【養老孟司が考えるゴジラとは?】:日本が生んだ、世界のゴジラを国内外のアーティストが新作で競演
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【養老孟司が考えるゴジラとは?】:日本が生んだ、世界のゴジラを国内外のアーティストが新作で競演
2024年に生誕70周年を迎えたゴジラ。映画の枠を超え、多様なアートによりゴジラの世界観を表現する展覧会「ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展」が森アーツセンターギャラリーで開幕した。
■ 【画像】ゴジラ第一作の映画ポスターをベースに、近日公開の架空の映画ポスターを制作した福田美蘭の《「ゴジラ」ポスター》
■ゴジラとは、何か。
1954(昭和29)年11月3日に公開された映画『ゴジラ』が、2024年に生誕70周年を迎えた。ゴジラは70年の歴史のなかで国内だけでも30作の長編映画が作られ、1998年にはハリウッド版『GODZILLA』が誕生。2014年からはハリウッド版「モンスター・ヴァースシリーズ」がスタートし、2024年公開『ゴジラxコング 新たなる帝国』まで5作品が制作されている。
日本が生んだ、世界のゴジラ。これまで制作された数々の映像作品はそれぞれの時代性を表現しながら、手がける監督によって異なる存在として描かれてきた。ゴジラという同一の名で語られながらも、その姿やあり様は常に変化し続けている。
ゴジラ生誕70周年を記念して森アーツセンターギャラリーで開幕した「ゴジラ・THE・アート展」。多彩なジャンルで活躍する28名の国内外のアーティストが、各々に「ゴジラとは、何か。」を考え、生み出した新作が展示されている。絵画、立体、映像、写真など、その手法はさまざま。多様なゴジラ作品と対峙しながら、自分にとっての「ゴジラとは、何か。」について思いを巡らせたい。
■養老孟司が考えるゴジラとは
ゴジラとは、何か。展覧会のゼネラルプロデューサーである養老孟司は、展覧会開催に寄せて以下のメッセージを発信している。
「私にとってゴジラとはなんだっただろうか。考えてみれば「災害」の象徴として終始あったように思う。1954年、最初の映画『ゴジラ』の背景には、水爆事故や環境汚染への問題提起の姿勢が作者にあったというが、その9年前の1945(昭和20)年に、原爆投下と戦争の終焉を経験した日本人は、なにを考えていたのだろう。
『ゴジラ』公開時に高校生だった私は、映画そのものというより、社会の空気としてゴジラを受け止めていた。だから、ゴジラは、地震や台風といった自然災害も含めた、災害のもたらした歴史や文化、歴史的に日本にある空気の象徴として、私の中にある。なにかうまくいえない、その形にならないものがゴジラとして姿を成し、動き出す。
海外でも非常に愛されているというが、2016年に公開された庵野秀明監督の『シン・ゴジラ』では、今私が住む鎌倉の界隈が電信柱ごと見事に踏み潰されていて、あっぱれでさえあった。この壊滅のあと、私たちはそこになにをまた生み出すのか、どう再生していくのか。今、なにがアートに求められているのか。ゴジラはずっと無言で問いかけている」(メッセージより抜粋)
■今の目にも衝撃、ゴジラ第一作
1954年制作のゴジラ第一作は、今の目にも衝撃的に映る。記者が初めて同作を見たのは80年代だが、その時以上に作品が放つ熱量が高まっているように感じた。
1954年といえば、終戦からわずか9年。復興に向けて動き出したとはいえ、まだまだ混乱が続いていた時期だろう。1954年3月1日には、アメリカがマーシャル諸島ビキニ環礁で水爆実験を実施。この実験により、爆心地から160km離れた海上で操業していた静岡県焼津港所属の遠洋マグロ漁船「第五福竜丸」の乗組員23人は全員被ばくした。
第五福竜丸事件を受けて、東宝の田中友幸プロデューサーは『ゴジラ』に向けて動き出した。田中は4月の東宝の企画会議に企画案を提出するが、上層部は「荒唐無稽、映像化不可能」と一蹴。しかし、ゴジラの企画は秘密裏に進行され、田中は作家・香山滋に原作を依頼。東宝特殊技術課の円谷英二にも声をかけ、着々と作品化が進められていった。
それから3か月後の7月、製作発表記者会見開催。だが、メディアの反応は悪く、読売新聞には「“ゲテもの映画界をまかり通る”原子怪物、東京に上陸」というゴシップ風記事が掲載されたという。
だが、11月に映画が公開されると、日本国内はもちろん、アメリカでも高い評価を獲得した。水爆実験により目を覚ましたゴジラを新兵器オキシジェン・デストロイヤーで滅ぼすという人間の身勝手さ。復興が進む東京がゴジラによって再び破壊されるという断ち切れない暴力の連鎖。被爆国として世界に発信した物語は、世界中の人々に「ゴジラとは、何か。」を考えさせたのだろう。それから70年が経ってはいるが、世界情勢が不安定な今こそ、見るべき映画ともいえるのではないか。
■人気アーティストの新作が集結
展覧会の出品作にはゴジラ第一作に着想を得た作品が多い。福田美蘭はゴジラ第一作の映画ポスターをベースに、近日公開の架空の映画ポスター《「ゴジラ」ポスター》を制作した。ゴジラ第一作の戦慄と恐怖の物語を現代が直面する問題と照らし合わせ、AI兵器による第三次世界大戦の危機を想定している。
映像メディアを用いるアーティストとして、また詩人としても活躍する青柳菜摘は、ビキニ環礁での水爆実験からわずか半年でゴジラ第一作が公開されたことと、その公開1年前の1953年に日本でテレビ放送が始まったことに着目。ゴジラと報道の歴史を重ねながら、映像作品を作り上げた。
これから先、どんなゴジラ映画が制作され、どのようなゴジラアート作品が生まれてくるのだろうか。「あのゴジラが最後の一匹とは思えない。もし、水爆実験が続けて行われるとしたら、あのゴジラの同類が、また、世界の何処かに現れて来るかも知れない」(ゴジラ第一作、山根博士の言葉)。ゴジラは今も世界を見つめ続けている。 TM & ©TOHO CO., LTD.
◆(ライター、構成作家:川岸 徹)
■「ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展」
会期:開催中〜2025年6月29日(日)
会場:森アーツセンターギャラリー
開館時間:10:00〜19:00(金曜日・土曜日は〜20:00)
※入館は閉館の30分前まで 休館日:会期中無休 お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
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元稿:JBPress 主要ニュース 社会 【話題・TM & ©TOHO CO., LTD.・2024年に生誕70周年を迎えたゴジラ・「ゴジラ生誕70周年記念 ゴジラ・THE・アート展」】 2025年05月14日 11:06:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。