【高橋洋一氏・政治経済ホントのところ・07.31】:【セブンの買収案撤回】:狙った「宝物」切り離され
『漂流する日本の羅針盤を目指:【高橋洋一氏・政治経済ホントのところ・07.31】:【セブンの買収案撤回】:狙った「宝物」切り離され
カナダのコンビニ大手アリマンタシォン・クシュタール(ACT)が、日本の小売り最大手セブン&アイ・ホールディングス(セブン)に対する7兆円規模の買収提案を撤回したと発表した。「建設的な協議の欠如」を理由に挙げてセブン側の対応を批判し、約1年に及んだ両社の攻防はいったん幕引きとなった。ACTが買収を諦めた要因は何か。
ACTによるセブン買収提案が判明したのは、昨年8月だ。その後、財務省は、セブンを外為法の「コア業種」に指定した。外為法は安全保障の観点から一部の業種を「指定業種」に定めている。そのうち特に重要な「コア業種」については、海外投資家が投資をする場合に事前の届け出が原則求められる。
コア業種に指定されたのは、セブンがコンビニやスーパーマーケット、専門店などの流通事業を主軸に、セブン銀行で金融事業を行っているからだ。セブンはこの意味で日本の「社会インフラ企業」となっている。その企業が海外企業の傘下に入ると、収益性の低いスーパーなどが売却された場合、社会インフラが損なわれ、国民生活への悪影響がある恐れが出てくるのだ。
セブンがコア業種に指定されたことは、外資の買収実現のハードルを高めた。ACTはすぐには諦めなかったが、これがじわりじわりと効いてきたのだろう。なお、セブン側は「財務省からの照会は昨年6月に届き、社内で精査して回答したものであり、今回の買収提案とは関係ない」とコメントしている。
その一方、セブンは、その北米コンビニ事業を新規株式公開(IPO)するとした。近年、セブンの業績拡大はこの事業によるところが大きい。その重要な資産、いわば「ドル箱」(宝物=ジュエル)をセブンはIPOによって本体から切り離すのだ。これは、古典的な「クラウンジュエル作戦」と呼ばれるものだ。ACTは、セブンの北米事業を狙っていたので、これではセブンを買収する特典がなくなってしまう。
要するに、セブンは日本の「社会インフラ企業」を意識し、北米事業を切り離すという国内回帰への道をとったわけだ。
企業の成長というと、やみくもに海外展開を主張する経営者もいるが、海外展開はいうほど簡単ではない。円安で外資からの買収攻勢もあるが、国内回帰も一つの選択肢だろう。
■(たかはし・よういち=嘉悦大教授)
元稿:北國新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【コラム・連載「政治経済ホントのところ」】 2025年07月31日 05:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。