【社説・07.09】:百日ぜき/乳児の感染防止に全力を
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説・07.09】:百日ぜき/乳児の感染防止に全力を
激しいせきが長期間続く「百日ぜき」が猛威を振るい、今年の全国の累計患者数は6月29日時点で3万9672人にのぼった。近年では経験のない流行だ。乳児が感染すると重症化する恐れがあり、兵庫県などで複数の死者も出ている。赤ちゃんを守るために、感染防止に全力を挙げなければならない。
原因となる「百日ぜき菌」は感染力が非常に強く、せきやくしゃみによる飛沫(ひまつ)、患者との接触で広がる。生後2カ月以降に公費で定期接種する5種混合ワクチンに含まれるが、未接種のまま感染すると肺炎や脳症を併発して死亡することがある。
近年は治療薬が効かない耐性菌も報告され、兵庫で亡くなった赤ちゃんも耐性菌に感染していた。定期接種を受ける前の感染を防ぎ、時期が来たら速やかに打つことが重要だ。
兵庫県感染症情報センターなどによると、県内の今年の累計患者数(6月29日時点)は1829人を数え、昨年1年間の患者数207人の9倍近くに上っている。今年3月には生後1カ月の女児が亡くなり、最近11週の新規患者数はいずれも100人台と高止まりしている。
患者の8割以上が19歳以下で、10~14歳が45%、5~9歳が28%を占める。乳幼児期にワクチンを打っていても年月とともに効果が薄れ、感染の可能性が高まる。日本小児科学会は、就学前と11~12歳での追加接種を推奨している。身近に新生児がいる家庭などでは、任意の接種を検討してほしい。
かつてない流行は百日ぜきにとどまらない。
両頰などに発疹が出る伝染性紅斑(リンゴ病)の6月16~22日の患者数も過去最多を更新し、姫路から尼崎まで瀬戸内海沿岸の保健所管内で警報レベルとなっている。
「パルボウイルスB19」が原因で、飛沫や接触で広がる。患者は子どもが中心で、風邪のような症状の後に発疹が広がるが、通常は1週間程度で回復する。
注意が必要なのは妊婦だ。初めて感染すると流産や死産、胎児の水腫・貧血につながる恐れがある。子どもとの食器の共有を避けるなど対策が欠かせない。
異例の流行の背景に、新型コロナウイルスの感染対策で免疫力が落ちていることが挙げられる。学校や職場で感染した人が、家庭などで重症化リスクの高い人にうつす事態を防ぐ行動が求められる。
新型コロナウイルスもここ数年、夏季に感染が拡大しており、今年も流行の兆しを見せる。手洗いやうがい、マスク着用による飛沫防止など基本的な対策を徹底し、感染症が多発する夏を乗り切りたい。
元稿:神戸新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2025年07月09日 06:00:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。