【社説①】:首相長男更迭 重責を担う自覚を欠いていた
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①】:首相長男更迭 重責を担う自覚を欠いていた
首相秘書官の中でも、政務担当は政策全般に目を配り、与党との調整にも関わるなど、最も重い役割を担うポストのはずだ。その自覚を欠いていたと言わざるを得ない。
岸田首相が、長男で政務秘書官の翔太郎氏の更迭を決めた。翔太郎氏が昨年末、首相公邸に親族らを招き、公的なスペースで忘年会を開いていたことが理由だ。
忘年会を報じた週刊文春によると、会合には親族ら10人以上が集まったという。公邸内の赤じゅうたんの敷かれた階段の上で、出席者が組閣時の記念撮影をまねしたり、男性が寝転がったりしていた写真が掲載された。
首相公邸は、首相や家族の居住空間ではあるが、海外の賓客をもてなすなど公的な機能も併せ持つ。普段から、警察による厳重な警備態勢も敷かれている。
そうした場所に親族らを招き、忘年会に興じて戯れ合うなど、翔太郎氏の行動は公私混同のそしりを免れない。更迭は当然だ。
翔太郎氏を巡っては今年1月、首相の欧米歴訪に同行した際、公用車で名所めぐりや買い物をしていたことが問題視された。
政府は当時、名所を訪ねた目的は広報用の写真撮影で、買い物は、首相から閣僚への土産を購入するためだったとして、不適切な行動は一切ないと説明していた。
野党からは「身内に甘すぎる」といった批判が出ていた。
身内を 庇 う首相の姿勢が、長男の様々な騒動につながっている面は否定できない。そうした意味では首相の見識も問われている。
首相は先週の参院予算委員会で、「私的な居住スペースでの親族の会食は問題ない」と述べ、自らもこの忘年会に顔を出し、挨拶していたことを明らかにした。
首相は先週まで、翔太郎氏を「厳重に注意した」と述べながらも、更迭については否定していた。首相が方針転換を決めたのは、世論の反応が予想以上に厳しいと感じたためだろう。
対応が遅きに失したのは、首相の気が緩んでいるからとしか思えない。首相に 諫言 する側近も、いなかったのだろうか。
広島でのG7(先進7か国)首脳会議は一応、成功した形だが、国際情勢は緊迫し続けている。再び円安傾向が顕著となり、経済の先行きは見通せない。
難題が山積する中、首相がたるんでいたら、政権の基盤が揺らぎかねない。首相は足元を固め直して、緊張感を持って政策遂行にあたる必要がある。
元稿:讀賣新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2023年05月31日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。