【社説①・03.02】:観光公害/持続可能な発展へ知恵を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説①・03.02】:観光公害/持続可能な発展へ知恵を
インバウンド(訪日客)らの急増で、公共交通機関の過度な混雑やマナー違反などのオーバーツーリズム(観光公害)が深刻化している。放置すれば地域の魅力や生活環境が損なわれ、旅行者の満足度も低下する。国は自治体任せにせず、対策に本腰を入れるべきだ。
政府観光局によると、2024年の訪日客数は推計約3687万人と年間で過去最多を更新した。背景には、新型コロナウイルス禍で失われた需要の回復に加え、急激な円安による日本旅行の割安感がある。政府は30年に訪日客6千万人、消費額15兆円という目標を掲げる。
観光客は地域経済の活性化にも貢献する。誘致する以上、一概に「公害」とは言い難いが、対応を誤ればイメージダウンにもなりかねない。著名な観光地が対策に乗り出している。
富士山では昨年7月、登山道の混雑解消などを理由に、山梨県側で入山規制を導入した。県が設置したゲートで通行料の支払いを義務付け、1日当たりの上限を4千人とした。
姫路市では、来年3月から世界文化遺産・国宝姫路城の市民以外の入城料を2倍以上に値上げする。年間約10億円の増収を見込み、城の維持管理や観光施設の整備などに充てる。市外からの観光客の幅広い理解と協力を得る姿勢が欠かせない。
一方、長野県白馬村では海外富裕層のスキー需要に伴う不動産投資で地価が急騰、賃貸住宅も東京23区並みに値上がりして住民が苦慮しているという。
淡路島では、民家やマンションの空室などに観光客を有料で泊める民泊施設が急増し、騒音やごみを巡って住民から苦情が相次ぐ。トラブル防止には観光客にマナーを守ってもらう必要がある。国も空港での呼びかけや観光業者を通じた周知に努めてほしい。自治体の対策費への財政支援も考えねばならない。
4月に開幕する大阪・関西万博の期間中には350万人の訪日客が会場を訪れるとの試算がある。神戸空港も4月に国際チャーター便が就航し、観光客のさらなる増加が予想される。
観光と住民の暮らしをどう両立させていくのか。各地域の経験を共有し、持続可能な振興策に知恵を絞りたい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月02日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。