妄想による愉快な国際時事ネタ解釈
四生の盲者日記
第四話「単車男の最後(前編)」
1945年1月ここ陸軍第四航空軍司令部では、太平洋戦争中最も卑劣な策謀が実施されようとしていた。
陸軍特別攻撃隊がフィリッピンの空に溶けていった。飛行場で見送っていた人々は厳粛な表情のまま、持ち場へと戻った。司令部要員も、司令部へと向かっていく。飛び立っていく搭乗員にいつも訓辞していたとおり、いよいよ次は司令自ら特攻されるのだ、忙しく動きながら第四航空軍の皆が悲壮感と共に思った。司令部を除いては。
司令部に入った途端、司令部要員全員が笑い出した。
「いやー、いったいった」
「見たかあいつらの神妙な顔」
「しかし司令、「君らだけを行かせはしない。最後の一機で本官も特攻する、諸君は既に神である」名演説でしたな」
「感動して泣いてたのもいたぞ」
第四航空軍司令富永恭次中将が笑いながらいった。
「さて、馬鹿でも神サマは神サマだ、神サマに嘘をつくわけにはいかん。そろそろわれわれも「特別攻撃」するか、んん?」
「台湾にですな」
再び笑い声があがった。
「まてまて、置いていく連中はどうする」
「なあに、われわれが汗をかかなくとも、アメ公がかってに始末してくれるさ」
「司令、連中にもう一発感動的な訓辞をお願いしますよ。とち狂ってシャーマンに殴りかかっていくようなやつ」
「まかせろ、豚も木に登るような訓辞をしてやる」
三たび笑い声があがった。彼らからは、自分等の命令で一命をなげうち敵艦に体当たりしていった者達、これから絶望的な抗戦をおこなうであろう者達への敬意はまったく感じられない、むしろ軽蔑しているようだった。
司令部の前には、司令官の特攻を前に後方要員全員が整列していた。出てきた司令部要員を前に、全員が敬礼した。それらしい表情をつくり、富永恭次中将が「最後の訓辞」を始めた。
「捷号作戦発令よりこのかた、我が第四航空軍は搭乗員諸君の一命を省みぬ奮闘、諸君の日夜を問わぬ献身により驕敵に多大なる損害を強いてきた。今ひとたびの攻撃で驕敵に大打撃を与え、この難局を転回し得ること必至である。しかし、連日の出撃により遺憾ながら第四航空軍の戦力は底をついている、よって本官を始めとする司令部全員により特別攻撃を実施する。
これは第四航空軍最後の作戦行動となろう。だが我々の出撃後、諸君の軍務が終了するわけではない。海軍の奮闘及ばず上陸を許した残敵は、依然としてあなどれぬ勢力を維持しあり、山下大将の十四軍は各地で苦戦している。ここまで敵の侵入を許すおそれは充分にある。その時は、各々小銃をとり、小銃なくば銃剣を、銃剣なくば包丁を、包丁なくば徒手空拳にても、帝国陸軍軍人たるの本分を諸君等が示すであろうことを、本官は信じている。
最後になるが、諸君等を苦楽を共にできたことは、本官の軍歴いや人生最大の快事であった。武運長久を祈る」
官僚軍人富永恭次中将の面目躍如たる訓辞であった。官僚的修飾に満ちた文章で悲壮感をあおり、さりげなく死守を示唆し、その責任を海軍と十四軍に見事に転嫁している。突き詰めてしまえば「俺等は体当たりして死ぬ、海軍と十四軍が失敗して敵が来たら刺し違えて死んでもいいよ」としかいっていない。
司令部全員が、特別攻撃輸送機に向かおうとしたその時。
ブオォォォォォーン
飛行場に単車の爆音が響き渡った。
輸送機と司令部員の間に割り込む一台の陸王、そして謎の帝国陸軍軍人、ざわつく残留要員。だが富永恭次中将を含む司令部は妙に落ち着いている。
「出たな、裏切り者」
あごをつきだすようにして、富永恭次中将がいった。謎の帝国軍人が、押し殺すように応じる。
「黙れ。未来ある若者に自殺攻撃を命令しておきながら、さらには苦楽を共にした部下を見捨て自分等のみ敵前逃亡しようとする卑劣な行動、大元帥陛下が許してもこの自分が許さん。富永中将いや、悪の秘密結社サンボのトミナー!」
富永中将はにやにやしながら切り返した。
「一体何の事かな?官姓名を名乗らん奴の言うことなど聞けないな。はて、君はどこかで見た気がする、…うーむ、二二六事件の逆賊安藤大尉に似ているな。ははん、さては銃殺執行を逃れ敵の特務にでもなったか。アメリカの狗の言うことなど、ますます聞くわけにはいかない」
先程の訓辞で感激していた残留要員は、「逆賊」「アメリカの狗」と聞いて一斉に憎しみに満ちた目を謎の帝国陸軍軍人、いや安藤元大尉に向け、安藤元大尉を取り囲み始めた。形勢は圧倒的に安藤元大尉に不利であった。気が立っている残留要員は、既に富永中将の巧みな煽動で、安藤元大尉をアメリカのスパイだと思い込んでいる。しかし、単車仮面に変化して彼らを叩きのめす訳にはいかない、彼らはサンボではない。
「我々はこれから帝国軍人の神聖な義務を遂行せねばならんのでね、失礼する」
じりじりと、残留要員ににじりよられる安藤元大尉を横目に富永中将は言い捨て、輸送機に向かった、その時。
バボボボボボボボ
さっきとは別の単車の爆音が響いた。
この展開だと、単車仮面 第五話「単車男の最後(中編)」に続くような気がする。
陸軍特別攻撃隊がフィリッピンの空に溶けていった。飛行場で見送っていた人々は厳粛な表情のまま、持ち場へと戻った。司令部要員も、司令部へと向かっていく。飛び立っていく搭乗員にいつも訓辞していたとおり、いよいよ次は司令自ら特攻されるのだ、忙しく動きながら第四航空軍の皆が悲壮感と共に思った。司令部を除いては。
司令部に入った途端、司令部要員全員が笑い出した。
「いやー、いったいった」
「見たかあいつらの神妙な顔」
「しかし司令、「君らだけを行かせはしない。最後の一機で本官も特攻する、諸君は既に神である」名演説でしたな」
「感動して泣いてたのもいたぞ」
第四航空軍司令富永恭次中将が笑いながらいった。
「さて、馬鹿でも神サマは神サマだ、神サマに嘘をつくわけにはいかん。そろそろわれわれも「特別攻撃」するか、んん?」
「台湾にですな」
再び笑い声があがった。
「まてまて、置いていく連中はどうする」
「なあに、われわれが汗をかかなくとも、アメ公がかってに始末してくれるさ」
「司令、連中にもう一発感動的な訓辞をお願いしますよ。とち狂ってシャーマンに殴りかかっていくようなやつ」
「まかせろ、豚も木に登るような訓辞をしてやる」
三たび笑い声があがった。彼らからは、自分等の命令で一命をなげうち敵艦に体当たりしていった者達、これから絶望的な抗戦をおこなうであろう者達への敬意はまったく感じられない、むしろ軽蔑しているようだった。
司令部の前には、司令官の特攻を前に後方要員全員が整列していた。出てきた司令部要員を前に、全員が敬礼した。それらしい表情をつくり、富永恭次中将が「最後の訓辞」を始めた。
「捷号作戦発令よりこのかた、我が第四航空軍は搭乗員諸君の一命を省みぬ奮闘、諸君の日夜を問わぬ献身により驕敵に多大なる損害を強いてきた。今ひとたびの攻撃で驕敵に大打撃を与え、この難局を転回し得ること必至である。しかし、連日の出撃により遺憾ながら第四航空軍の戦力は底をついている、よって本官を始めとする司令部全員により特別攻撃を実施する。
これは第四航空軍最後の作戦行動となろう。だが我々の出撃後、諸君の軍務が終了するわけではない。海軍の奮闘及ばず上陸を許した残敵は、依然としてあなどれぬ勢力を維持しあり、山下大将の十四軍は各地で苦戦している。ここまで敵の侵入を許すおそれは充分にある。その時は、各々小銃をとり、小銃なくば銃剣を、銃剣なくば包丁を、包丁なくば徒手空拳にても、帝国陸軍軍人たるの本分を諸君等が示すであろうことを、本官は信じている。
最後になるが、諸君等を苦楽を共にできたことは、本官の軍歴いや人生最大の快事であった。武運長久を祈る」
官僚軍人富永恭次中将の面目躍如たる訓辞であった。官僚的修飾に満ちた文章で悲壮感をあおり、さりげなく死守を示唆し、その責任を海軍と十四軍に見事に転嫁している。突き詰めてしまえば「俺等は体当たりして死ぬ、海軍と十四軍が失敗して敵が来たら刺し違えて死んでもいいよ」としかいっていない。
司令部全員が、特別攻撃輸送機に向かおうとしたその時。
ブオォォォォォーン
飛行場に単車の爆音が響き渡った。
輸送機と司令部員の間に割り込む一台の陸王、そして謎の帝国陸軍軍人、ざわつく残留要員。だが富永恭次中将を含む司令部は妙に落ち着いている。
「出たな、裏切り者」
あごをつきだすようにして、富永恭次中将がいった。謎の帝国軍人が、押し殺すように応じる。
「黙れ。未来ある若者に自殺攻撃を命令しておきながら、さらには苦楽を共にした部下を見捨て自分等のみ敵前逃亡しようとする卑劣な行動、大元帥陛下が許してもこの自分が許さん。富永中将いや、悪の秘密結社サンボのトミナー!」
富永中将はにやにやしながら切り返した。
「一体何の事かな?官姓名を名乗らん奴の言うことなど聞けないな。はて、君はどこかで見た気がする、…うーむ、二二六事件の逆賊安藤大尉に似ているな。ははん、さては銃殺執行を逃れ敵の特務にでもなったか。アメリカの狗の言うことなど、ますます聞くわけにはいかない」
先程の訓辞で感激していた残留要員は、「逆賊」「アメリカの狗」と聞いて一斉に憎しみに満ちた目を謎の帝国陸軍軍人、いや安藤元大尉に向け、安藤元大尉を取り囲み始めた。形勢は圧倒的に安藤元大尉に不利であった。気が立っている残留要員は、既に富永中将の巧みな煽動で、安藤元大尉をアメリカのスパイだと思い込んでいる。しかし、単車仮面に変化して彼らを叩きのめす訳にはいかない、彼らはサンボではない。
「我々はこれから帝国軍人の神聖な義務を遂行せねばならんのでね、失礼する」
じりじりと、残留要員ににじりよられる安藤元大尉を横目に富永中将は言い捨て、輸送機に向かった、その時。
バボボボボボボボ
さっきとは別の単車の爆音が響いた。
この展開だと、単車仮面 第五話「単車男の最後(中編)」に続くような気がする。
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