《社説②・06.07》:ウクライナ和平 戦火広げず交渉で停戦を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:《社説②・06.07》:ウクライナ和平 戦火広げず交渉で停戦を
ロシアとウクライナによる攻撃の応酬が一段と激化している。
和平に向けた直接交渉が5月に再開して以降も双方が過去にない規模の攻撃を仕掛け、緊張は高まるばかりだ。
このままでは停戦の機運はついえる。互いが戦況を有利にすることを優先し、ただでさえ難航する交渉が頓挫する事態は避けなければならない。
ロシアは5月23日から3夜続けて、無人機とミサイルによる最大規模の攻撃を実施した。一方的に併合した東部・南部4州に加え、緩衝地帯を設ける目的からか北東部でも攻勢を強めている。
交渉ではウクライナに、4州やクリミア半島のロシア編入、北大西洋条約機構(NATO)加盟放棄といった事実上の降伏要求を突き付けた。ウクライナや米欧が求める即時停戦に応じる気配はない。無理難題を掲げて時間を稼ぎ、占領地を広げる意図だろう。
2度目の交渉を控えた6月1日には、ウクライナの情報機関がロシア軍の航空基地を無人機で攻撃した。1年半以上かけて計画した特別作戦だったとされ、ミサイルを搭載する多数の軍用機に損傷を与えたと誇示している。
ロシアのプーチン大統領は報復すると明言した。ミサイルや無人機でウクライナ全土を激しく攻撃している。
欧州連合(EU)や英国はロシアへの追加制裁を決め、一段と圧力を強めている。米英、フランスはウクライナに長射程の兵器を供与し、ロシア領への攻撃を認めてきた。ここへ来てドイツのメルツ首相も足並みをそろえた。
ロシアは反発している。さらなる大規模攻撃の口実を与えることになりかねず、ウクライナを力でねじ伏せるまで際限なく戦闘が続く懸念が拭えない。
問題はトランプ米大統領の対応である。停戦を果たせると豪語してきたのに、「子どもの激しいけんか」と無責任に突き放し、仲介役を降りるそぶりを見せている。ここで投げ出せば、国際法を無視した力による現状変更の試みを認めることになる。無条件の停戦を強く迫るべきだ。停戦後の再侵攻を防ぐ安全保障体制の構築を含めて関与を弱めてはならない。
ウクライナは、戦況で優位に立つロシアのペースで直接交渉が進むことを警戒し、2国間ではなく米欧を含む多国間協議を求めている。各国は交渉によって停戦を実現する道筋を閉ざさず、何より戦火がさらに拡大する事態を食い止めなければならない。
元稿:信濃毎日新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年06月07日 09:30:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。