【社説・06.08】:地方の採用難/東京にない魅力の発信を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・06.08】:地方の採用難/東京にない魅力の発信を
2026年春に卒業を予定する大学生らを対象とした企業の採用選考活動が1日、解禁された。政府が定めるルールは形骸化し、5月中旬時点の内定率は8割近い。学生優位の「売り手市場」が続く一方、地方の企業の採用難は深刻化し、東京一極集中が加速する要因にもなり得る。局面を変えるためには、政府、自治体の強力な支援が求められる。
大学生の就職率は24年卒で過去最高の98・1%、25年卒も98・0%と高水準が続く。一方で、日本商工会議所が24年に行った調査では、新卒採用を行った中小企業の7割が計画通りに採用できなかった。
就職情報会社キャリタスの緊急調査では、26年卒の採用活動について、55%の企業が「苦戦している」と答えた。その割合は、規模では「従業員300人未満」、業種では「メーカー」でさらに高かった。
大阪都市圏にありながら、人口の転出超過に歯止めがかからない兵庫県内でも情勢は厳しい。業績にかかわらず、初任給の引き上げや福利厚生の充実などに踏み出す例も多いが、それが難しい企業もある。
就職情報会社マイナビが26年卒の大学生を対象とした調査では、大手企業の志望は全体の50%を超える。大企業の51%が東京圏に所在する現状では、東京一極集中に拍車がかかる一方、地方では人材難による企業活動の縮小や若年人口の減少による活力の低下が懸念される。
一方、同調査で大学生の31%が「行きたくない会社」に「転勤の多い会社」を挙げた点は見逃せない。賃金増が中小にも波及したことを背景に、「中堅・中小企業がよい」は7・7%と前年から1・9ポイント増えた。
地域に定着して働きたい学生の志向をうまく捉え、活力ある地元企業とどのようにして結び付けるかが、今後の人材確保の肝となる。採用したい学生に企業側が直接接触する「スカウト型」も含め、多様化する採用ルートを効果的に活用したい。
自治体も企業の採用活動に合わせ、東京にはない魅力を持つ地方で暮らし働く生活様式を発信するとともに、移住・定住支援なども組み合わせた就業誘致にも踏み出してほしい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年06月08日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。