【社説・10.25】:2024衆院選・少子化対策 希望ある社会を描けるか
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・10.25】:2024衆院選・少子化対策 希望ある社会を描けるか
女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」は、直近の2023年統計で1・20と過去最低を更新した。低下は8年連続で、少子化が国の大きな問題であることは論をまたない。衆院選の争点となるべきだが、あまり議論が広がらず残念だ。
国立社会保障・人口問題研究所の調査によると、望む子どもの数は減る傾向にあるが、将来結婚したい人は男女とも1・8人前後。結婚後の女性は2・25人に上る。望み通りに安心して産み育てられる社会にしていくことが重要だ。これまでできなかったのは、政治の責任と言わざるを得ない。
結婚や出産に踏み切れない理由は、経済的な不安が大きい。自民党と公明党が政権を担ったこの12年間は新自由主義的な経済政策が推し進められ、収入の格差が広がった。就職氷河期に社会へ出た人の中には、心ならずも非正規の働き方が続き、家庭や子どもを持つことを諦めた人も多いだろう。
岸田政権は昨年4月、こども家庭庁を創設。30年までを「少子化を反転させるラストチャンス」と位置付け、年3兆6千億円を投じる「異次元の少子化対策」を打ち出した。その中心は児童手当の拡充だ。支給対象を高校生年代まで延ばし所得制限を撤廃。第3子以降は月3万円に倍増する。今月から実施される。
ただ財源には問題が残る。1兆円は公的医療保険の保険料に上乗せする形で徴収するが、医療費を支え合う仕組みを少子化対策に転用するのは筋違いと言われても仕方ないだろう。
衆院選の野党の公約も、立憲民主党が公立小中学校の給食費の無償化、日本維新の会が義務教育や幼児教育の完全無償化を掲げるなど、子育てに伴う出費を抑える政策が目立つ。だが総じて新味に乏しく、財源もはっきりしない。
子どもが健やかに育つ環境をつくるのも政治の役割である。不登校の小中学生は増え続けている。居場所や学習の機会を提供しなければならない。家族の世話に追われるヤングケアラーの存在も明らかになっている。孤立しないよう、支える仕組みを整えることが、子育ての安心につながるはずだ。
少子化を食い止める手段は子どもに直接関わる施策にとどまらない。むしろ、望めば結婚ができ、子どもを安心して出産し育てられる経済基盤と社会のサポートが欠かせない。雇用と収入の安定に加え、長時間労働の是正や、男性は仕事、女性は家事・育児といった固定的な性別役割分担を改めるなど、意識改革に取り組む必要がある。
少子化は多くの先進国に共通する課題だ。充実した家族手当などの政策を総動員して出生率の低下に歯止めをかけたフランスなどの例はある。
要は若い世代が生きる楽しさや暮らしやすさを実感し、将来にわくわくできるかどうかではないか。政治にはその環境づくりが求められる。今回の選挙戦も、将来のビジョンを示す好機と捉えて政策を訴えてほしい。
元稿:中國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2024年10月25日 07:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。