《社説②》:技能実習制度の廃止案 人権守る仕組みこそ必要
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②》:技能実習制度の廃止案 人権守る仕組みこそ必要
制度創設から30年を経て、ようやく見直しの方向性が示された。外国人の人権を尊重する仕組みに改める必要がある。
政府の有識者会議が、技能実習制度の廃止を打ち出した。中間報告書のたたき台に盛り込まれた。
日本で技能を身につけ、母国で生かしてもらうことで、開発途上国の人材育成に協力するのが制度の建前である。だが、人手不足を補うために、労働者を受け入れる枠組みとなっているのが実態だ。
昨年末時点で32万人余の技能実習生が働いている。低賃金や長時間労働、劣悪な職場環境などの問題が長らく指摘されてきた。
本来は労働関係の法律が適用されるにもかかわらず、国際貢献に名を借りた、まやかしが人権侵害を生んでいる。廃止は当然だ。
たたき台では、人材確保を前面に出した新制度の創設が提案された。ただ、人材育成も目的に残され、具体的なルールづくりでは、現行制度の踏襲が目に付く。
これでは、看板の掛け替えで終わりかねない。労働者としての権利が守られる制度を整えなければならない。
まず必要なのは、別の勤務先への転職を可能にすることである。
技能実習生は原則として、転職が認められていない。最長5年という短期間で、効率的に技能を習得してもらうとの理屈だ。
過酷な環境でも、我慢して同じ職場で働き続けるしかない。耐えきれずに失踪し、在留資格を失うケースも後を絶たない。
受け入れ手続きの適正化も急務である。
仲介する監理団体が勤務先を適切に監督・指導していない例も目立つ。国は規制を強めてきたが、十分な効果は上がっていない。
母国の送り出し機関やブローカーに多額の手数料を支払って来日し、借金を負った実習生も多い。こうした状況を改善するには、国の積極的な関与が求められる。
4年前、外国人の就労拡大を掲げて特定技能制度が導入された。これに組み込んだうえで、権利を保障していくべきではないか。
有識者会議は今秋にも最終報告書をまとめる。社会を支える一員として外国人は欠かせない存在になっている。その現実を直視し、議論を深めなければならない。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年04月18日 02:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます