《社説②・03.26》:ドゥテルテ前大統領逮捕 「麻薬戦争」の暗部解明を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・03.26》:ドゥテルテ前大統領逮捕 「麻薬戦争」の暗部解明を
時の権力者が法を無視して推し進めた「麻薬戦争」の暗部を解明しなければならない。
国際刑事裁判所(ICC)から逮捕状が出ていたフィリピンのドゥテルテ前大統領を同国の警察当局が逮捕し、法廷のあるオランダ・ハーグに移送した。任期中に麻薬犯罪対策だとして多くの容疑者を殺害し、人道に対する罪を犯した疑いが持たれている。

南部ミンダナオ島の主要都市ダバオ市長時代から、司法手続き抜きでの容疑者殺害を命じる強硬な麻薬対策を進めた。
2016年の大統領就任後は国全体に広げた。6年間の任期中に少なくとも6600人が殺害され、密売人と疑われた父親と一緒にいた幼児が警察官の銃撃で死亡した事例もある。
検察官出身ということもあり、深刻化する麻薬犯罪への対策強化をアピールしようとしたのだろう。だが、人権を無視した権力の乱用と言うほかない。
ICCの事情聴取に応じた元警察官は、政敵殺害も命じられたと話している。事実とすれば、麻薬対策を隠れみのにした暗殺だ。
逮捕の背景には国内の政治的対立がある。
フィリピンはドゥテルテ前政権時にICCを脱退した。捜査への協力に否定的だったマルコス大統領が態度を変えたのは、ドゥテルテ氏との関係が悪化した後だ。今回は、国際刑事警察機構(ICPO)を通じた逮捕要請に応じた。
ICCは、戦争犯罪などで個人を裁く常設の国際法廷である。冷戦終結後の民族紛争多発などを受け、03年に開設された。日本を含む125カ国・地域が加盟する。
人権を踏みにじった権力者を処罰し、法の支配を徹底させることを使命とする。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領、パレスチナ自治区ガザ地区を攻撃したイスラエルのネタニヤフ首相にも逮捕状を出した。
一方で権威を否定する動きも出ている。親イスラエルのトランプ米大統領は、ICC職員を制裁対象とする大統領令に署名した。
世界では、力を振りかざして自らの意思を押し付けようとする大国の振るまいが目に付く。今こそ、国際社会はICCの理念を守る努力を尽くすべきだ。
元稿:毎日新聞社 東京朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年03月26日 02:01:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。