサオは思わず身震いした。あの白いものがぼくを追いかけてくる。おそろしさのあまり、マサオは手にもっていた棒切れをおとし、一目散にもと来た道を走った。
細い道を出ると思いきってうしろを振り返ってみた。だれも追いかけてはこない。マサオはほっとため息をついた。ひたいにはあぶら汗がにじみ、手はべっとりしている。くしゅん、大きなくしゃみをする。手足がぶるぶるふるえているのがわかった。なんだか急に寒くなってきた。
母さんは今頃どうしているだろうか。みんなもう眠ってしまったにちがいない。今は何時だろう。家を飛び出してからどれくらいたったろうか。すっかり時間がわからなくなってしまった。いつの間にか剣はなくなっており、右のてのひらの中では、パンダのチョコレートが粉々になっていた。それを少しずつ口にはこんだ。
空を見上げると、雲の絶え間より月の光がもれ出ている。なんて素晴らしいお月さんなんだろう。あの白くみえるのはうさぎだろうか、きっと仲良くおもちをついて食べてるにちがいない。ぼくのお団子はどうしたろうか。ちゃんと戸棚に入れてしまってあるだろうか。
マサオは思わずしゃくりあげた。ラヴェンダーの香りのする母さんの腕の中が恋しくてたまらなくなった。マサオは母さんがお化粧しているところをながめるのが大好きだった。長く垂れたしなやかな髪の毛をなで上げ髪に結い、うっすらと口紅をつける。マサオは、母さんのすてきな唇に余分なものをつけないほうがいいと思った。しかし、余分なものも、やっぱりきれいな色をしているから、つけたほうがよけい素敵にみえるのだろう。そして、母さんはラヴェンダーの香りのする香水をかける。まるで、コスモスの女王みたいだ。そうだ、母さんは女王さまのようにいげんがあってやさしい。ぼくのことをなんでもわかってくれる。お誕生日に、真珠の首飾りをあげたときもとても喜んでくれた。それが、にせものだってわかっても、やっぱり「ありがとう」といってくれた。
マサオは、家に向かってとぼとぼと歩きはじめた。
家々の灯りは、ほとんど消えていた。わずかに、二階の窓からカーテンを通して灯りのもれてくる所があった。受験勉強というのをしているのだろう。
突然、びちゃんと水がはねあがって、マサオの顔にかかった。きのうの雨でできた水たまりに足を踏み入れてしまったのだ。マサオはシャツのそでで顔についた泥水をぬぐった。なんだか体じゅうじめじめしていて気持ちが悪い。のどがかわいてきた。さっき食べたチョコレートの甘みがまだ口の中に残っている。つばを飲みこむと、チョコレートの甘いのとまじありあって、よけいに気持ちが悪くなった。
今夜の風は、少しもマサオにやさしくしてはくれない。それどころか、ピシャリピシャリとマサオのほおをうちつける。今やマサオは寒さのためにすっかりうちひしがれ、こわさも怒りもすっかり忘れてしまっていた。足がだるい。早く家につけばいいのに。月がまたもや雲にかくれて見えなくなった。どうしてお月さんは、あんなにのろのろと動くのだろう。早くぼくに姿を見せてよ。だが、今夜の月はとくべつゆっくり動いている。
************************
高校三年生の夏に書いたお話の続き。こうして書くにはあまりにも稚拙で恥ずかしいようなものでしたが、ここまで書いてしまいました。
あと一回で終わります。
細い道を出ると思いきってうしろを振り返ってみた。だれも追いかけてはこない。マサオはほっとため息をついた。ひたいにはあぶら汗がにじみ、手はべっとりしている。くしゅん、大きなくしゃみをする。手足がぶるぶるふるえているのがわかった。なんだか急に寒くなってきた。
母さんは今頃どうしているだろうか。みんなもう眠ってしまったにちがいない。今は何時だろう。家を飛び出してからどれくらいたったろうか。すっかり時間がわからなくなってしまった。いつの間にか剣はなくなっており、右のてのひらの中では、パンダのチョコレートが粉々になっていた。それを少しずつ口にはこんだ。
空を見上げると、雲の絶え間より月の光がもれ出ている。なんて素晴らしいお月さんなんだろう。あの白くみえるのはうさぎだろうか、きっと仲良くおもちをついて食べてるにちがいない。ぼくのお団子はどうしたろうか。ちゃんと戸棚に入れてしまってあるだろうか。
マサオは思わずしゃくりあげた。ラヴェンダーの香りのする母さんの腕の中が恋しくてたまらなくなった。マサオは母さんがお化粧しているところをながめるのが大好きだった。長く垂れたしなやかな髪の毛をなで上げ髪に結い、うっすらと口紅をつける。マサオは、母さんのすてきな唇に余分なものをつけないほうがいいと思った。しかし、余分なものも、やっぱりきれいな色をしているから、つけたほうがよけい素敵にみえるのだろう。そして、母さんはラヴェンダーの香りのする香水をかける。まるで、コスモスの女王みたいだ。そうだ、母さんは女王さまのようにいげんがあってやさしい。ぼくのことをなんでもわかってくれる。お誕生日に、真珠の首飾りをあげたときもとても喜んでくれた。それが、にせものだってわかっても、やっぱり「ありがとう」といってくれた。
マサオは、家に向かってとぼとぼと歩きはじめた。
家々の灯りは、ほとんど消えていた。わずかに、二階の窓からカーテンを通して灯りのもれてくる所があった。受験勉強というのをしているのだろう。
突然、びちゃんと水がはねあがって、マサオの顔にかかった。きのうの雨でできた水たまりに足を踏み入れてしまったのだ。マサオはシャツのそでで顔についた泥水をぬぐった。なんだか体じゅうじめじめしていて気持ちが悪い。のどがかわいてきた。さっき食べたチョコレートの甘みがまだ口の中に残っている。つばを飲みこむと、チョコレートの甘いのとまじありあって、よけいに気持ちが悪くなった。
今夜の風は、少しもマサオにやさしくしてはくれない。それどころか、ピシャリピシャリとマサオのほおをうちつける。今やマサオは寒さのためにすっかりうちひしがれ、こわさも怒りもすっかり忘れてしまっていた。足がだるい。早く家につけばいいのに。月がまたもや雲にかくれて見えなくなった。どうしてお月さんは、あんなにのろのろと動くのだろう。早くぼくに姿を見せてよ。だが、今夜の月はとくべつゆっくり動いている。
************************
高校三年生の夏に書いたお話の続き。こうして書くにはあまりにも稚拙で恥ずかしいようなものでしたが、ここまで書いてしまいました。
あと一回で終わります。