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純粋培養

 無知は周囲との間に無用の摩擦を生む。WGIPにより戦争に対して無菌状態で育てられた、または政体のみならず国民を含んだ国家を軽蔑するよう誘導された日本人が、その無知から外国で引き起こした摩擦は数知れない。以下は、筆者が実際に見聞した恥ずかしい日本人の話である。

1.国旗
 外国の集会では、時に国旗が掲揚される場合がある。その集会に招待された中年以上の日本人は、その国の国旗掲揚時どうしたらいいか分からない、まず起立しない。起立しても神妙な顔をしてればいいものを、ポケットに手ぇ突っ込んでみたり、ひどいのになると雑談しているのもいる。自国他国のものを問わず、国旗に対して敬意を示さなければならない、とは教えられていないのだから仕方ない、とは思うが腹が立つ。

2.国歌
  同様に国歌斉唱時、その国の国民ではない以上一緒になって歌えとは言わないが、せめておとなしくしていてもらいたい。
3.他国の文化への敬意
 筆者が当時住んでいた国(キリスト教国)では、デパートでもお祈りの時間があり館内放送でお祈りの言葉が流される。買い物客、従業員共にその場で動きを止めとにかく静かにしている。うろついているのはまず日本人だと思ってよい、これは非常に目立つ。その国の文化を、尊重しようと思うか思わないかの姿勢の違いである。

4.史実誤認

 アメリカと日本が戦争していたと知らない若者がいた。当然負けたとも知らない。

5.加害者としての歴史
 アメリカと日本が戦争していた事を知っていても、アジアではかなり感謝されていると知らない若中年がけっこういる。

6.毛主席
 天安門広場で、門に掲揚されているかの毛沢東の肖像画を指して「あの人誰ですか」と筆者にたずねたお嬢さんがいた。「共匪の親玉」と教えてあげたらきょとんとしていた。

 この手の問題に関しては、憲兵が軍刀をがちゃつかせるような発言になってしまい自分でも嫌なのだが、まあ、日本人は「箱入り娘」だと思えば腹も立たないか。

 それはそうだが、アメリカに乗せられるように開戦を選択し、それに歓呼した1940年代とさしてメンタリティが変わってないように思え、暗澹たる気持ちになるのである。
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単車仮面2 最終話「単車仮面最後の戦い」

 1948年12月22日ここネバダ砂漠のアメリカ陸軍秘密基地作戦室では、男二人のちょっとしたパーティーが開かれていた。銀髪の老人が、眼鏡を掛けた初老の東洋系の男にシャンパンを進めた。
 初老の東洋系の男は、グラスを掲げていった。
「第一次計画の成功に、乾杯!」
「乾杯!」
 銀髪の老人が、時計を見ていった。
「ヒデ、そろそろ君が吊るされる時間ダ」
「もうそんな時間かい、コーディ。では、元大日本帝国首相、陸軍大臣、参謀本部総長、陸軍大将にしてA級戦犯東条英機氏の冥福を祈って」
二人がグラスを小さくあげたその時。
「ストップ!オゥ!ノゥ!ファック!」
はるかかなたから、騒ぎが聞こえてきた。それはだんだん会場に近づいてくる。
 初老の東洋系の男は、ため息をついた。
「はるばるアメリカまで、ご苦労な事だ」
 銀髪の老人は軽く肩をすくめて、それに応えた。

ブオォォォォォーン

 二人のやり取りが終わるのを待っていたかのように、単車が会場のドアをぶち破って乱入して来た。シートには、当然安藤元帝国陸軍大尉が跨っている。なぜか、G-1ジャケットを着、単車は陸王ではなくオリジナルのハーレーであった。
 安藤元大尉は、ハーレーを降りると二人を指差し叫んだ。
「敗戦にあえぐ国民を欺き己一人アメリカに逃亡した貴様の卑劣な行動、全日本国民が許してもこの俺が許さん。東条英機元大将、いや、悪の秘密結社サンボのトジョー。そして、貴様の戦争責任、極東軍事裁判所が見逃してもこの俺が許さん。コーデル ハル元国務長官、いや、悪の秘密結社サンボのハール!」
 突然、老人と初老の男、いや東条英機とコーデル ハルは多重人格者のようにテンションを上げた。
「はるばるアメリカまでご苦労なことだ、飛んで火にいる夏の虫とは貴様のことよ」
「Ha! Ha! Ha! ”Summer stupid bags fly into fire for kill them self.(夏の間抜けな虫は、自殺するために自ら炎に飛び込む)” Haaaaa! Ha! Ha!」
 なにが可笑しいのか、笑い転げながらコーデル ハルが言った。
「オゥ、ヒデ、ワタシそれ知ってマース。エドゥ時代のトラベラー詩人がトマホーク…トーホクのマウンテンテンプルで詠んだ短い詩デース。Ha! Ha! Ha!」
「…もしかして、松尾芭蕉の事かい?コーディ」
「ソウデース、そのトラベラー詩人は、フロッグを応援したりとスパロゥと遊んだりする変な奴ディース。Ha! Ha! Ha!」
「…コーディ、松尾芭蕉が山寺で詠んだのは、蝉の鳴声で辺りの静寂さを強調した詩で。やせ蛙を応援したり、孤児の雀への優しい心を表現したのは小林一茶だよ」
「オゥ、「イイサ」 ミーン 「O.K.」 コバヤーシ、Haaaaa! Ha! Ha! Ha! Ha! Ha!」
 どうやら小林一茶の「いっさ」を「いいさ」に掛けて、英語では「O.K.」だと言いたいらしい。
 安藤元大尉が、押し殺した声で、しかし明らかに殺気を込めていった。
「トジョー、なんだこいつは」
「し、知らんのか。これがアメリカの小粋なパーティージョークだ!」
「Haaaaa! Ha! O.K. コバヤーシ、Haaaaa! Ha! Ha! Ha! Ha! Ha!」
「コーディ、コオオオオデイ!」
「オゥ、ソーリィ。でもワタシには区別ツキマセーン。死ぬ前にいい事を教えて上げマース。ジャップの慣用語デハ、「女中さんのお土産(メイドのミヤゲ)」でーす。
 ヒデ、「メイドのミヤゲ」ってあれだろ。旦那の手がついたメイドにギフトを渡して殺すやつだろ。ジャップもやるディスか」
「お前の国じゃそんなことしてんのか」
「当然ディース。ワタシもここに来る前3人目ニ、御土産を渡してきたディース。
 そうそう、いいことディス。モスコーは極東から手を付けることにしました。ピョンヤンはやる気モリモリマンマンディース」
「コーディ、いい年してお前…」

「おのれ、再び半島を戦火にまみれさせようというのか。そんな事はさせん!」
 次の瞬間、床の上には、長靴に手袋をはめ、黒緑の仮面、黒緑の上下、全身黒緑ずくめの人影が立っていた。それは舶来品の防毒面を付けた人のようであり、赤く鈍く輝く目は昆虫の複眼のようでもあった。その異形はまぎれもなく凶凶しさを、全身から発散していた。
 が、東条とハルは余裕たっぷりだった。
「飛んで火にいる夏の虫といっただろう」
「貴方も、ルーズベルト同様葬ってあげマース」
「やはり、前大統領は貴様等に謀殺されたのか」
「Oops!知られチャ仕方ネェ。そうよ、我々の忠告を無視し、ソ連の懐柔路線を取ろうとしたのさあの男ハ。殺されてどうだったかハ、地獄で聞きなサーイ!Ha!」
 ハルのセリフと共に、作戦室に怪人が乱入して来た。
「Kee Kee!」
 怪人全員が黒覆面、黒い全身タイツを着用。憲兵怪人、参謀怪人に似ているが黒襟も参謀肩章もない、代わりに顔面に白く「MP」と書いてある、さしずめMP怪人であろう。装備もトンプソンになっている。
「Hey!、彼らは水草の実を食って育った今までの連中でハありまセーン。彼らはテキサスビーフを食ってマース、栄養が違いマース、栄養が」
「コーディ、水草の実ってもしかして…」
「コメとかいう、ネズミの餌のことディース」
 二人がアメリカ漫才をしている間に、MP怪人は全て倒されていた。
「ノォッ!ザッツインクレディボー!ビーフが…、テキサスビーフがネズミの餌に負けるなんてあってハならないことディース!」
 そう叫ぶと、ハルはネイティブアメリカン戦いの化粧を施し、頭部はバッファロー、背中にトマホークというよくわからんものに変化していた。
「お前の正体は…、バッファロー男…でいいのか?なんだそれ?」
「じぇろにもっ!」
 謎の掛け声と共に、単車仮面に襲い掛かるハル改めハール改めバッファロー(?)男。辛うじてかわす単車仮面。
「なばほっ!まにとぅ!嘘つかないっ!」
次々に炸裂する、バッファロー(?)男の連続攻撃。受け一方の単車仮面。バッファロー(?)男は背中のトマホークをひっつかみ叫んだ。
「これでフィニッシュでィース、!とまっほぅぅぅく、ぶぅぅぅめらんん…」
「単車キィィィック!」
 バッファロー(?)男の長ったらしい決め台詞の隙を突き、単車仮面が飛び蹴りを放った。
「はう」
 最後の言葉を残し、バッファロー(?)男は爆発した。

「次は貴様だ、トジョー!む、どこに逃げた!出てこい」
 東条の姿はなかった。探し回る単車仮面の声に、スピーカーから東条の声が響いた。
「ご苦労だったな飛蝗男、私はピョンヤンで仕事があるのでね、失礼するよ。なお、その基地は自動的に消滅する」
 ネバダ砂漠のアメリカ陸軍秘密基地は、大爆発をおこし消滅した。

ブオォォォォォーン

 ネバダ砂漠をハーレーがゆく、あちこちが焼けこげ煙をふいている。
「さすがに本場物は頑丈だ、いくぞタイフーン!」
 安藤元大尉は、ピョンヤンに向けてアクセルを開けた。


あとがき

 第六話のマ元帥もそうだったが、アメリカ人を出すと筆者はおちゃらけてしまい駄目である。いずれにせよ、あの戦争は特定の個人、組織に責任を問えるようなものではない。まったくナンセンスな史実であり、下手な小説よりよほどよく出来ている。筆者程度の筆力ではどうにもならないので、「単車仮面」はこれで筆をおく。
 というか、このおちゃらけた駄文で、さまざまな人々に「悪の秘密結社」の怪人になってもらったが、ちょこちょこその人々を調べながら、もし当時その人々にあって話したらそんなに悪い人じゃあないような気がしてならない。ごく普通の、仕事熱心な(なかには小心な)方々だったのだろうな、などと思えてしまいどうもこれ以上、いわば筆者の思い込みで、彼らなりに生きていたであろう人々を「変化」させるにしのびなくなってきた、というのが正直なところである。でも「試製陸戦強化衣『暁天』」の話は書いてみたい気もする。
 関係ないが、東条英機は、蝿男になってもらおうと筆者は考えていた。

2002年8月16日、閣僚靖国参拝への中国政府のリアクションを見ながら
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第七話「サンボの最後」

 1948年12月23日、巣鴨プリズンで東条英機大将はA級戦犯として絞首刑を執行された。刑を執行した米軍関係者のうち、一人として東条の正体が悪の秘密組織サンボ首領トジョーである事に気づいたものはいなかった。
 遺骨は遺族に引き渡されなかった。

単車仮面 完

 サンボは単車仮面が手を下すことなく、壊滅してしまった。結局単車仮面が倒したのは、蝙蝠男と蜘蛛男だけか?単車仮面はフィリッピンであのまま死んだのか?
 なんだこれ、変なの。なんか知らんが、終わってしまった。
 まあねえ、書いててつくづく思ったけど。誰か(またはどこかの組織が)をぶっ潰せばそれでめでたしめでたしってなしくみにはなってないんだよね、この世は。辻が、牟田口が、富永がいなければ戦争にならなかったとか、戦争に負けなかったとかにはなりっこない。それじゃ面白くないから、単車仮面にがんばってもらったけど。
 幼稚。あ、アメリカの映画は全部こうか。

合掌
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第六話「単車男の最後(完結編)」(ほとんど外伝)

 フィリピン奪回部隊司令部では、独自の美意識に基づいたスタイルのダグラスマッカーサー元帥が、スタッフを集め会議を開いていた。
 参謀達が、きびきびを現状を報告していく。
「制空権、制海権ともにこちらが握っております。特に敵航空戦力は海軍、陸軍ともに例の自殺攻撃で飛べる機体はほとんどありません」
「陸上は一部敵の頑強な抵抗はあるものの、ほぼ予定通り侵攻しております」
「敵は戦意が低く、装備も開戦時と変わりありません」
「フクバラハップの報告では、敵の司令官はゼネラル ヤマシタだそうです」
 情報担当の参謀の報告で、それまで上機嫌だったマッカーサー元帥の顔色が変わった。
「ヤマシタ、まさか…」
「イエス サー。トモユキ ヤマシタ、あの"タイガー オブ マレー"です。昨年の10月に満州からマニラに着任したようです」
 マッカーサー元帥は、不機嫌に黙り込んだ。
 彼の神経は、レイテ上陸戦から開始されていた日本軍の自殺攻撃に痛めつけられていた。「マレーの虎」この言葉は、マッカーサー元帥に不気味な怪人の姿となって重くのしかかっていたのである。
「休憩にしよう」
 マッカーサー元帥は、そういって司令部を出た。もちろん、独自の審美眼で選択したコーンパイプを咥え、自分の目で選択したレイバンを掛け、自分でデザインした帽子を被っている。
 外は南国の陽光が降り注いでいた。前線から遠く離れたこの司令部は、同じ島で今この瞬間もアメリカの若者が血を流しているとは信じられない程静かだ。
「…「マレーの虎」といってもただの人間だ、今の私に恐れる必要はない」
コーンパイプ、レイバン、軍帽という仮面を身につけ、自分にそう言い聞かせると、いくらか気が鎮まる気がした。
 しかし

キィィィィィ

 耳慣れない高周波の金属音が空から響き、マッカーサー元帥は空を見、口をだらりと大きく開け、従兵に聞いた。
「おい、あれはなんだ」
 コーンパイプが、下唇に貼りつきぶらぶらする。
 マッカーサーが指差す先には、銀色をした人型の飛行物体が飛んでいく。下に人らしきものを抱えているようだ。
「ジャップの新兵器では?」
「あぁ…」
 その頃、試製陸戦強化衣『暁天』の日本光学製のレンズも、マッカーサー元帥の姿を捕らえて、大西中将に伝達していた。虎仮面は、相変わらずもがいている。
「大西おろせ!いや大西中将殿、ください」
「ほう、よくわからんが、死ぬのはいやかな富永中将」
「あたりまえだ!いや自分にはまだ、とにかくおろせ!」
「よかろう、丁度いい、ここでおろしてやる。
『暁天』爆撃照準!目標、敵司令!」
「え?」
 混乱する虎仮面をよそに、試製陸戦強化衣『暁天』内蔵の電探が、情報を大西中将眼前の色ガラスに表示した。大西中将は情報を素早く確認すると、試製陸戦強化衣『暁天』をマッカーサー元帥への爆撃針路に乗せた。
「こっちに向かってきます!」
 従兵の警告を、マッカーサー元帥は下唇にコーンパイプをぶら下げたまま聞いた。
「なにをする気だ!大西!やめろ!おい!やめろください中将殿」
「ヨーソロー。今おろしてやるからそう暴れるな」
 大西中将は冷静に針路を維持し。
「テーッ」
虎仮面を放した。
 マッカーサー元帥は、恐怖に目を見開き謎の飛行物体が放り出した、虎の仮面を被り、下にタイツ、裸の上半身の右肩に参謀肩章をつけた怪人を見つめた。彼にとって不幸なことに、それはつい先程まで彼の神経を痛めつけていた「マレーの虎」のイメージそのものだった。マッカーサー元帥は泣きながら叫んだ。
「タイガー?ジーザス!オゥ ノゥッ!ヤマシータ カミカーゼ バンザーイ ノゥッ ノォッッッッ!」
 コーンパイプは、まだ下唇に貼り付いている。
 虎仮面も叫んでいる。
「どけぇぇ、アメ公ぉぉ、いやプリーズ ドウカ ドイテクダサーイ プリー…」

ゴイーン

 大西中将の照準違わず、虎仮面はマッカーサー元帥に命中し、間髪いれず虎仮面が爆発した。爆風でコーンパイプが、レイバンが、マッカーサー元帥オリジナルデザインの軍帽が、天幕が吹き飛び、ルソン島の空に火球が立ち上った。
「ぶへっっっくしょいぃ。誰か噂しちゅうき」
 その頃、第十四方面軍(尚武)司令官 山下奉文大将は、かなたにのぼる煙をみながら、故郷言葉でつぶやいていた。
 戦果を確認した大西中将は静かに呟いた。
「『暁天』針路、リンガエン湾、目標、敵侵攻船団」
 体にかかる遠心力を感じながら、大西中将は満ち足りた気持ちで思った。
「…今行くからな、席を開けておいてくれ」
 
 筆者も思わず力が入り、前、中、完結の三編になってしまった。しかも完結編には単車仮面が全く出てこない。
 単車仮面より、試製陸戦強化衣『暁天』の方が魅力的なような気がしてきた。
 いずれにせよ、亡くなられた多くの方々に合掌。
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